暮らしに溶け込む写真の価値を問う連載、わたしの「写真と、ちょっといい暮らし。」第7回は、長野県は八ヶ岳南麓の古民家に暮らし、東京と行き来しながら、雑誌や広告で活躍している写真家・砺波周平さんです。

砺波さんがライフワークとして撮り続けてきたのは、妻と3人の娘、父や母といった「家族」の写真。何気ない瞬間の確かな美しさをとらえた砺波さんの写真は、「日々の隙間」と題した展示や作品集のほか、ブログやSNSでも見ることができます。

「20年近く撮り続けていることで、それぞれの成長や老いといった小さな変化に気づける。それが家族と向き合うことにもなっているのかなと思います」。家族写真の魅力についてそう話してくれた砺波さんに、写真を撮ること、作品を飾ること、古い家での暮らしについてなど、さまざまな問いに答えていただきました。

「自分の足もとにある生活」が表現になる

2110_02_02.jpgリビングには年ごとの家族写真が飾られていました

---- 写真をはじめたときのことを教えてください。

砺波さん:大学1年生の春休みに、石垣島と西表島を1人で旅していたんですね。そのときキャンプ場で知り合った人が、僕が当時通っていた大学の青森県十和田キャンパスの近くに、面白い写真家がいるよって教えてくれて。その写真家・細川剛さんに会いに行ってそのまま弟子入りしたことが、写真を志すきっかけになりました。細川さんは、1本の樹の下に1年間テントで暮らして、そこで見えてきたものを撮るというようなことをしていて。なんというか、すごく足もとを見つめる写真家だったんですよ。

当時、僕はどちらかというと海外に行きたいとか、旅をしたいとか、感覚が外に向かっていたんです。だけど、細川さんが教えてくれたのは、自分の足もとにある世界で表現ができるということでした。細川さんのもとで学んだことで、僕は「生活」をテーマに写真を撮ろうと決めて、ずっとそれだけを撮っています。

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---- それまでも、写真を撮るのは好きだったんですか?

砺波さん:はい、高校でも空手部と写真部を兼部していて、なんとなく写真は好きだったんですよね。雑誌を読むのも楽しくて、ホンマタカシさん、川内倫子さん、森山大道さんの作品を見て、写真集を買ったりしていました。影響は受けていたと思います。

今までは「写真ってかっこいいな、おしゃれだな」って思うだけだったのが、細川さんに出会って、ちゃんと自分の感覚から染み出てくる写真を撮るということを学びました。所謂"受けのいい写真"、"雰囲気のいい写真"ばかり撮りがちな自分に厳しくダメ出しをしてくださって、師匠には本当に感謝しています。

少しずつ変わっていく家族を、撮ることで確かめたい

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---- 家族ができたことは、写真の撮り方にどんな影響がありましたか。

砺波さん:なかなか自分のことは客観的に見られないので、難しい質問ですね。でも、妻ばかり撮っていたときは1対1だったので、逆に撮りやすかったかもしれないです。今は小さい家に子どもが3人いて、犬と猫がいて、けっこうカオスな状態(笑)。仕事が忙しくなってきて家にいる時間も少なかったりすると、やっぱり写真のチャンスは減っていくので、「良い瞬間があったらちゃんと撮ろう」という気持ちはあります。

---- どんな瞬間に、写真を撮りたくなりますか?

砺波さん:日常ってやっぱり「常」というくらいだから、一定なんですよね。でも、たとえば妻が風邪をひいたりすると日常が崩れて、揺らいで、ずれみたいなものが出てくる。そういう普段と違う感覚になるときは、写真を撮りたくなります。 あとは、本当に何気ない、見過ごしそうになるくらい普通の瞬間に、実はすごく良い表情をしていて。寝ているところとか、真剣に絵を描いている顔とか。「一年後にはこんなに無邪気に絵を描かないのかな」と思ったりすると、撮りたくなります。

2110_02_05.jpg---- 砺波さんにとって、家族を撮ることの魅力ってなんでしょうか。

砺波さん:どうしても子どもは成長していきますし、僕や妻は老いていくわけじゃないですか。20年近く撮り続けていると、やっぱりふと家族の変化に気づいて、以前とは違う魅力を感じたりもする。ずっと近くにいると、気づきにくいんですよね。だからある意味、撮ることで、家族と向き合っているのかなと思います。どんどん通り過ぎていってしまうものを、写真を通して確かめていっている作業というか。

---- たとえばすごく感情的になっているときに、カメラを向けることもありますよね。そういう難しさを感じることもありますか?

砺波さん:そうですね。僕はわりと相手に同調したり、気を遣ってしまうタイプなので、家族以外の人だと、そういうときはカメラを向けられないんです。だけど家族ってある意味で信頼関係があるからこそ、お互い傷つけあうものじゃないですか。「お父さん臭い」とか、言いたいことを言ったりね(笑)。

僕は毎日のようにずっと撮っているので、妻や子どもたちはあまり気にしてないというか、それが当たり前になっているという感じはします。かといって拒否されてしまえば撮れないので、なるべくそうならないように距離をとったり。もちろん大泣きしているときなんかもありますが、申し訳ないなと思いつつ(笑)、撮っちゃいます。

素直に暮らすこと、素直に撮ること

2110_02_06.jpg---- 砺波さんは20代の頃から「古い家を改装して住む」ということをされてきた方ですが、そういう暮らし方をしたいと思ったのはどうしてですか?

砺波さん:まず第一にお金がなかったのが大きいですね(笑)。あと、"生活"をちゃんと写真にしたいと思ったときに、家を自分でつくってみたいと思ったんです。完成された居住空間に自分を合わせていくというよりも、お金がないなりに工夫してボロボロの家を綺麗にしたり、家の造りの仕組みも知りたかった。家族と同じで、家も変化を見ていくことで愛着がわきますし、感覚の揺らぎみたいなのが生まれて写真を撮りたくなるんです。だから、自分のなかでは繋がっているような気がしますね。

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---- 砺波さんは、お仕事でも「家」を撮ることが多いですよね。色々な人の部屋や暮らしを撮っていて感じることはありますか。

砺波さん:取材で伺うお宅はそれぞれに素敵なストーリーがあって、とても魅力的なんですよね。感動したり、暮らし方の参考にしたりもします。ただそれはその方それぞれのストーリーなので、ただ真似しても自分のものにはならないということも忘れないようにしています。僕も今、新たに家を建てているんですが、見た目や形だけよくすることで、自分とかけ離れていかないように、自分にとって必然性のある素直な暮らしをしていきたいなと思っているんです。

今住んでいる古民家を10年前に直してくれた大工さんがいるんですが、妻と話し合って、その方に新しい家もお願いしています。建築のおしゃれな雑誌なんかを見せて「こういう感じにしたい」と言うと、ほとんど拒否されるんですよ(笑)。なので、今の暮らしの延長線上にある自分たちらしい家になりそうで、ある意味助かっています。

その人は「手刻み」といって、機械での加工や乾燥をせず、自分の手で梁や柱を作ってくれて、釘などを使わずに組んでくれる大工さん。そういう人に建ててもらえるのは嬉しいですね。

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自分たちで壁や床を貼ったという古民家のおうち。

---- なるべく自分に近い、足もとの生活を、という意味では、住むことも写真も同じなんですね。

砺波さん:そうですね。写真も構図がどうとか、こうした方がかっこいいとか考えるよりも、直感的な部分や、素直さみたいなものが大事だったりします。やっぱり経験を積めば積むほど上手くなっていってしまうので、それが弊害にもなるかもしれない。最近は20代の若い編集者さんが「写真を始めたんです」と見せてくれたりするんですが、それがすごくピュアで、かっこつけてなくて、良い写真なんです。「なんか自分の写真、作って撮ってるな、もっと気楽に撮った方がいいな」と気づかされることもありますね。

---- 砺波さんが思う「豊かな暮らし、良い暮らし」ってどういうものでしょう。

2110_02_09.jpg砺波さん:青森に住んでいたときや、長野に引っ越してきたときはお金がないなか、廃材で小屋を立てたり工夫して暮らしていたのが楽しかったんです。今は以前よりも経済的に余裕が出てきて、昔は買えなかったものが買えるようになってきた。ただ、お金で解決したり贅沢することが幸せだとは思いません。むしろ若い頃の方が楽しかったなと思うことがよくあります。

休日に普段家で当たり前のように過ごしているときはもちろんですが、集落の人たちと草刈りをしたり、木の伐採をしたり。そういう肉体労働をしたあとに、みんなで採ったキノコや魚をおかずに公民館で夜遅くまで飲むんです。そういう時間がすごく幸せ(笑)。何かを買って消費する贅沢よりも、自分が生きているという実感がまとえるっていうのが、僕にとっては贅沢なことなのかもしれないですね。

飾りたいのは、感情が漏れ出るような自然な表情

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----これまで写真を「飾る」ことはよくありましたか?

砺波さん:自分の作品をうちに飾るっていうことはあまりなくて、引っ越しの際に撮った家族写真や、年賀状用に作ったものをそのまま飾っています。僕自身、写真展もあまりしてこなかったんですよね。でも数年前から展示の話をいただくことが増えて、最近は少しずつ額装したり、飾るようになってきたのかなと思います。いかんせん狭い家なのでなかなかスペースがないんですが、工夫して飾ってみると、やっぱりいいなと思います。部屋に写真があると気分も変わりますよね。

若いときは、写真や絵を飾るっていうことをあまり意識する瞬間がなかったんだと思います。でも、色々な家を見ていくなかでだんだん「写真を飾るっていいことだな」「綺麗だな」と感じるようになっていって。せっかく自分で撮れるのに飾らないのはもったいない。これからはもっと積極的に、気に入った写真を飾っていきたいです。

---- 今回、富士フイルムのWALL DECOR(ウォールデコ)を試していただきましたが、選んだお写真について教えてください。

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砺波さん:1枚は家族の集合写真。僕がすごく欲しかった古い車を買って、河原に遊びに行ったときのもので、子どもたちは大して喜んでないんです(笑)。 「ハイ笑って!」っていう感じじゃなく、この嫌々撮られてる感が、逆にすごく自然な表情に見えて気に入っています。外向きじゃない、家族の顔になっているのがいいなって。

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もう1枚は、妻が泣いている写真です。あんまりこういうネガティブな写真って家に飾ったりしないですよね。でも、なんだか美しくて、写真としてすごく気に入っています。「妻を撮る」と決めていた時期に撮った写真なので、今ではなかなか撮れない一枚。冗談ですが、ちょっと怖い般若のお面を飾るような感覚で、自分に対する戒めにもなるかもしれません(笑)。

---- 砺波さんが選ばれたのはカジュアルタイプですが、WALL DECORを使用した感想はいかがですか?

2110_02_13.jpg砺波さん:裏張りがしっかりしてあって、それでいて軽いので、気軽に飾れるのがいいですね。自分で写真を額装するのはなかなか大変なことですが、これなら釘を刺さなくても、普通に置くだけでもいい感じ。発色も綺麗ですし、色校正も出せるなら、展示とかにも使えそうです。僕は写真のテカりがあまり好きじゃないので、「ディープマット仕上げ」はしっかりと質感のあるマットで、自然と部屋に飾れるところが気に入りました。

---- 最後に、今後取り組んでいきたいことなどがあれば教えてください。

砺波さん:家族は放っておいてもどんどん変わっていきますから、僕は変わらずにそれを、客観的に見つめていきたいと思っています。これからはもう少し家にいる時間を増やして、地域の仕事をしたり、キノコや魚をとったり、それをみんなで食べたり。お金を稼がなくても生きていけるような、そんな暮らしができたら理想的ですね。

2110_02_14.jpg左から砺波周平さんと妻の志を美さん。

砺波周平さん ( @tonamishuhei )

1979年生まれ、北海道出身の写真家。大学在学中から写真家・細川剛さんのもとで写真を学び、写真店での勤務などを経てフリーランスに。現在は長野県の八ヶ岳南麓にある自宅、東京・八王子の事務所を行き来しながら活動中。『暮しの手帖』や『住む。』といった雑誌や広告で活躍するかたわら、ともに暮らす家族の写真を撮り続けている。

Photo by 佐藤侑治

Writing by 坂崎麻結

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お気に入りの写真をパネルにできるサービスWALL DECOR。どんな写真にもマッチするシンプルなデザインで、飾る場所も限定しません。砺波周平さんは、カジュアルタイプのA4サイズの2種類を制作され、仕上がりはディープマットをお選びいただきました。カジュアルタイプの軽さと飾りやすさがとてもよく、これなら重い腰を上げずに写真を飾れますね。とお勧めいただきました。
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