すっかり涼しくなり、深まりゆく秋。冬に向けて夜が長くなっていくこの季節は、お家でゆっくり時間を過ごしたくなりますよね。そんな「秋の夜長」におすすめしたいのが、映画鑑賞です。普段忙しい人も、長い夜を使ってゆったりと映画を楽しんでみませんか?
今回、秋の夜長におすすめの映画をご紹介してくださったのは、移動映画館キノ・イグルー代表の有坂塁さん。写真にまつわるおすすめ映画もご紹介いただいたので、どうぞお楽しみに!
映画と人が出会う、きっかけ作り。
ワクワクの映画体験を多くの人へ届けたい。
-- 有坂さんはカフェや本屋、学校など様々な空間で映画を上映する移動映画館キノ・イグルー代表を務めながら、1対1の個人面談「あなたのために映画をえらびます。」も毎月開催されていますよね。まさに「映画づくし!」の毎日だと思いますが、これまで何本くらいの映画を鑑賞されてきましたか?
有坂さん:ざっくりですけど7000本は観ていると思います。最近は行けないことも多いのですが、行けるときはほぼ毎日映画館にも行きますね。
-- 7000本!すごいです...。それではまずはお仕事について聞かせてください。移動映画館キノ・イグルーと1対1の個人面談「あなたのために映画をえらびます。」は、それぞれどのような思いで行われていますか?
有坂さん:キノ・イグルーでは、「映画が良かった」と思ってもらうよりも、とにかく「いい時間だったな」と思ってもらえるようなものを目指しています。本当に良かったと思える時間が作れれば、そのなかに「映画も良かった」という情報も入ってきますよね。「空間も良かった」「ここで買ったものも美味しかった」「みんなで拍手をしたのが感動的だった」というように、「大きい感動」を求めて1個1個のイベントを作っています。
「あなたのために映画をえらびます。」のほうは「キノ・イグルー」とは真逆で、たった1人のために映画を選ぶ、いわば「映画のカウンセリング」ですね。僕は、映画との出会い方ってもっと色々な出会い方があって良いと思っていて。でもそこには、アイデアとクリエイティブが必要だとも思っているんです。
だって映画ってこんなにたくさんあるのに、映画館やレンタルビデオ屋さんに行ったり動画配信サービスで観ない限り出会いがない。圧倒的に出会いの種類が少ないじゃないですか。映画は少し真面目すぎるなと思ったので、もっとワクワクするようなきっかけによって、たくさんの人に映画を身近に感じてほしいと思っています。
秋の夜長と映画の相性は抜群。
今宵、ゆっくり楽しみたいお家映画5本。
ここからは早速、有坂さんおすすめの映画をご紹介!秋の夜長にじっくり観たい映画から、「芸術の秋」にふさわしい映像美が光る映画までセレクトしていただきました。
■ブロードウェイのダニー・ローズ
1984年公開。ウディ・アレン監督、脚本、主演の心温まるコメディ映画
「1本目は切なさと、ほろ苦さが混ざり合う、しっとりした映画を選びました。ウディ・アレンが監督兼主役をしているのもおすすめ理由です。ウディはコメディのイメージが強く、『自分が出るだけで観客が笑ってしまうから、シリアスな映画を作るときには自分は出演しない』と公言しているんですね。でもこの映画はしっかりドラマを見せる映画で、そこに本人が主演している。そういう意味でもレアな1本です」
■街のあかり
2007年公開。『浮き雲』、『過去のない男』に続く、アキ・カウリスマキ敗者3部作の完結編と言われるフィンランド映画
「2本目は僕の大好きなカウリスマキの映画から、とくに映像や色使いが美しい作品を。彼は画面の中の配色やライティングにこだわっていて、ひと場面観ただけで『カウリスマキの映画だな』と分かるほどスタイルのある監督。この映画は、赤の使い方や壁に塗られているようなくすんだ色使い、その壁に合わせるテーブルの色など、とにかくシーン全てが芸術のように美しいです。僕らの「キノ・イグルー」という名前の名付け親にもなってくれた人なので、そういう意味でも個人的に特別な監督です」
■オーレ・エクセル イン モーション
スウェーデンを代表するグラフィックデザイナー、オーレ・エクセルのイラストを使ったアニメーション映画
「3本目には息抜き系の映画を選びました。1本が4分くらいしかない短編アニメなので、秋の夜長に先の2本を観てしっとりし過ぎたなと思ったら、これを1本観て寝ると良いと思います。実はこの映画、マックス・ワイントラウブさんという監督が作っていて、日本で製作されているんです。マックスさんは大のオーレ・エクセルファンで、彼のイラストの中に出てくる動物や生き物を動かしたくなって、勝手に脚本を書いてスウェーデン在住のオーレ・エクセルさんの遺族の元に飛んで許諾をもらって作ったそうなんです。
全体的に優しさに包まれたような短編の脚本を書き、それを読んだ遺族の奥様、ルーセルさんがすごく感動して『実は世に出ていないオーレのイラストもあるので、よかったらそれも使ってください』と言って製作されたアニメなんですね。なので、生粋のオーレ・エクセルファンでも見たことがないイラストが使われているのもポイントです」
■不思議の国のアリス
作家、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を映像化した、1903年公開のイギリス映画
「4本目は秋の夜長、とくに夜遅く観るのにぴったり。言わずと知れた物語ですが、この物語と同じように自分も不思議の国に迷い込んでしまったような気分にさせてくれる1本です。1903年と1915年版の2つのアリスが入っているのですが、とくに1903年の7分版のほうは残っているフィルムを繋いでいるのでフィルムの状態が良くないんです。でも、100年以上前の映画で着ぐるみを着て演技をしている人が映っている。当然、この人たちはもうこの世にいないので幽霊を見ているような不思議な気分というか...。美しいピアノの音楽も素敵なので、お酒を飲みながらゆったり観るのも良いのではないでしょうか」
■スモーク
1995年公開。小説『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』を基にアメリカ、日本、ドイツ合作で作られたアメリカ映画。
「最後は、写真に関するおすすめ映画を1本。物語を展開させる鍵になっているのが、主人公の煙草屋の店主が14年間毎日同じ時刻に撮り続けている定点写真なんです。店の前にある交差点から撮り続けているのですが、ここで毎日撮ると決めて日常の中でこなしていくというのが、すごくカッコ良い。決まった時間にピッと押して「はい、おわり」みたいな感じで淡々としているんですけれど、続けてきて初めて見えること、価値が出るものってあると思うので、写真との新しい付き合い方が見えてきて面白いです」
映画鑑賞を「イベント」に昇華する。
積極的に楽しむことで広がる映画の面白さ。
-- 秋の夜長にぴったりな映画セレクト、ありがとうございます。どれも今すぐ観たくなる映画ばかりです!最後に、お家での映画鑑賞をより楽しむためのコツがあれば教えてください。
有坂さん:映画鑑賞を「イベント化」すると楽しいですよ。例えば、観る映画に合った食べ物を用意するとか。『不思議の国のアリス』なら、普段お酒やコーヒーを飲む人も紅茶にしてみたり、『オーレ・エクセル イン モーション』ならココアを用意したり...。
1日の終わりに作品に合わせた食べ物や飲み物を用意して映画の世界に入り込むもよし、寝る前のまどろみタイムに短編作品をサクッと見るもよし。ますます映画の楽しみ方が広がりそうです。
有坂さん、素敵なお話をありがとうございました!
移動映画館キノ・イグルー
有坂塁さん
全国を旅する映画館「キノ・イグルー」代表。2003年、中学校の同級生である渡辺順也氏とともに設立し、映画館やカフェ、本屋、雑貨屋、学校など様々な空間で世界各国の映画を上映。音楽やフードトラックを取り入れるなど、映画を軸にした空間を提供している。代々木上原のギャラリーでは、1対1の個人面談「あなたのために映画をえらびます。」を毎月開催中。
有坂塁Instagram:@kinoiglu
キノ・イグルーHP:http://kinoiglu.com/
キノ・イグルーInstagram:@kinoiglu2003
Photo by 土田凌
Writing by 大西マリコ