ドイツ・ベルリンに住み、写真家・アーティストとして活動する山田梨詠さん。今回はドイツ在住歴12年の山田さんに、ご自身の作品づくりについてやドイツでの暮らしを、写真と言葉で綴っていただきました。毎週末訪れるという蚤の市のこと、美術館や公園での過ごし方など...。現地で暮らす人々の生活を紐解いてみると、アートが息づく街ベルリンならではの姿や、暮らしを豊かにするヒントが見えてきました。

現地の美大に通うために。ベルリンへ赴く

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2013年の秋、美大に入学するためにベルリンへ引っ越してきた。コロナによる延長や休学を含めると気づけばもうすぐ9年在籍していることになる。学生をしながら制作活動をしてきた私も、今夏に控えた最後の卒業プレゼンを経て、長かったドイツでの学生生活に終止符を打つ。

「家族写真」から紐解く、これからの家族の姿

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山田さんの作品。実際の家族写真(右)をもとに 自身で演じて、セルフポートレートで再撮影。

私は「家族写真の再構築」をテーマに卒業制作に取り組んでいる。膨大な数の古い家族写真を集めては、その家族の背景を知ることから始まる。できる限り読み解くことができたら、写真に写る老若男女をすべて自分で演じ、セルフポートレートで再現する。

それは、「家族」や「家族写真」について改めて振り返る機会になったり、これまでの常識が変わろうとする今、枠にとらわれない自分らしい"家族のかたち"を見いだすことができると思ったからだった。

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「家族」は、その時代や歴史をありありと映した鏡のようなものであり、「家族写真」もきっと同じだろう。

"結婚=家族"ではない。結婚しなくともパートナーとして家族を築いていたり、シングルでいても世の中から圧迫されることは少なく、性別問わず、自由に婚姻関係を結ぶことができる。さまざまな形の家族になれるということは、特にドイツに来て感じたことの一つだ。

100年ほど前の「家族写真」。一枚からみなぎる写真の力

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作品づくりの資料として、蚤の市で収集する写真のアルバム。これはごく一部。

100年ほど前の家族写真を探していると、裏側がポストカードになっているものとよく出会う。アンティークショップの店主に尋ねれば、遠くに離れた家族や友人に写真を送るために現像屋さんに注文をしていたのだと教えてくれた。

今のようにスマホやコンピューターのない時代は、フィルムカメラで撮影した写真をプリントして、家に飾るという風習も強かったそうだ。

一枚の写真を撮るのに、時間とお金と労力が随分とかかった。そのため写真からは、エネルギーや想いが滲み出ていて、ハッとさせられることもある。家族写真のような極めてプライベートな写真を取り扱う責任を感じることもあるし、家族の物語を大切にしたいと思いながら作品を制作している。

自宅での時間を大切にする。静かに過ごすドイツの日曜日

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ドイツに来て最初に驚いたことがある。それは日曜・祝日は、スーパーやデパート、小売店などほとんどのお店が閉まっていること。もともとは国民に日曜礼拝に行かせるため、1600年以上前に制定された法令だったという。現在の「閉店法」は、戦後の1956年に制定され、日曜日はお店を閉めることが定められている。(飲食店、パン屋さん、花屋さんは営業が認められている)。

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友人宅を訪問すると、ポスターやポストカード、写真など

こだわりの作品が飾られている光景をよく目にすることがある。

なのでドイツでの日曜日は、ゆっくり起きてブランチを食べたり、散歩に出かけたり、友人や家族が集まって家で食事をしたり。自宅での時間を大切にする人が多く、それは、部屋のインテリアをこだわったり、快適にすることに繋がっているように思える。

ベルリンの週末は、蚤の市へ

ベルリンでは週末に蚤の市があちこちで開催されるので、毎週土曜日の朝は、蚤の市に出かけることからスタートする。不用品を売る人、洒落たヴィンテージ雑貨を取り扱う店や遺品整理業者など出店者はさまざま。

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蚤の市へは、制作に使う古い家族写真を集めたり、撮影のための衣装や小道具の調達のために訪問。

こだわりの家具や雑貨を探すのも好きだが、何より新しく出会う家族写真が楽しみでこれからも蚤の市巡りはやめられない。

セカンドハンドのインテリアや家具、洋服などを探しにいく人も多い。新品のものにこだわるのではなく、古いものの中から自分だけのお宝を探す。お金をかけて生活を豊かにするのもいいけれど、ドイツの人々はお金をかけなくても暮らしを楽しむ方法を知っているのだと思う。

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先日は、地元の写真を探しているというおじさんと出会った。彼曰く、古い家族のアルバムは、戦争で失われてしまい

彼自身は見たことがないそうだが、昔の地元の風景を自分なりに残したくて写真を収集していると教えてくれた。

蚤の市では、写真や絵が収められたフレームや古い写真を丁寧に眺めている人によく出会う。目が合うと「何を探してるの?」とか、「それどうするの?」などたわいもない話をする。

ドイツでの暮らしを通して思うことは、ひとりひとりが自分の時間や空間を大切にしつつも、人との距離が近い。その距離感は心地よく、知らない人と目が合った時に微笑み合うだけでもなんだか嬉しい気持ちになる。こういう小さなことだけれどあたたかい瞬間がシンプルに素敵な国なのだ。

誰もがアートを楽しめる街、ベルリン

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ベルリンでは至る所にギャラリーが点在し、毎週末どこかしらでオープニングパーティーが行われては人々が集まる。アーティストのファンだけでなく、学生や仕事帰りのサラリーマン、子供連れの家族など、年齢もバラバラ。面白いのは、誰もがアートを楽しめる場が提供されていること。

先日行った展示のオープニングでは、廃墟のような風変わりなアートスペースだったこともあり、焚き火を囲んでお酒を飲みながら作品について話したり、世間話をする人たちで溢れかえっていたのが印象的だった。

昨年からは「Museumssonntag (美術館の日曜日)」という名で、ベルリンの約60の美術館や博物館が、毎月第1日曜日に無料で解放されている。ベルリンの街では、コロナ禍で疎遠になってしまった美術や文化的な財産にたくさんの人が触れ合える機会をつくっている。

子どもにとっても身近なアートの存在

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ベルリンの中心部には世界遺産に登録されている「Museumsinsel (美術館島)」と呼ばれるエリアがあり、名前の通り川の中洲に美術館や博物館が集まっている。

先日は久しぶりに美術館島にある「ボーデ美術館」と「新博物館」を訪れた。「新博物館」には小学生のグループがたくさんいて、子供達が課外授業で作品についてディスカッションしたり、先生に質問をしている光景に出会う。

子供であってもアートを通じて見出すものがあったり、新しい感覚や感情を得たりする。彼らにとってもアートは生活の延長にある、身近な存在なのだ。

外でビールをたのしむ、ドイツの夏

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ドイツ語に"Feierabendbier"という言葉がある。ドイツ人たちもよく口にする"仕事終わりに飲む一杯のビール"という意味だ。ドイツの夏は、日本ほど暑くなく過ごしやすいので、仲間と外でビールを飲む習慣がある。

夕方の公園はどこからか人が集まり、地べたに座りお酒をたのしむ。勤務時間もフレキシブルな人が多いようで、朝早くから働いて16時には退社する人もいる。バーでも外に座って飲む人がほとんどで、近所に構えるベルリンで一番老舗のビアガーデンは、早くから遅い時間まで賑わっている。

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先日、公園で撮影をしていると友人に出くわし、これから飲まないかと誘われることもあった。

まだ17時なのにと思いつつ、撮影中だったので、とても羨ましかった。

夏の外飲みはわたしにとってもドイツで好きな時間のひとつだ。

反対に、冬の日照時間はとても短いため、必然的に家で過ごす時間が長くなる。だからこそ、好きなアート作品や気に入ったインテリアに囲まれた空間にして、過ごしやすくし、極寒の冬がやってきても豊かに過ごせるのだと思う。

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暗くて寒い冬を嫌がる人が多いけれど、わたしにとっては制作に集中できる期間。

心が閉じてしまわないように気をつけながら、自分自身や作品と向き合うとても大切な時間。

ドイツの住居の天井は高く余白があり、賃貸でも壁に釘を打つことができる。これもきっと部屋に写真や絵などを飾る人が多い理由のひとつだろう。何より一番は、訪問者にとっても、自分にとっても、居心地のいい空間づくりを楽しんでいるんだと思う。床やシェルフの上に置いて壁に立てかけるスタイルでお気に入りのアートワークを飾る人も多いし、自分なりの見せ方を考えるのもドイツの人々にとって有意義な時間なのだ。

Photo & Writing by 山田梨詠

山田梨詠さん(​​@rie_bergfeld

写真家、アーティスト。愛知県生まれ、ベルリン在住。2011年に渡独し、ベルリン・ヴァイセンゼー美術大学に入学。「Familie werden (家族になる)」でドイツ写真新人賞をはじめ数々の賞を受賞し、世界10か国で展示された。2020年に修士課程修了、現在同校のマイスター課程に在籍しながら活動している。2022年秋にセルビア・ノビサドで個展を開催予定。ファッションやカルチャー分野とのコラボレーション作品の制作も行っている。

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