暮らしに溶け込む写真の価値を問う連載、わたしの「写真と、ちょっといい暮らし。」第5回は、ファッション、フード、ライフスタイルと幅広く活躍するスタイリストの宇藤えみさん。Instagramで発信する写真にもファンが多く、美味しそうな朝ごはんや季節に合わせた美しい器、旅先や暮らしの風景は、見ているだけで楽しくなってきます。
都心のすぐそばにありながら、窓一面の緑が楽しめるリビングで、朝の時間を過ごすのが好きだという宇藤さん。スタイリストとして様々なものを見てきたなかで、自分らしさや、豊かさの基準も少しずつ変化してきたそう。
「華やかな流行を追うことよりも、頑張りすぎず、自然体で、好きなものに囲まれた暮らしが心地いい」。そう話してくれた宇藤さんに、写真を撮り発信することについてや、日々の暮らしのなかで大切にしていることを伺いました。
ファッションもライフスタイルも、始まりは"家族"から
---- スタイリストを目指したきっかけはありますか?
宇藤さん:小さい頃からお洋服が大好きだったんです。祖母が服の縫い子さんの仕事をしていて、母も服飾の学校に行っていたので、私と妹の服は母がほとんど作ってくれていたんですよね。祖父が下駄で歩くときにカランカランと鳴る音が記憶に残っていたり、母親のヒールのパンプスをこっそり履いてみたり。そういう洋服が身近にある環境で育っていくなかで、自然と惹かれていったのかなと思います。
---- ご家族の影響が大きかったんですね。
宇藤さん:そうですね。でもすごく田舎だったので、洋服を買うときは隣町まで行かないといけなくて(笑)。そうやってわざわざ出かけて、服を選ぶ時間も好きだったので、最初はショップのバイヤーさんみたいなお仕事をしたいなと思って、専門学校に行ったんですよ。でも、そこでスタイリストさんに出会ったことで、初めて「スタイリスト」という仕事があるってことを認識したんです。その後アシスタントをすることになって、今に至ります。
---- 最近では、フードやライフスタイルのお仕事も増えていますよね。
宇藤さん:ファッション雑誌の企画でテーブルコーディネイトをしたり、器を集めたりすることも、ずっと好きだったんです。でも、1番大きかったのは子どもが産まれたことですね。やっぱり自分の環境が変わったことで、ライフスタイルや暮らしというテーマに興味が向いていって、自然とそういうお仕事が増えていきました。
---- スタイリングを手がける上で、どんなことを大切にしていますか?
宇藤さん:ファッションではトレンドを追いかけることや特集テーマに合わせていくことも大事だったのですが、今はもっと自分の好きなものや、暮らしに沿うことが重要になっているかもしれません。季節に合わせた色や素材、生活のなかにある自然の風景に影響を受けたり。子どもの頃の田舎暮らしとか、育った環境で自然と吸収していったものを、今は自分らしく表現できているのかなと思います。
心がときめく"いいもの"を見つけて、それを使い続けたい
---- 暮らしについてもお伺いしたいのですが、家で過ごすなかで、好きな時間ってありますか?
宇藤さん:みんなが起きてくる少し前の、朝の1人の時間ですね。窓を全部開けて、お茶を飲みながら、ゆっくり一息つくような。朝ごはんを作りはじめる前に、少しでもいいから自分だけの時間を大事にするように意識しています。
---- 大きな窓から緑が見えるリビングが、すごく素敵です。家の空間づくり、もの選びにおいては、どんなことを基準にしていますか?
宇藤さん:自然の景色を活かした部屋にしたかったので、あまりごちゃごちゃさせずに、花器、子どもの絵、ヴィンテージのクッションとか、小物をポイントにしたシンプルな部屋にしています。素材がしっかりしていて、自然の風合いがあるものが好きですね。
たとえば器だと、長野のガラス工房「STUDIO PREPA」さんのものや、松原竜馬さん・角田淳さん夫妻の作品がお気に入りです。どれもシンプルだけど、それぞれの作家さんらしさが出ていて、本当にかっこいい。食卓でも大活躍しています。
---- 洋服でも、器でも、道具でも、選ぶ目線は変わらないですか。
宇藤さん:そうですね、同じ感覚で選んでいると思います。似たようなデザインと機能で、より安いものが売っていたりもしますけど、やっぱり使ってみると違うんですよね。だから生活道具はとくに、少し高くても本物を選んで、おばあちゃんになってもずっと使っていたいなと思います。長く使えるかどうか、という視点と、パッと見て素敵!と思える"ときめき"は、どちらも大事にしていることですね。
"朝ごはんの写真"を撮り続ける理由
---- 宇藤さんの食卓の写真はファンが多いと思います。いつもどんなことを意識して撮っていますか?
宇藤さん:写真を撮るのは昔から好きで、最近は素材や質感を活かした柔らかい写真に惹かれます。以前、「写真と、ちょっといい暮らし。」のインタビューに登場されていた料理家の細川亜衣さんの写真もシックで素敵ですよね。自分で撮るときは、余白や空間を意識することが多いかもしれません。たとえば花瓶の中に光が入ることで、うっすらピンクに見えたり、そういう影を活かした写真が好き。部屋でずっと作業をしていても、朝日や西日で雰囲気がガラッと変わるので、そんな自然の変化を見ていると癒されます。
---- どんなときに写真を撮りたくなりますか?
宇藤さん:ずっと続いているのは、朝ごはんを撮っているシリーズ。朝はいつもすごくバタバタしますが、最近は自分のなかでうまく時間配分ができるようになって余裕が出てきたので、朝ごはんの写真は撮りたくなりますね。ごはんに色々なおかずを乗せたお碗と、お味噌汁だけの簡単なものなんですけど、湯気の出方とかが季節によって変わるんですよ。写真を撮るために何かを作るより、食べるついでに撮るほうが、気楽で楽しいんです。
---- 写真を撮って発信することで、生活に変化はありましたか。
宇藤さん:やっぱり、自分の好きなものをアップしていくことで、見てくれている人と共有できるのはいいですよね。素敵な取材が入ってきたり、仕事につながったりすることもあります。直接発信することで、いつも自分からいいと思ったものを提案できるのが嬉しいです。
家族の写真に囲まれた、自然体な暮らし
---- 今回、富士フイルムのWALL DECOR(ウォールデコ)を試していただきましたが、まず選んだお写真について教えてください。
宇藤さん:ひとつはハワイに行ったときに、「写ルンです」で撮った海の写真。私は海と山で育ちましたし、息子も海が大好きなので、そういう"好き"が詰まった1枚ですね。早くまた旅行に行きたいな、という気持ちもこもっています(笑)。
もうひとつは、富士フイルムの年賀状撮影イベントで浅田政志さんに撮ってもらった家族写真です。絶対に当たらないだろうと思って応募してみたら当たって、初めて家族写真を撮ったときのもの。いつも温かい家族写真を撮っているまー坊(浅田政志)に撮ってもらえて、本当に家宝になりました。
---- リビングには、ウォールデコの写真がほかにもありますね!
宇藤さん:そうなんです。ひとつは息子が一歳の誕生日のときの写真。それから、私につらいことが続いていたときに、息子と夫が初めてプレゼントしてくれた向日葵を写真に撮ったもの。「大事にしたい」と思う瞬間を飾っています。
---- ウォールデコを使用した感想は?
宇藤さん:写真をたくさん飾っている家庭もあると思うんですが、うちは写真を撮っても飾る機会があまりなかったので、そのきっかけになりました。実際に家族の写真を飾ってみると、息子も喜ぶし、夫も「プリントするとやっぱりいいね」と嬉しそうで。自然とインテリアに馴染むような形で、写真を飾れるのがいいなと思いました。
---- 最後に、宇藤さんにとっての豊かな暮らし、いい暮らしってどういうものでしょうか?
宇藤さん:やっぱり、家族が自然体でいられることが、居心地の良さにつながっている気がします。息子は絵を描くのが好きなので、それを額に入れて飾ってあげたりするとすごく喜んで、今度は絵本みたいなものを描き始めたりして。昔はもっと物が少ない、シンプルでおしゃれな空間にしようかなと思ったときもあったんです。でも、やっぱり私だけじゃなくて、家族みんなが居心地のいい空間づくりがしたい。そういう場所で暮らすことが、豊かな生活なのかなって思います。
宇藤えみさん(@emiuto)
ファッション雑誌、広告、俳優の衣装などを手がけるスタイリストとして2005年に独立。日本の文化や四季の彩を感じる伝統色を重んじた世界観を得意としており、近年ではフードやライフスタイルの分野でも活躍中。スタイリング、レシピ開発、ブランディングなどを通して、食卓の大切さを発信している。
Photo by 大西日和
Writing by 坂崎麻結
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