スマートフォンやデジタルカメラの普及により、いつでも誰でも手軽に撮影を楽しめるようになった現代。「写真を撮る」ということは私たちの暮らしの一部となり、撮った写真を世の中に発信することも特別なことではなくなってきました。
巷に溢れる写真たちを眺めていると、ふと、撮影した人の日常や想いが垣間見える瞬間があります。気になるあの人は今この瞬間、何を感じているんだろう。写真を通じて、あの人の「今」を届ける企画がスタートします。
第1回目は、EC専売のファッションブランド「foufou(フーフー)」のデザイナー・マール コウサカさん。ご自身のスマートフォンで何気ない日常を1週間、撮影していただきました。
"普通の毎日"を撮影したからこそ見えてきた好きなものやこだわりについて、写真を振り返りながら語っていただきました。
マール コウサカさん
「foufou(フーフー)」デザイナー。私立大学卒業後、働きながらお金を貯めて服飾専門学校に入学。2016年、在学中に「健康的な消費のために」というコンセプトにてファッションブランド「foufou(フーフー)」を立ち上げる。卸売はせず、製品は主にInstagramで公開し、オンラインストアにて受注生産を行う「D2C」(Diret to Consumer)スタイルで注目を集めるほか、おしゃれで質の良い洋服を良心的な価格で販売し人気急上昇中のブランド。
Instagram|@foufou_ha_fukuyasan/
Twitter|https://twitter.com/foufou_marl
週初めは、お家で作業&リラックス。
お気に入りの物に囲まれた暮らしがインスピレーションの源
-- 全体的に、見せたい場面をしっかり切り取ってくださった写真たちという印象を受けますね!まずはそれぞれの写真について、撮影場所やエピソードを教えてもらってもいいですか?
コウサカさん:この4枚は自宅の写真です。家で過ごすことが好きな僕の、家にいるときに目に入ると心地よいものたちを集めました。
実は僕は、服よりも家具とか雑貨のほうを集めがちで。服だけおしゃれな人って「空っぽだな」とちょっと思っちゃうんです。僕自身も、大学生の頃は服を買ってばかりで、結局「何をしているんだろう?」みたいな人だったんですよね...。
今は、洋服に込められたカルチャーや文化的な意味とか「なぜこういうものが作られたんだろう」みたい背景を知りたいと思うようになり、そうなるとやっぱり服だけにお金は使えないんですよね。
例えば、ファッションと音楽は僕のなかですごく関連づいています。洋服のデザインで最もインスピレーションを受けているのは音楽です。うまく言えないんですけど、例えば60年代に活躍していたバンドって、彼らの存在自体がファッションみたいなものですよね。
好きでよく聞いているミュージシャンたちが醸し出す空気感は、僕のどこかに確実に影響を与えていると思います。「こういう服を着たときに、こういう曲が流れているといいな」みたいなことが僕のなかで服作りの大きな要素になっています。
最近気になる「柄物」アイテムたち。
レースや花柄など装飾性のあるものが今の気分。
コウサカさん:作っている洋服のイメージから「シンプルなものが好きそう」と思われがちなんですけど、最近は少しだけデコラティブなものにも惹かれています。これまでは灰色でミニマルな感じが好きだったんですけど、ちょっと見飽きてきていて。
もしかしたら次作る洋服はバッキバキのデザインのものになっているかも(笑)。
今考えているのは、ジャガードの花柄の生地を使ったもの。春のワンピースやスカートを作りたいと思っています。
週の半ばは、毎年夏にだけ発売している真っ赤なワンピースの撮影へ。
"年に一度"の瞬間が詰まったこの撮影は、特別な時間が流れます。
コウサカさん:毎年、夏だけ真っ赤なワンピースを作っているんです。これは今年の赤いワンピースの撮影のときの写真です。実はこのモデルさんの名前、「ナツミちゃん」っていうんですよ。
はじめた当初から、もう3年間もモデルをしてくれているんですが、年に1回、この夏の撮影でしか会わないんです。でもそれがまた良くて。
Instagramでは彼女のことを日々見ているけど、直接会話するのは1年に1回だけ。引っ越しの話を聞いたり人生に対しての考えを聞いたり、もっと話したいことはあるんですけど「また来年だね」みたいな感じで別れるんです。こういう作り手側の積み重ねみたいなものって、お客様にも伝わるだろうし、僕自身も洋服の向こうにあるストーリーを大切にしています。
週末は京都で試着会。
苦手な出張の楽しみは「地元の美味しいごはん」
コウサカさん: 4月の週末に京都で試着会を行ったんですが、その前日にホテル入りしたときの写真です。「foufou」は今年で3年目を迎えたのですが、ECで販売しているからこそ地方の方に直接見てもらえる機会を作りたくて、最近はこういうふうに旅行カバンを持って札幌、大阪、福岡、名古屋...と全国飛び回っています。
僕自身、人と話すのは好きなんですけど、接客はあまり得意ではないし疲れるので出張も嫌いなんです(笑)。でも、お客様から「直接見てみたい」という要望があり、求められている。だから今は時間とパワーをかけて2ヶ月に1回は必ず地方での試着会を行っています。
写真を通して見えた、「今」の自分について思うこと
-- 写真を見ながらお話を聞くと、お話が広がりますね!現在のコウサカさんの暮らしや洋服デザインに影響を与えているもののお話など、とても興味深かったです。こうやってご自身が撮られた写真を見て、どんなことを感じられますか?
コウサカさん:普段なかなか写真を見返さないので、おもしろいですね。こうして振り返ってみると、ちゃんと暮らしてるなぁって思いました(笑)。
いや、去年まで会社員をしながら夜に「foufou」の仕事をしていたので、正直、暮らしに比重を置けなかったんですよ。写真に撮ったものたちのように好きなものに囲まれるというのは、僕にとって大事なことかもしれないですね。
物を買いすぎないで、質のいいものだけを集めることが必ずしも正しいことだと僕は思っていなくて。なんだろうな...僕は、「好きなものに好きなだけ埋もれたい」のかもしれません。
最近はミニマルな生活とか断捨離が健康的なことのように言われていますが、無理していたらそれこそ心がヘルシーじゃない。だから僕は物を減らそうとは思わなくて、むしろまだ足りないと思っているくらいなんです。
-- SNSに投稿された「foufou」の洋服を着た写真を見て、着ていることを楽しんでいる様子を感じました。
コウサカさん:服を作るときは、着るシーンをイメージしながら作ることが多いです。「夏のあの暑い日差しの下で、どんなものを着たいか」と。
僕は「機能を超えた洋服」を作りたいと思っているんです。例えば、先程の赤いワンピースは、「真っ赤なワンピースを夏に着たいという"欲"は、"機能"を超えられるのではないか?」と思って作りました。
だから普通、夏のワンピースといえばリネンのところを僕は綿で作っているんです。綿の方がパリッとしていて、真っ赤な発色になるので。
脇汗をかくし、汗ジミも見えるけど、「でも、それもいいじゃん!だって夏だから真っ赤なワンピースを着たいじゃん!」という提案なんです。
そういうのを楽しむ豊かさというか、心の余裕みたいなものを持つための洋服があってもドラマチックだと思うんです。機能に屈して、合理的なだけでは楽しくない。だって、ファッションで魔法にかかりたいじゃないですか。
デザイナーとして、経営者として挑む、新たなステージ。
-- 最後に、今後作りたい洋服や挑戦したいことがあったら教えてください。
コウサカさん:これまでシンプルなデザインでやってきたので、来年の春に向けて最近気になっている、レースのような装飾性のあるデザインの洋服にもチャレンジしてみたいです。写真に撮ったジャガードの花柄など模様があるものを作ってみたいですね。
「foufou」としては、地方の試着会で学生さんやアパレル関係者の方達に副業ベースでお手伝いしてもらう仕組みを作れたらいいなと考えています。地方はまだまだアパレルの職が限られているので、「好きだけど、ファッションに携われない」という人が多い。
試着会に行くと「お手伝いしたい」と言ってくださる方がけっこういるので、好きなことに関わることで生活も変わる、そういう健康的な働き方ができる仕組み作りにも携わっていきたいと思っています。
素敵なお話をありがとうございました!
Photo by 土田凌
Writing by 大西マリコ