ナチュラルで透明感のある表情、ストーリーを感じさせる奥深さ、そして爽やかでのびのびとした青の表現。ポートレートを中心とした作品で注目を集めるフォトグラファー・酒井貴弘さんがカメラを仕事にしようと志したのは今から3年前、29歳のとき。

スタジオ勤務の傍ら、作品の発信の場として始めたInstagramには印象的な人物写真が並び、2年間でフォロワー数は6万人超え。「被写体の持つ魅力を引き出したい」と話す酒井さんに、撮影時に意識していることや写真に込める思いを伺いました。

ポートレート撮影の魅力と、作品としての被写体選びのポイント

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WALL DECOR/カジュアル A4サイズ相当、A3スクエアサイズ相当

―Instagramに載せている写真の多くが人物を被写体にしたものですね。ポートレートをメインに活動されているのはなぜでしょうか?また作品として掲載されている被写体を選ぶ際のポイントを教えてください。

酒井さん:風景の写真も撮ることはありますが、人物撮影ではよりライブ感を感じることができます。撮影時のコミュニケーション次第で、モデルさんの表情や雰囲気も変わるので、「ここだ!」という一瞬を収める楽しさと言いますか...「現場で作り上げていく」という感覚が好きなんです。

Instagramに載せている写真はほとんどが「作品」として撮ったもの。作品用の撮影モデルの依頼もInstagramを通じてすることが多いです。被写体を選ぶ時は、「自分のイメージに合う人」をベースにしていますが、逆に「自分の中の新しい写真」が撮れるんじゃないかと感じる人に依頼をすることもあります。その時は「自分の知らない表現を引き出してくれそうだな」という直感と、「この人の違った一面を写真で引き出してみたい」というワクワク感を重視しています。

その人が持つ多様な表情を写真で引き出す

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―酒井さんの作品は、被写体の「楽しい」「嬉しい」などの溌剌とした表情から、アンニュイでミステリアスな雰囲気をまとった表情まで多彩です。こういった表情も「その人が持つ一面」ということなんですね。

酒井さん:そうですね。その人の持つ、いろいろな表情や魅力を引き出したいという気持ちで撮影に臨みます。撮影中は細かい指示はあまり出さず、自然に動いてもらうことが多いです。その人の「いつもの」状態で、自分が撮ったらどう映るのか、チャレンジ的な部分もありますね。

見る人の心を動かす写真を目指して

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―今回ご提供いただいた水辺の一枚は、モデルさんの髪や水面に光が当たっていて、場所の清涼感や瑞々しさを感じますね。

酒井さん:この写真は、自分の好きな光を表現したものです。光の入り方にも出来る限りこだわって、透明感やキラキラした表現がバランスよく出せるように意識しました。

フォトグラファーとして目指していることの一つに、"作品を観てくれた人に「きれい」や「素敵」以外の感想を持ってもらえたら"というのがあって。「この写真、いいな」のその先にある思いを引き出したい。

以前、フランスに旅行した時、オルセー美術館で観たモネの「日傘の女」がすごく印象的で。その絵に向き合った瞬間、「風」を感じたんですよね。絵画なので止まっているはずなのに動きを感じたんです。そのときに写真でもそういう表現をしてみたいと強く思いました。

191003_3.jpg桜の木の下で撮影した1枚は、モネの「日傘の女」をオマージュしたもの。「あんな風に撮ってみたい」という思いから試行錯誤することも、スキルアップのための大切なアクションのひとつだそう。

普段は「こういうのが撮りたい」とイメージを描いて、それに向かって作品にアウトプットすることが多いです。自分は「表現が降りてきた」「急に閃いた」というような天才型ではないので(笑)。絵画や映画、他のフォトグラファーさんの作品を観るなど、インプットの時間も大切なんです。

屋外撮影の面白みと、印象的な青色の表現

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―海を背景にした女性の写真(提供写真)は、空の青、海の青、そして白い布が夏の開放感とか、「風」を感じさせてくれますよね。

酒井さん:これは実際、撮影した日が強風だったんです(笑)。天気は良かったんですが、予想外に風が強くて...モデルさんに布を頭からかぶってもらって、あとは文字通り風まかせで撮りました。屋外での撮影は、こういった予期できない気候の変化に合わせて撮影しなければいけないことも多く、「この強風をどう生かすか」を考えるおもしろみもありますね。

青の表現については、「緑よりの青」に調整することが多いです。特に強いこだわりはなくて、被写体や場の空気感が伝わるような、それでいて「自分が気持ち良いと感じる」色に落ち着いています。撮影する季節や時間帯によっても色みの表現は変わってくると思います。

表現のための写真と、記録のための写真

―今年お子さんが生まれて、9月からはフリーランスに。環境の変化は写真にも現れてくるのでしょうか。

酒井さん:そうですね。僕は、写真は撮る側の人間性を反映してくれるものだと思っていて。そう考えると感情や環境の変化も写真に出てくるのかもしれません。

今まではポートレート以外では旅先などの風景写真を撮ることが多かったのですが、子どもが生まれてからプライベートで家族写真を撮る機会も増えました。今後は「表現」のための写真だけでなく、「記録」として家族や風景を撮っていきたいです。

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―素敵なお話をありがとうございました。最後に今後の展望や新しく挑戦してみたいことについて教えてください。

酒井さん:現在はInstagram経由の仕事が多いです。具体的には広告の人物撮影や企業のプロフィール写真の撮影、コラムの執筆をしています。今後はSNS経由以外の仕事も増やしたいですね。幅広く活動していきたいです。




酒井貴弘さん

フォトグラファー/1986年生まれ。長野県出身。CM制作会社にて動画編集、グラフィックデザインの仕事を経てフォトグラファーに。3年間、フォトスタジオで勤務し、2019年9月より独立。広告の人物撮影や企業のプロフィール写真を手がける他、WEBマガジンでコラムの連載も行っている。

Instagram:@sakaitakahiro_




Photo by 土田凌

Writing by 佐藤有香

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