これまで訪れた国は30か国以上。暮らすように旅をしながら写真と言葉を発信し続けるトラベルグラファーの古性のちさん。のちさんを通して写し出される旅の写真と言葉は、どうしてこれほどまでに多くの人を惹きつけるのでしょうか?その理由に迫るべく、のちさんに旅と写真についてお話を伺いました。

写真だけでも、言葉だけでも足りない。
組み合わせたことで見えた、自分らしさ。

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---- まずは、旅をしながら写真や言葉を発信するようになった経緯について教えてください。

のちさん:写真を撮り始めたのは8年前くらい。当時は美容師をしていて、ただ「写真が好き」という理由で撮っていました。そのうちにただ写真を撮るということに飽きてしまって、2年くらい写真を撮らなくなった時期があったんです。同じくらいの時期に美容師からWEBデザイナーに転身したのですが、デザインだけじゃなくて文章を書く機会もあったので「私は写真も撮るし、写真と言葉を一緒にデザインしたら楽しいかも」と思いついて。写真と言葉を掛け合わせて発信するということは、自分ではとても自然な流れで始めたことでした。

「写真と言葉」の写真の部分で旅の風景が多いのは、小さい頃からずっと旅をして暮らしたかったから。学生時代、集団生活が苦手だったので、漠然と「会社員になるのは向いていないかも...」と思っていたんですね。そんなとき、たまたま本屋さんで見かけた高橋歩さんの本を読んで「会社に通わずに旅をしている。こんな生き方をしている大人っているんだ!」と衝撃を受けて、そこからは「歩さんのように、旅をしながら生きていきたい!」と強く思うようになりました。

---- 美容師からWEBデザイナーへ転身。職種は違えど、「旅をしたい」という強い思いが一貫してあったのですね。

のちさん:そうなんです。だから、そもそも美容師という仕事を選んだのも、旅をしながらできる仕事って何だろうと考えたときに「美容師なら、ハサミ1本あれば世界中どこでも仕事ができるな」と思ったから。でも世界中どこででもできる仕事だというのが美容師になりたい理由だったので、働くうちに「美容師の仕事自体には、興味を持てていないかもしれない」と思うようになったんです。「じゃあハサミを別のものに持ち替えて世界を旅するにはどうしたら良いんだろう?」と考えた結果、「時代はパソコンだ!」と思いついて、それがデザイナーに転職した理由なんです。

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忘れられない、初めての世界一周。
不安を拭えたのは「写真と言葉」があったから。

---- 2016年、会社を退職して3週間後に出発したのが世界一周の旅だったというのちさん。8か月ほど旅をし、そこからこれまでさまざまな国を旅してきたと思いますが、これまでの旅で忘れられない国や印象的だったエピソードはありますか?

のちさん:やっぱり、初めての旅で行った世界一周は忘れられない思い出ですね。なぜなら全然楽しくなかったから(笑)。分からないことばかりだし、ごはんも日本のほうが美味しいしで、もう帰りたくて帰りたくて...。そんな状況から毎月のように旅に出るほど旅好きになったのは、写真のおかげなんです。「旅人」と呼ばれる人たちって、好奇心旺盛でポジティブな人が多くて、平熱が高めな人が多い印象なのですが、私はお家大好き人間で旅先でも部屋にいることが多いんですね。旅のイメージって前者だと思うのですが、私は大変なことや帰りたいみたいな気持ちも隠さずに写真と言葉にして発信しました。そうしていくうちに見てくれる人や応援してくれる人が増えていって、帰りたい気持ちよりも伝えたい気持ちが強くなっていき、世界一周することができました。

最近お気に入りの都市は、去年の5月まで住んでいたバンコクですね。自然が多くて人も温かくて、古き良き日本の時代のような空気があってとても気に入っていました。タイ人はインスタが大好きで、いかに可愛いものと一緒に写真を撮るかに命をかけているところも好きですね。カフェもエディブルフラワーまみれのケーキとか、内装が全部真っピンクとか、クオリティが高くて写真の世界観作りをする上でも勉強になりました。

心奪われる、ときめきブルー。
「青色」との出会いが旅を変えた。

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WALL DECOR(ウォールデコ)
同じ「青」でも、どれも絶妙に異なる写真。最も大きいサイズで印刷した気球の写真は、トルコのカッパドキアで撮影したという、のちさんお気に入りの1枚。「ハイシーズンだと100個くらい気球が飛ぶスポットのなか、遅れてポツンと飛んでいる気球を発見。寝坊しちゃった観光客が駆け込みで乗っているのかな?私と一緒だな、と思って撮った1枚です」(のちさん)

---- のちさんの写真といえば、青い色が印象的ですよね。今回「WALL DECOR」に選んでくださった写真も、色々な青が表現されていて素敵ですね!どんなテーマでこれらの写真を選んでいただいたのでしょうか?

のちさん:テーマは「地球」、「旅」です。これまで旅してきた場所のなかから地球を感じるブルーをイメージしつつ、青のトーンが合う写真を選びました。写真を選ぶときは、写真よりも添える言葉から入ることが多くて、「この言葉を添えたいから、それに合う写真を選ぶ」みたいなやり方が多いです。写真をずらっと並べて、パズルみたいにのせたい言葉に合いそうな写真をひたすら選んでいきます。

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こちらは、横浜で撮影した写真。「地元が横浜なので、『自宅から世界へ』みたいなイメージで出発の思いを横浜の写真に込めて選びました」(のちさん)

---- 青色には、思い入れがあるのですね。青という色は、のちさんの写真において、どんな存在ですか?

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のちさんのInstagram@nocci_trip)の一部。さまざまなトーンで表現された「青」の写真が並ぶ。

のちさん:青色は元々好きな色だったのですが、写真でも青色を意識するようになってから旅がより楽しくなりました。きっかけは、富士フイルムのカメラで初めて海を撮ったときに、青色がすごくきれいに映ったこと。私は、青色のなかでもブルーグレーのようなくすんだ色味が好きなのですが、それまで使っていたカメラだと青色のイメージがいつも理想と違っていて、レタッチでかなり調整しないと思い通りの青色にならなかったんですね。でも富士フイルムのカメラに変えたら理想の通りの青色が出て、撮った後の想像もしやすくなったのが嬉しくて。カメラに変える前は旅行に行っても一週間で300枚くらいしか撮っていなかったのが、60,000枚くらい撮るようになったくらい、写真がすごく楽しくなりました!

---- 「旅をより楽しいものにしてくれた」という、カメラについても教えてください。どんな所がお気に入りですか?

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のちさん:カメラは富士フイルムの「X-T3」です。Xシリーズは色々あるのですが、とくに好きなのは、見た目です。富士フイルムは元々フィルムの会社なので、フィルムカメラの名残りがあるのですが、このレトロな見た目がたまりません!カメラって、もちろん撮り心地や色味なども大事だと思うんですけど、「見た目が好き」というのも私のなかで重要なポイントです。お気に入りの洋服やピアスとかと一緒で、見た目が好きだと一緒に出かけたくなる。カメラを持って出かければ、自然と写真を撮るようになりますよね。だからカメラの「顔」が好みかどうかは外せません。

非日常のなかで見つける、日常のきらめき。
五感を研ぎ澄ませてシャッターを切る。

---- のちさんの写真は、旅の"空気感"が伝わってくるような印象を受けるのですが、旅先で写真を撮るときに気を付けていることや、譲れないこだわりなどはありますか?

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のちさん:私のなかで、旅と日常って「そんなに変わらないもの」という意識があるんです。だから半径1メートル以内で起きていることにシャッターを切ることが多いですね。手で触れるくらいの距離感というか...。例えば、大きな海や有名な建物とかではなく、旅先で出会って仲良くなった現地の人を撮るというように、「日常の延長線上に旅がある」といった意識が強いので、それが写真に現れているのかもしれません。でも、旅を始めたばかりの頃は私も「ザ・旅行」という分かりやすい写真を撮っていました。2,3年前の写真を見返すと、今とは被写体や色味が全然違って、自分の気持ちや考え方が変わっているのがよく分かります。

気を付けているのは、五感が鈍らないようにすることです。具体的には何かをする時、「これ、仕事につながるかも」と考えるのをやめるようにしました。打算的なことばかり考えていると、本当に自分が好きなものが見えなくなっちゃって、分からなくなる。そういうことって多いなって気がついたので、五感が閉じないよう、いつまでもまっすぐな気持ちで写真を撮れるようにしようと常に意識をしています。

---- 最後に、のちさんにとって「旅をしながら写真を撮る」ということはどんな意味をもっているか教えてください!

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のちさん:ごはんを食べるのと同じ感覚かもしれません。今回の「WALL DECOR」で、「呼吸をするように旅をしている」という一文をのせましたが、ごはんって当たり前に食べるじゃないですか。旅先での写真も同じで、私のなかでは撮る撮らないを考えるものではない存在です。

旅に関わらず、写真を撮る人と撮らない人では「幸せ指数」が変わってくるんじゃないかなというのも感じています。以前はただ道を歩いているだけだったけど、カメラを持ってからは新しい店の看板や落ちている植物の影とかを意識的に見るようになって、「いつもの道って楽しいんだな」と実感したんです。日常的に写真を撮ると、幸せを見つけるのが上手になるので、みなさんにおすすめしたいです!

古性のちさん、素敵なお話をありがとうございました!

古性のち

1989年生まれ。トラベルグラファー・バイヤー・ライター。「ときめき収集家・編集者」として世界中に眠るときめきの種を集めながら旅をしている。今まで旅した国は20か国34都市。現在は1年のうち半分を日本、半分を世界(旅)に軸足を置いて生活している。

Twitter @nocci_84
Instagram @nocci_trip

Photo by 土田凌

Writing by 大西マリコ

WALL DECOR(ウォールデコ)
お気に入りの写真をパネル加工できるサービス。今回は写真を絵のように飾ることができる「キャンバス」タイプをチョイスしました。木枠に打ち付けられたキャンバス地のデザインが◎で、お部屋をおしゃれにランクアップしてくれます。サイズのバリエーションも様々で、メリハリを持たせてバランス良く飾りたいときにもぴったりです。
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