被写体の持つ空気感や、その背景にある物語性まで見るものに語りかけてくる...そんな印象的な写真を撮るフォトグラファー・もろんのんさん。インスタグラムでは8万人のフォロワーを持ち、企業やメーカーから依頼される企画の撮影などで、国内外を忙しく飛び回ります。学生時代に独学でカメラを学び、趣味を仕事につなげたもろんのんさんの写真との関わり方と、魅力的な写真の撮り方を教えてもらいました。
趣味の写真を仕事につなげたのはインスタグラムの存在。現在もSNSを通して仕事と交流の幅を広げる。
―もろんのんさんがインスタグラムのアカウントを開設したのは2012年。日本ではまだユーザーがそれほど多くなかった頃、「@moron_non」のユーザーネームで日常風景や人物写真の発信を始めたそうですね。趣味で楽しんでいた写真が仕事につながった経緯を教えてください。
もろんのんさん:インスタグラムを始めたのは高校を卒業した頃。もともと写真が好きで、写真友達に教えてもらうなど自分なりに勉強しながら撮影していました。
フォロワーが3万人を超えた大学2年生の頃から、インスタグラムを通して企業から仕事を依頼されるようになりました。知り合いのフォトグラファーに同行して撮影現場に行ったときも「インスタグラムのアドバイザーとしての意見が欲しい」とSNSを使ったマーケティングについての助言を求められることもあって。大手広告代理店の方と仕事をする機会が増えるにつれて「企業の商品やサービスを伝える "広告"の仕事って面白い」と感じるようになりました。
―現在は会社勤めをする傍、フォトグラファーとして多方面で活躍されていますね。
もろんのんさん:「スナップマート」という会社で、クリエイティブディレクターとして働いています。スマートフォンなどで撮った写真素材を売買できるサービスを提供する会社で、企業から撮影依頼があった際のキャスティングや現場ディレクションをしています。
フォトグラファーとしては、休日を利用して、国内外の取材や撮影に対応しています。WEBマガジンでのコラム連載も。インスタグラムを通して仕事と人脈の広がりを感じる毎日です。
その場所の雰囲気が伝わってくるような魅力ある写真たち
―今回、ご提供いただいた3枚の写真のうち2枚は、フランスで撮影したものだと伺いました。小さな黄色い花が可憐で、清々しい空気を感じる写真ですね。
もろんのんさん:この黄色い花は「イモーテル」という花。今年の夏、コスメブランドからの依頼で、南仏の花農家さんの取材と撮影をした時のものです。
今回は「部屋に飾る」をテーマに、これまで撮影した写真の中から選んでみました。植物の写真はリラックス効果もあると思いますし、モデルの女性がとても美意識の高い方で...「私もこうなりたい!」という憧れの気持ちも含めて部屋に飾っておけたらと思って選びました。
―3枚目の海辺の写真も、水面に光が反射してとても綺麗ですね。もろんのんさんの写真はどれも光の描写が美しく、心が惹かれます。
もろんのんさん:海辺の写真は、2年前にベトナムに旅行した時のもの。アンバンビーチという場所での朝の風景です。砂浜に寄せる波に、朝日が差し込んでいて印象的だったので撮影しました。
光の向きは順光、逆光、サイド光(半逆光)の3種類ありますが、逆光やサイド光は雰囲気が出せるので良く使います。特に逆光はドラマチックに取れるので好きですね。
テクニックよりも大切なのは「撮りたい」という気持ち。シャッターチャンスは自分の感性に耳を傾けて
―普段はどんなことを意識してシャッターを切るのですか?また、カメラ初心者でも取り入れやすいコツがあれば教えてください。
もろんのんさん:「良い写真を撮ろう」という意識はありません。そもそも私が写真を始めたのは、大切な友人との思い出や、素敵な景色と出会った時の記録として形にとどめたいという思いから。
「きれいだな」「かわいいな」「楽しいな」という、自分の直感を大切にして「心が動いた瞬間」にシャッターを切ります。意識しているのは「自分が何を写したいか」を明確にすることです。写真はよく「引き算」だと言われますが、余計なものが入ってしまうと目線がそこに奪われてしまうのでシンプルさも大切ですね。
―写真を撮るときに構図などは意識されていますか?
もろんのんさん:「日の丸構図」、「二分割構図」、「斜線構図」は初心者でも取り入れやすい構図です。「日の丸構図」は被写体をフレームの中央に置いて撮影する構図。ベトナムの海辺の写真や南仏の人物写真もこの構図です。「二分割構図」は上下、または左右を均等に二つに分割する構図のこと。風景写真を撮るのにおすすめの構図で、例えば空と地面の境界線をフレームの真ん中に置いて撮ると安定した、まとまりの良い写真になります。
「斜線構図」は、斜めのラインを活かした構図のことで、電車や建物など、モチーフのいずれかのラインを、フレーム上で斜めに分断させることで、奥行き感のある写真になります。
―「撮りたいもの」の存在感が際立つ写真を撮るには、何を意識すれば良いのでしょうか。
もろんのんさん:技術も大切ですが、レンズを変えてみるのも良いかもしれません。今回紹介した3つの写真は、いずれも一眼レフカメラに55mmの単焦点レンズを取り付けて撮影しました。単焦点レンズはボカシを効果的に表現できるので、写真に立体感が出せますし、ひとつのものに焦点を当てる写真に最適です。単焦点レンズは比較的安価で購入できますし、スマホでは撮れない風合いが撮れるので、写真が楽しくなるはずですよ!
とはいえ、こういったテクニックやツールよりも「撮りたい」という気持ちが一番大事だと思います。構図を意識して撮影した写真は見映えの良いものになりますが、あくまで手段のひとつ。あまり技法にこだわりすぎず、写真を楽しむ気持ちで繰り返し撮影することが、人の心を動かす1枚に繋がると思います。
思い出を振り返る楽しさも写真の魅力。撮影した写真はフォトブックで形に残す
―撮影された写真をどのように楽しんでいますか?
もろんのんさん:フォトブックとして形に残すことが多いです。印刷してアナログで見ると、デジタルとは質感も違うし、見返す楽しみがあります。時系列、場所、色別などのカテゴリーに分けて編集する時間も楽しみのひとつ。特に海外旅行に行った時は、なるべく時間を作ってフォトブックにするようにしています。
―素敵なお話をありがとうございました。最後に今後撮りたい写真や、やってみたい仕事について教えてください。
もろんのんさん:インスタグラマーというと「物を魅力的に撮って発信する人」をイメージされる方も多いと思いますが、言葉や写真を通じて「活動」を伝えられるような情報発信もしていきたいと思っています。
先日はハワイで「再生可能エネルギーの導入」についての取り組みを取材してきました。今後もこのような、ライフスタイルに関わる仕事や、場所、物の深いところまで知ることができるような仕事をしていきたいです。
もろんのんさん
1993年、埼玉県川越市生まれ。フォトグラファー。スナップマート株式会社のクリエイティブディレクター。インスタグラムを通して企業やメーカーからの依頼を請け負い、国内外での取材、撮影、執筆を行う。
Instagram:https://www.instagram.com/moron_non/
Twitter:https://twitter.com/moron_non
Photo by 土田凌
Writing by 佐藤有香