山口県・宇部市で3代続く「山本写真機店」の店主をつとめている山本陽介さん。カメラ用品を扱う街の写真屋さんとして、また全国にファンを持つフィルム現像・プリントのラボとして、これまで写真とその周りにあるさまざまなニーズに応えてきました。

身近な人の写真を撮り、日常を記録することで、人生を記憶することができる。山本さんは、技術や評価を競い合うような写真だけじゃなく、そんな"家族のアルバムに入れたくなるような1枚"を大切にしてきたといいます。

前編では、お店に立ちはじめた頃のこと、長年取り組んできた写真教室のことなどを振り返りながら、山本さんにとっての「写真」について語っていただきました。

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"すぐそばにあるもの"を撮ることの大切さ

---- 山本さんが写真を撮るようになったのはいつ頃ですか?

山本さん:18歳くらいの頃だったと思います。当時、大きな家電量販店のカメラブースでアルバイトをしていて。お客さんと接しているうちに自然と欲しくなって買ったのが、コンパクトのフィルムカメラでした。写真家のHIROMIXさんなどが流行していた世代なので、そういう影響もあったと思います。何をするにもカメラを持っていき、スナップや友人のポートレートを撮ったりしていました。

---- 家の「山本写真機店」についてはどう思っていましたか?

山本さん:長男にありがちですが、やっぱり「写真は好きだけど、写真屋にはなりたくない」と思っていましたね(笑)。それで最初はスタジオで働いたり、写真家のアシスタントをしたり、営業職をしてみたりもしたけど、結局どこも長続きしなくて。実家に帰って山本写真機店で働きはじめてから、だんだん仕事が楽しくなっていったんです。

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「今からダメ人間の話をするんですけど」と茶目っ気たっぷりに話してくれた。

---- 自分ならこういうお店にしたい、という思いはありましたか。

山本さん:僕は今43歳なんですが、山本写真機店で働きはじめたのは20代半ばぐらいでした。昔は今ほど写真がポピュラーじゃなくてSNSもなかったので、若いお客さんが少なかったんですよね。店に足を運んでくれるのは、写真を趣味として追求しているような方がほとんどで。だから当時は、「コンテストに出すようなものじゃないと写真じゃない」っていう雰囲気というか、固定概念はあったと思います。家族や友人を撮った日常の写真は「写真」として認めてもらえない感覚がありました。

よく話しているエピソードなんですが、ある常連さんの奥さんが亡くなったとき、遺影写真が小さなL版の集合写真しかなかったんですよ。いつも四つ切りプリントを何枚も焼く人なのに、奥さんのちゃんとした写真がないということにすごく驚いて。それがきっかけで日常を撮ること、人生を記録することの大切さをもっと伝えたいと思ったんです。

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ご自宅のデスクには、いつも目に入る位置に「家族」の写真が。

写真教室で伝えたかった"写真の本質"

---- それで、写真教室「cheeeese!!(チーズ)」を始めたんですね。

山本さん:そうですね。自分にとっての「写真」をもっと伝えたいと思っているときに、ちょうど依頼があって写真教室を始めたのが2005年頃のことです。ここ数年は忙しくてなかなかできなくなってしまったんですが、12年以上続けていました。

もちろん技術的なことも教えながら、「写真の楽しさや本質みたいなものを忘れずにいきましょう」っていうのを教室ではずっと伝えてきました。やっぱり趣味が高じると、道具にこだわったり評価が欲しくなったりしてしまうんですが、それだけじゃないんだよ、と。

---- 教えることで、自分自身が学ぶこともありましたか?

山本さん:それはめちゃくちゃありましたね。やっぱり人に教えるためには自分がちゃんと理解していないといけないので、写真教室を重ねていくうちに技術も上がりましたし、教え方も良くなっていったと思います。みんなから「先生」と呼ばれると、自分を律していこうという気持ちにもなりますしね(笑)。

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山本写真機店の店内。ここでカメラ関連のポップアップやワークショップを開催することも。

山本さん:ただ、だんだんと生徒さんの作品のレベルが高くなっていくことによって、気づいたら競い合うようなピリピリした雰囲気になったり、最初に伝えたかった写真の本質から離れてしまうこともあったりして...。細々と続けてはいますが、なかなか難しい部分もあります。SNSも出てきましたし、ここ20年くらいで写真自体がすごく変わってきたなというのも実感しますね。

SNS時代に再発見する「アルバム」の魅力

---- SNSが出てきたことで、写真はどんどん日常的なものになって、「人に見せる」ことが前提になりましたよね。

山本さん:そうですね。今は、逆に日常を撮らない人の方が少なくなってきたと思います。僕は、日々をただ記録するだけじゃなく、なるべく"いい写真"にしようっていうことを伝えてきたんですが、それが当たり前になってきたというか。

インスタグラムが流行りだした頃、背中を向けた後ろ姿の写真とか、小さくポツンと人が立っているとか、おしゃれな感じの写真がすごく増えたんですよね。僕はアルバムをよくつくるんですが、そういう写真ってめくってるとスルーしちゃうんですよ。顔もちゃんと写ってないし、あんまり面白くなくて。

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---- 意外と"インスタ映え"しない写真の方が、アルバムの中で目がいくんですね。

山本さん:そうそう。普通にこっち向いて笑ってる写真とか、なんなら絶対にSNSには載せないような、半目の写真とかの方が見返すと面白いんです(笑)。人からの「いいね」だけを追ってしまうと、写真は少しずれた方向に成長してしまうなという感覚があって。ある時期、アルバムをつくっていたら急に写真がつまらなくなってきて、自分自身も無意識に流されていたなと実感したんですよね。たとえばみんなで遊びに行っても、「写真映えしないから」という理由で全員の写真を撮っていなかったりとか。

---- 「フォトジェニックじゃないといけない」って思い込んでしまうんですよね。

山本さん:だからこそ、写真をプリントしたり、アルバムをつくるっていうアナログな作業はすごくおすすめなんですよ。「何のために写真を残すのか」ってことを再確認できるから。写真はデータでクラウドに残しておけばいいやって思うかもしれないけど、ふとしたときにアルバムをめくったり、昔を思い出す時間って、やっぱり楽しいんです。それは理屈じゃない部分なんですよね。SNS時代だからこそ、アナログな形で写真を残していくことの魅力を写真店として伝えていけたらと思っています。

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夫婦そろって縁側で、笑顔の素敵な1枚。

後編では、山本写真機店の現像のこだわりや、家族を撮ること、写真を飾ることの魅力についてなど、さらに深くお伺いしていきます。

山本陽介さん(@yamacame

1979年生まれ。山口県・宇部市で3代続く「山本写真機店」の現店主。2012年にリニューアルした店舗にはスタジオ、ギャラリー、ラボなどを併設し、写真のワークショップや展示も定期的に開催している。また、「人生を記録しよう」をテーマに写真教室「cheeeese!!(チーズ)」を主宰、写真を撮る楽しさを多くの人に伝えている。

Photo by 今川裕季子

Writing by 坂崎麻結

WALL DECOR(ウォールデコ)
お気に入りの写真をパネルにできるサービスWALL DECOR。どんな写真にもマッチするシンプルなデザインで、飾る場所も限定しません。山本さんはカジュアルタイプをセレクト。シンプルで普遍的なデザインだからこそ、飽きが来ず、ずっとお気に入りであり続けてくれます。
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