心動かされる風景に出会える「旅」は、シャッターチャンスの連続。たくさん写真を撮って大満足で家に帰るものの、何度か見返して終了...と、写真を撮影した「あと」をうまく楽しめていない人も多いのではないでしょうか?
そんな方のために今回は、撮影した写真の活用法についてご紹介いたします。「山で撮った写真をハンカチにする」というユニークな方法で写真撮影後も楽しんでいる、山岳収集家の鈴木優香さんに、お話を伺いました。風景写真の撮り方のコツも教えていただきました!
登山の思い出と山の美しい表情を「カタチ」にして残したい。
たどり着いたのが「ハンカチ」だった。
− 「MOUNTAIN CLLECTOR(マウンテンコレクター)」は、登山中に自身で撮影した写真をハンカチにするというプロジェクトとのことですが、どんなきっかけから始められたのでしょうか?
鈴木さん:登山中に撮った写真が増えていくにつれて、「自分の中だけで山の写真を保存しておくのがもったいないな」と思ったのがきっかけです。2011年にアウトドアメーカーのモンベルに入社したのを機に山登りを始めて、登山に慣れてきた2012年頃から山を登りながら写真も撮るようになりました。撮った写真は一応データに保存してはいたのですが、登山と撮影を続けていくうちに写真を使って何かカタチに残したいと思うようになったんです。
− 登山しながら写真撮影を楽しまれていたのですね。カタチに残すものとして、「ハンカチ」を選んだのはどうしてですか?
鈴木さん:もともと美大に通っていて、大学では布を扱う作品を作っていました。入社してからも、テキスタイルの柄を作ったり洋服のデザインをしたりと、ずっと布に関わる仕事をしていたんです。だから私のなかでは、「布にプリントする」というのが一番自然な流れだったというのが大きいですね。ハンカチにしたのは、シンプルな正方形で最小のプロダクトになるというところと、端を縫っただけで商品として成立するので写真の綺麗さを一番活かせると考えたからです。
ハンカチとしての機能性は重視しない。
表現したいのは色、透け感、光。捉えどころのない山の表情。
− 確かに写真がとても綺麗に見えます。透け感もあって、思わず飾りたくなってしまう美しさですね。
鈴木さん:そうなんです。光にかざすと、透けて色がちょっと変わって見えたり、畳んでいくと色が濃く見えたり...。色の変化が楽しめるように薄手にしています。一般的なハンカチだともう少し厚手で、しっかりと水分を拭き取れるといった機能性が求められると思うんですけど、私の場合、あまり機能性は重視していません。使い方をハンカチに限定せず、いろいろな使い方ができるように、プロダクトそのものにあまり意味を持たないものにしたかったんです。山の景色も、光の具合によって見え方が変わりますよね。そんなふうに、山の捉えどころのない感じも表現したくて、薄い布で作っています。
すぐに見返せる時代だからこそ、撮った写真は"寝かせる"。
寝かせた写真を見返すことで蘇る、リアルなわくわく感。
− 2012年から山で写真を撮り続け、6年以上経つと思いますが、撮った写真はハンカチにする以外にどのように楽しんだり活用されたりしていますか?
鈴木さん:今はデジタルの時代で、データだけで写真を保存している人が多いと思うんですけど、私はずっともの作りをしてきたので、やっぱり「カタチに残したい」という思いが人より強いです。だから写真も、現像して手元に残しておきたいと思うタイプです。写真はフィルムカメラで撮っていて、ネガも増えてきたので、これから個人的な写真集や本なども作ってみたいと思っています。
− ハンカチにプリントする写真はどのように選んでいますか?
鈴木さん:冷静に考えられるように、まずは少しの間寝かせます。撮ってすぐだと写真1枚ごとに思い入れが強すぎて、全部プリントしたくなってしまうので(笑)。現像自体もフィルム1本ずつ出すのではなく、まとまってから出すので、山に行ってから1、2ヶ月後に写真になって戻ってくる感じです。そこからさらに寝かせるので半年くらいは置きますね。
今は、写真を撮ったらすぐ見返せるし撮り直せる。だからこそ、少し時間が経ってから見ると感動があるなって思っているんです。タイムカプセルが戻ってきたみたいな気持ちになるんです。待つ楽しみもあるし、改めて写真を見ることで数ヶ月前の山を思い出すことができて、楽しみが広がります。
山の写真を撮るうえで、鈴木さんが大事にしているもの
登山と、その途中で出会う風景に魅了されてシャッターを切り続けていると言う鈴木さん。自身を「登山写真家」ではなく、「山岳収集家」と称するのは、あくまで「登山を楽しむことが一番」だからだと言います。根底にあるのは、「山にある景色を集めたい」という気持ち。だからこそマウンテン"コレクター"なのですね!
そんな山と写真を愛する鈴木さん、登山撮影時はどんなことを意識されているのでしょうか?ポイントを教えてもらいました。
●その時にしか出会えない風景を大切にする
「写真家の方は山頂で何時間も粘って写真を撮ることもあるそうですが、私はあまり待ちません。たまたまそこが曇っていたら曇っている状態で撮るし、自分が行ったときの状況を素直に切り取るように撮影しています。そうすると、後から見返したときに思い出も一緒に蘇ってくるので、出会いを大事にしています」
●構図にこだわらない
「自分の目で景色を見つつ、これは残したいという景色があったら撮るという感じで"気持ち"を大事にしているので、構図にはあまりこだわりません。写真にばかり集中していると登山が楽しくなくなってしまうので、あくまで登山第一に写真を撮ります」
「登山第一」で写真を楽しむ鈴木さんが山に持っていくカメラは、フィルムの一眼レフカメラ。岩場の難しい山に行くときはコンパクトなフィルムカメラを使うそう。いずれもフィルムで撮るのは、「厳選して、自分の感性に触れたものだけを撮りたい」という理由から。とりあえず撮っておこうと何でも撮るのではなく、直感を鍛えるイメージで"残したい1枚かどうか"を問いながら撮っていると言います。
風景写真は難しいと思いがちですが、鈴木さんのように自分が見たものや感じたことを、写真を通して「コレクション」していくという気持ちで撮ると、写真がもっと楽しく、身近なものになりそうですね!
ネパールの壮大な山々をカタチに残す。「WALL DECOR」を体験!
最後は、鈴木さんに登山写真からお気に入りを選んでもらい、WALL DECORとマグカップを作っていただきました。
鈴木さんがWALL DECORに選んだのは、登山中に世界最高峰のエベレストが見えることで有名な、ネパールのゴーキョピークの写真。
鈴木さん:去年の秋にネパールにトレッキングに行き、その最終目的地の山頂から撮った写真です。この圧倒的な景色に感動して撮影したのをよく覚えています。とても印象に残っている写真なので、大きく印刷して部屋に飾りたいと思って選びました。ラフに床に置いて飾りたいなと思い、色味も割と少なめで、さりげなく床置きできるような写真を選んでいます」
マグカップに選んだのも、ゴーキョピークでの1枚。「トレッキング中に所々ある地図のパネルを撮影した」という、とってもユニークな写真です。
鈴木さん:トレッキングの途中に、「初めてエベレストが見える」というポイントがあって、そこにあった地図の写真です。よく見ると、真ん中に白くなっているところがありますよね?ここは元々、現在地を示していた部分なんですけど、「初めてエベレストが見える場所」ということで、みんなが「ここだ、ここだ」と言って地図を触るんです。だから白くなっていて(笑)。そういうストーリーが思い出せるのが良いなと思って、この写真を選びました。
- ご自分の写真を、WALL DECORとマグカップにしてみていかがですか?
鈴木さん:普段、写真を家であまり飾らないので、こういう機会をいただいてすごくうれしかったです。今までは、大きくプリントすると1枚絵でぺらっとしていて飾り方の選択肢があまりないなと思っていたのですが、WALL DECORはパネルなので床置きできるのが良いなと思って、A2という大きいサイズでプリントしてもらいました。壁に立てかけてラフに置くだけで想像以上に素敵ですね。マグカップは日常的に使うものだから、お気に入りの写真をプリントしたマグカップだと毎日がより楽しくなりそうだと思いました。プレゼントにもいいですね。
鈴木さん、素敵なお話をありがとうございました!
鈴木 優香(すずき ゆか)
山岳収集家/デザイナー。山で見た景色をハンカチに仕立てていくプロジェクト「MOUNTAIN COLLECTOR(マウンテンコレクター)」を2016年よりスタート。自身の山行の記録として、登山とテキスタイルの制作を繰り返しながら、二度とは見られない景色を集めている。
Writing by 大西 マリコ
Photo by Warach Pattayanan (vvpfoto)