居心地のいい、整った住まい。徹底した収納もいいし、しまわずに楽しく整えながら暮らすこともできる。大事なことは、自分たちのルールで暮らしを楽しむこと。アイデアとセンスを活かした収納上手を訪ね、十人十色の整理整頓術を教えてもらう連載です。

第2回に登場するのは、東京・富ヶ谷のワインバー「アヒルストア」を営む齊藤輝彦さん。店主がセレクトしたワインを片手に、お手製の料理を味わう人たちは自ずと肩の力が抜け、店内は終始穏やかなムード。そうしたお店を営む齊藤さんはどんな自宅で暮らしているのでしょう。暮らしのアイデアを覗きに、齊藤さんのご自宅を訪ねました。

気ままに気持ちよく。肩の力の抜けたコンクリートの"箱"

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齊藤さんが営む「アヒルストア」はワイン好き、おいしいもの好き、それにおしゃべり好きが集うお店。訪れる誰もが不思議とリラックスする居心地の良さは、ご自宅も一緒。

「新品のピカピカした感じって、なんだか照れくさくありません?今の住まいは5年ほど前に新築にしましたが、実は渋々の選択でした。もとは、妻の祖母が暮らした住まいをリノベーションするつもりが、耐震基準を満たせなくて。土地は受け継ぎつつ、当初は仕方なしに新しく建てました」

齊藤さんは大学時代に建築を学び、卒業後に就職したのも設計事務所。建築への造詣も愛情も深い齊藤さんが新たな住まいを建てるに当たり、掲げたコンセプトが四角いシンプルな"箱"だったそう。

2210_02_03.jpg「建築の究極的な役割って、"倒れない箱"であることだと思っていて。倒れない箱さえあれば、暮らしの中身はいくらでも足していけますよね。打ちっぱなしの建築をスタイリッシュと捉える人もいますが、僕にとってはコンクリートって、むしろ木造以上に無垢なんです」。

"打ちっぱなし"という言葉通り、素材が剥き出しの住まいはラフな表情。齊藤さんはコンクリートの四角い箱を贅沢に使い、とりわけ生活の中心を担う2階はLDKのワンフロアのみ。

「うちには"隠す収納"がほとんどないんです。隠すって、つまりは扉を付けるということ。自ずと作り込んだ家具が必要になりますが、凝ったデザインの反面、自由度が低くなると思うんです。反対に閉じたり、間仕切りしたりしないほうがずっとフレキシブル。柔軟かつ自由度の高い住まいのほうが、気ままに気持ちよく暮らせる気がしています」。

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齊藤さんの言葉通り、扉の付いた収納家具はイギリス製のスクールロッカーと、

デスクの脚としても活躍するユーズドのキャビネットのみ。扉付きの家具には書類をしまっているそう。

トントントン、グツグツグツ...。開放的なワンフロアに料理をする音がかすかに響き、次第にご飯のおいしい香りが漂い始める。想像するだけでお腹が鳴りそうな暮らしの一コマも、"隠さず見せる"を徹底した部屋づくりの恩恵なのかもしれません。

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潔く"見せる"。壁一面の本棚

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棚板の長さは6.3m、なんと継ぎ目のない一枚板だそう。「木場の木材店に足を運び、

2トンのロングトラックで運搬しました」

リビングのある2階を訪れると、広々としたLDKには壁一面に設えられた本棚が。アート本や建築関連の書籍、漫画、CDをぎゅっと背差しに並べる様子は、まるでひとつの絵画のよう。収納したいものと棚の高さを揃えることで気持ちよく収まっています。

構造そのものは至ってシンプル。店舗の棚作りでも活躍する棚柱を壁に打ち付け、棚受けを設置。棚受けの位置は可動式とあって、文庫サイズもハードカバーサイズも、棚の高さは自由自在。

色の調和と動線を考慮したキッチンラック

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カラフルな「オールドパイレックス」の並びがアクセントに。

齊藤さんが料理の腕を振るうキッチンツールも、天井から吊るすラックに並べて"見せて収納"。調味料、ワイングラス、食器などなにがどこにあるか一目瞭然の吊るされたラックは、動線もしっかり考慮されています。

リビングダイニングに面してカラフルな食器を飾るように並べる一方、調理スペース側には日常使いの食器やグラス、調味料をセット。同時に高い位置の収納ラックは、子どもの手が届きづらいところもメリットだそう。

歴史の始まりの1枚は、玄関に飾る

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玄関も潔いまでにコンクリートの壁。無垢さと無機質さが写真を引き立てます。

WALL DECOR(ウォールデコ)ミュージアムメタルA2サイズ相当

今回制作したWALL DECOR(ウォールデコ)は、ご自宅の外観を写した1枚。こちらを齊藤さんは玄関にディスプレイ。

「これは、家を建てて間もなくのころの1枚です。雑誌の撮影で、写真家の木寺紀雄さんに撮ってもらいました。年齢とともに人の見た目が変わっていくように建築も次第に姿が変化していくし、周辺環境も然り。この家がどんな風に変化していくのか。スタート地点の1枚は、いつでも目に留まる場所に飾っておきたくて」

特に周辺環境の変化は、建築に大きく影響を与えるーー 子どもの頃に繰り返し読んだ、バージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』が、その考え方のベースにあるとか。

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気取らず隠せる"ヴィンテージの木箱"

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今ではワイン業界でも貴重な存在のワイン箱。最近は段ボール輸送が主流のため、フリマアプリで

購入することが多いとか。リンゴ箱はリンゴの名産地である青森から通販したもの。

日常の細々とした雑貨はリンゴ箱とワイン箱に収納。特にリンゴ箱は深さがあり、収納力抜群。屋上では家庭菜園のプランターとしても活躍中だそう。

散らかりがちな子どもの玩具もワイン箱に隠して収納。職人の手に触れた様子がありありと残されたテクスチャーが、自宅の気取らないムードに調和しています。

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パーツさえあれば簡単に。自由でフレキシブルなDIY

「倒れない箱さえあれば、暮らしの中身はいくらでも足していける」----。齊藤さんの言葉を物語るのが、手作りの収納ラック。

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DIYなら足し算も引き算も思いのまま。その柔軟性と自由度の高さが、

齊藤さんの自宅に漂う居心地の良さの理由の一つ。

齊藤さんの最新作であるこちらのシューズラック。階段下のデッドスペースを活用し、趣味のスニーカーを美しくディスプレイ。アパレルショップさながらの仕上がりですが、「いえいえ、簡単ですよ(笑)」だそう。

理由を伺うと、答えは造作の本棚にも用いた"棚柱"。本棚はプロの手を借りつつも、シューズラックは完全なる手作り。壁に棚柱を打ち付け、棚受けと棚板をプラス。階段の傾斜に合わせ、棚板の長さが調整された見事な仕上がり!

「店舗の内装などにも使用される金物メーカーのパーツは、種類がめちゃくちゃ豊富です。我が家はクローゼットも僕のDIYですが、ハンガーポールもハンガーポール専用の棚受けもラインナップされていて、まさに技術いらず。パーツさえあれば、誰でも簡単に収納部屋が作れます」。

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ハンガーラックも棚柱のパーツを使って自作。

「ほしいから足す」という暮らしは、まさに自由でフレキシブル。齊藤さんの"作り込まない収納術"には、肩肘張らない暮らしの豊かさが詰まっていました。

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「新品のピカピカした感じ」が苦手な齊藤さんは、古いもの好き。新築の自宅の地下には驚くなかれ、戦前に造られたであろう防火水槽が。古いもの好きの齊藤さんは埋める選択はせず、地下に掘られたスペースをワインセラーとして活用。その地下空間は驚くほどに広く、まさに秘密基地の趣...。「めちゃくちゃ深いでしょう?」といたずらっぽく話す笑顔が、彼の建築愛を物語るようでした。

Photo by 斉藤菜々子

Writing by 大谷享子

齊藤輝彦さん(@ahiruani

東京・富ヶ谷のワインバー「アヒルストア」店主。大学で建築を学んだ後、設計事務所、ランチ弁当の屋台運営、ワインショップ勤務などを経て、2008年に妹の和歌子さんと共に「アヒルストア」をオープン。上質だけれど気取らない料理とおいしいナチュラルワイン、自家製パンを味わえる。

WALL DECOR(ウォールデコ)
お気に入りの写真をパネルにできるサービスWALL DECOR。どんな写真にもマッチするシンプルなデザインで、飾る場所も限定しません。齊藤さんは、ミュージアムメタル A2サイズ相当を「ホワイトマット」の表面加工で制作。
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