野山に咲く日本古来の草花や木々を集め、季節の新たな楽しみ方を提案する京都・北区に佇む小さな花屋「みたて」。前編では、こちらをご夫婦で営む西山美華さんに植物や写真を空間に「飾る」ことについてお伺いしました。
一児の母でもある西山さんは、ご自身のInstagramで、小学生の息子さんとの日々があたたかな目線で綴られています。料理や工作など幼少期から手を動かすことが大好きな息子さんですが、近年熱中しているのは写真なのだとか。それも、夏休みの自由研究はフィルム写真をテーマに制作したというからますます気になります。
後編では、そんな息子さんの自由研究を入り口に、便利な今の時代だからこそ大事にしているという西山家の子育ての価値観について伺いました。
>前編の記事:植物も写真も"飾る"ことはおもてなし。わたしの「写真と、ちょっといい暮らし。」西山美華さん前編
小学2年生の自由研究。テーマは「フィルム写真」
----息子さんがフィルム写真の自由研究をされたと聞きました。どんな内容だったのでしょうか?
西山さん:小学2年生の夏休みに息子が作ったものです。少し前から写真に興味を持ちだしたので、フィルムカメラを買ってあげました。以来、カメラや写真について親子で話す機会が増えて。自由研究でまとめてみようか、となりました。
----プリントされた写真にそれぞれコメントが書かれていますね。写真の元になったネガフィルムも貼り付けてます。その他にカメラのデッサンや、カメラの歴史を紐解くページも。構成やレイアウトの発想も自由で、大人が見てもおもしろいですね。
西山さん:プリント数枚をパノラマ写真のように横並びに貼ったり、写真を切り取りコラージュして遊んでいるページもあります。カメラの歴史は、雑誌のカメラ特集から誌面を切り抜いて作っていました。
----なんとピンホールカメラで撮影した写真まで・・・!
西山さん:そうなんです。ピンホールカメラは2台作りました。まずは雑誌の付録のキットを組み立てて。それから、家にあった缶を真っ黒なスプレーで塗ってもう1台を自作していました。そして現像も息子の部屋を暗室にして挑戦してみたのですが、うまく行かず。息子も「あー撮れてないやん!難しいんやな...」と良いリアクションをしていましたね。
----最後のページの感想には「フィルムカメラで成果を出したいです」とありますね。もしかしたら現像がうまくいかなかったのが悔しかったのかも。次に繋がっていますね。
西山さん:そうですね。これに限ったことではないのですが、時には夫や私がスパイス(アイデア)を与えることもありますが、基本は彼に任せるようにしています。それがたとえ上手くいかなかったとしても。その上で、子どもが自由にやったことを「どう生かしてあげられるか?」というのが、親がやってあげられることだと思っています。
美しい写真ってなんだろう?
----カメラや写真ってデジタルではとても身近な反面、仕組みや根幹については、大人でも知らないことが多いですね...
西山さん:私も学生時代にフィルムカメラで撮影して自分で現像したり、インスタントカメラ「Instax<チェキ>」で友人のポートレイトを撮影したものをアルバムにまとめたりしていました。でも、ピンホールカメラを作ったことはありませんでした。自由研究を近くで見ていて私自身も色々と勉強になりましたね。
----西山さんご自身も写真には親しんでこられたんですね。今回息子さんの自由研究を通じてどんな発見がありましたか?
西山さん:ちょうど東京での個展に合わせて来日中の写真家のHenry Leutwyler(ヘンリー・ルートワイラー)さんがご近所さんの家に数日間滞在していて。この自由研究ノートを見せたらすごく褒めてくださいました。同時に、彼の写真集も見ながら「美しい写真」とは何か?という議論になったんです。
息子はノートに「ブレてしまった」「うまく撮れた」などとコメントを入れていますが、ヘンリーさんの写真にはブレているものも多いし、そっちの方がよかったりもする。「写真の失敗って一体誰が決めるんやろ?」という思いがこみ上げてきて。
もしかしたら、息子も今は「失敗」と思っている写真を、大人になったら「良いやん!」て思うこともあるかもしれない。「美しい写真って?」という問いは、これからもずっと考えていくんだろうなと思います。
なんでも本質から触れさせてあげたい
----子どもが写真に興味をもった時、身近にあるスマホやデジカメを手渡してしまいそうな気もしますが、なぜフィルムカメラだったのでしょうか?
西山さん:夫とは子育てについてもよく話すのですが、2人に共通するものとして、なんでも「本質から教えてあげたい」という想いがあります。今って便利なもので溢れていて、それがどうやってできたのか?どこからきたのか?何も知らないままに使っていることが多いと感じます。その様々なプロセスを飛ばして便利なものから始めるのではなく、本質から触れさせてあげたいと思っています。
----確かに。まず便利なものに慣れてしまうと、原初のものに戻るのはなかなかハードルが高そうですね。
西山さん:そこに「不便さ」を感じてしまうからですよね。不便なものと便利なもの、そのどちらも知っていると人生の選択肢も増えます。カメラならデジカメではなく、影絵やピンホールカメラから始めて、インスタントカメラ、フィルムカメラといった順に触れさせてあげられたら、と思っていたので「一緒にやってみようか」と声をかけたのが、この自由研究の出発点になりました。
子どもの感性と創造力を大事にしたい
---- Instagramを拝見すると、息子さんの創作意欲にいつも驚かされます。お料理や工作や絵を描くことが大好きで、「みたて」で開催される「まんさくはなぐるま」という特別企画も行なっていますよね。
西山さん:私も夫も自分で手を動かすのが好きだし、息子にも作ってほしい、という想いがあります。「まんさくはなぐるま」は息子が「みたて」の店頭で不定期にオープンする花屋さんです。ショップカードやオリジナルマッチは息子と私で一緒に作りました。第2回目も近々できたらと思っています。
----まさに、子どもが自由にやることを生かしてあげる、ですね!親はそのサポート役にまわっているのですね。息子さんの創作意欲はどこからきているのか気になります。
西山さん:物や情報がないから自ら創作する、ということはあると思っていて。我が家にはテレビがなく、既製品のおもちゃもなるべく持ち込まないようにしているんです。息子が小学1年生の時、印象的な出来事があって。
新型コロナで学校に入学したものの登校できない期間が数か月間続きました。友達に会えず、家にある物も遊びつくし、時間を持て余していた時に、息子が何を思ったかその辺の石ころを砕いていたんです。それから、水を足して絵を描き始めました。「ついに石を叩きだしたか」と思いましたね。
----絵の具になることに気づいたんですね。古代人がはるか昔に発見した、顔料の始まりですね。
西山さん:自然のものにはそれだけ可能性があることがわかりました。既製品のおもちゃは遊び方が決まっていて、それでしかない。なかには分解する子もいるかもしれませんが、石を砕こう、という所まではいかないと思うんです。そういう子ども時代の感性や自分で得た発見を大事にしてあげたいなって思います。
----成長するにつれ、物や情報に触れる機会はいくらでもありますもんね。
西山さん:今は小学校の授業でもiPadを使って行われているほどです。外では簡単に触れることができるのだから、テレビもパソコンもスマホも自宅ではしないよ、と伝えて息子も理解してくれています。
----工作も料理も、基本は残らない作品とも呼べますね。そこには、その時々にしか成り得ない儚い美しさを感じます。
西山さん:そうなんです。身近なもので作って、基本は残らないものばかり。息子が作った寄せ植えもそうです。一度花と苔を植えて楽しんだ後は、お庭に植えて。器はまた植える遊びもできますが、違うことにも使えます。
----作って、壊して、また作る。日々のそれらを切り取った西山さんの写真が多くの人の心を惹きつける理由がわかった気がします。
Photo by 斉藤菜々子
Writing by 池尾優
西山美華さん(@nishiyamamica)
2013年に京都市北区紫竹に季節の花を扱う花屋「みたて」を夫婦でオープン。山野草に合う骨董なども取り揃える。雑誌『&Premium』にて、「花屋〈みたて〉に習う、植物と歳時記 折々に見立てる京の暮らし」を連載中。アパレルショップ、料理屋、宿などのいけこみや全国発送なども行う。