素材本来のおいしさを最大限に活かす料理を紹介してくれる、料理家の細川亜衣さん。世界を旅して出会ったおいしい料理や素材の魅力を美しい写真とともに紹介するインスタグラムやコラムも人気です。

細川さんのレシピなどを見ていると、料理写真にしてはぐぐっとクローズアップしたお料理の写真やみずみずしさが手に取るように感じられる食材の写真などがたくさん掲載されています。その写真選びにも細川さんのこだわりがあるのだそう。

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今回は、料理家の細川亜衣さんに、普段の暮らしのこと、お料理のこと、そしてお料理を写真に残すときのこだわりなどを教えてもらいました。

「食べたい!」と思った瞬間を切り取る

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台湾で撮影

―細川さんのインスタグラムを拝見していると海外に行かれている写真がよくポストされていますね。旅先ではお料理を写真に撮ることも多いんですか?

細川さん:私が旅先にカメラを持って行く目的は、食材と料理の記録です。市場で輝いている食材、食堂や誰かの家の厨房にある調理台や鍋の中、あるいは食卓に並んだ料理だけをひたすら撮ります。

―実際に食べたものや、作ったものを撮るんですか?

細川さん:まさにその通りです。厨房を覗かせていただいた時や、現地で自分で料理する時には、調理途中も撮りますよ。

―細川さんのインスタグラムや、レシピ本の写真は距離感が他の料理写真とは異なりかなり寄った写真が多いなという印象があります。撮影するうえで、何かこだわっているポイントはありますか?

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細川さんの著書『野菜』『果実』より

細川さん:自分が食べ物を見ている目に近い感じで撮りたいという気持ちがあります。あと「きれいだな」と思うポイントを撮っていると自然と寄ってしまいますね(笑)。

―レシピ本などに載っている調理途中の写真は臨場感がありますね。

細川さん:レシピ本の撮影は必ず、私の「きれいだな」と思うポイントを共有してくださる写真家の方に撮っていただいています。基本的には全てお任せしていますが、ごく稀に「こんな風に撮って欲しい」とお願いすることもあります。

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―インスタグラムには普段のお料理を投稿することが多いと思いますが、お料理をおいしそうに撮るポイントを教えてください。

細川さん:とにかく一番おいしそうな瞬間を撮ること。私は完璧に作り込んで、セッティングされたお料理の写真が苦手なんです。なので「食べたい!」と思う瞬間を切り取ることが何より大事かと思います。

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―だから、細川さんのお写真を見ると思わず「おいしそう!これは食べてみたい」という感覚になるんですね。野菜や果物といった素材も撮影されていますね。

細川さん:野菜や果物の素材も、被写体としてとても好きなので、自然と撮ることが多いですね。料理の一部というか、料理の出発点は必ず"素材"なので。

素材を選んで、料理が決まる

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―細川さんのレシピは、素材を活かして、というより素材に少しのアレンジを加えているようなシンプルな料理も多いですよね。簡単なのに、ちょっとのアレンジでおいしくなるので、作るたびに発見があります。

細川さん:ありがとうございます! すごくうれしいです。レシピは取扱説明書のようなものなので、それを見て作る人がちゃんと作れるということが大事です。なので、どんな方でもレシピを見れば作れるように心がけています。

ただ、塩などの調味料の量は、わざと記載しないことも少なくありません。もちろんそれは不親切で省いているわけではなくて、あえて書かないようにしています。なぜなら「塩の分量を入れることで、かえって失敗の元になってしまうのではないか?」と思うことがよくあるからです。塩の量は食べる人の好み、使う塩の種類、火加減や煮る時間、鍋の大きさなど、あらゆることで左右されるものなんですね。そうすると、塩の量を明確に書いてしまうことで「なぜ同じ量の塩を入れたのにうまくいかないんだろう?」と悩む人が出てくる可能性がある。ならば、"適量"と書くことの方が、その人の好みに合った塩加減をより見つけやすくなるのではないかと思うんです。

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―塩の量が書いてないのには、そんな理由があったんですね!日々のお料理では、どんなことを意識されていますか?

細川さん:基本的に「この食材を一番おいしく食べるにはどうしたらいいか」ということを何よりも大切にしています。

「あれを作りたいから、これを買おう。」と考えて食材を選ぶのではなく、「これが今日はおいしそうだな」と思って買い物をすることがほとんどです。食材がおいしければ、あれこれする手を加える必要はないですが、料理人の腕というのは、料理とも呼べないような簡単なものにこそ、表れると思います。ですから、毎日が真剣勝負です。家で作る食事は、家族からのリクエストがない限りは本当にいきあたりばったりですが、自由な気持ちで作るからでしょうか、はっとするようなおいしさが生まれることが多いですよ。

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―10年前に熊本に移住されたそうですが、使う食材や料理に変化はありましたか?

細川さん:結構ありますね。私は野菜や果物がすごく好きなので、本当に採れたばかりの素材が、当たり前に手に入るという環境はすごくありがたいといつも思っています。自宅が自然豊かな場所にあって、今朝はムカゴがお庭で採れました。今日のお夕飯には今年初のムカゴご飯を炊こうと思っています。

このように「あっ、1年が巡ったな」と四季の移ろいを、自然を通して感じることができるのは幸せです。

旅先で出会った味が、そのままインスピレーションに

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雲南省の市場で撮影

―細川さんは、旅先で出会ったものやお料理に影響されることはありますか?

細川さん:私のレシピは、ほとんどそれで成り立っているくらい。旅からたくさんのインスピレーションを受けています。最近では、旅といってもほとんどが旅先でお客様のために料理をする出張が多く、あちこちへ出歩く時間はそうたくさんはないのですが、仕事の合間は土地のものを食べることへ全力を注ぎます。

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台湾での食事

―旅先では、何か食べたいものを目指して食事に行かれるんですか?

細川さん:世界各地にいる私の友人はおいしいもの好きばかりなので、彼らの情報を頼っていくことが多いですね。台湾や韓国でしたらいつもお世話になっている方が色々教えてくださるし、フランスやイタリアでは友人の家の台所で作ることがほとんどです。

誰も知る人がいない土地であっても、私はなるべくガイドブックやインターネットなどで下調べをしないようにしています。お店の雰囲気や食べている人の様子、食卓に並ぶ料理などを実際に見て、「ここ良さそうだな」と感じたお店は、間違いがありません。

―直感で選ぶんですか?

細川さん:席に座って「ここは何か違うな。」と感じたら、勇気をふるって「ごめんなさい」と言って外に出ます。そうやって知らない街を当て所なく歩き続けたこともありますよ。でも、人生のたった一度でも残念な気持ちで食べるのは嫌ですし、旅先であればなおさらです。旅からは、幸せな記憶だけを持ち帰ることができたら、といつも思っています。

―その直感で選んだおいしさがインスタグラムの写真にも表れているんでしょうね。細川さん、ありがとうございました。

細川亜衣さん

1972年生まれ。料理家。大学卒業後、イタリアへ渡り料理を学ぶ。帰国後は、レシピや旅エッセイの執筆等、雑誌・書籍等のメディアで活躍。現在は熊本に住まいを移し、料理教室を主宰。国内外で料理会も開催している。



Writing by 小野喜子

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