暮らしに溶け込む写真の価値を問う連載、わたしの「写真と、ちょっといい暮らし。」第8回は、代々木上原で10年以上愛されるフレンチビストロ「MAISON CINQUANTECINQ」をはじめ、居酒屋「LANTERNE」、器のギャラリーを併設したレストラン「AELU」などを手がける株式会社「シェルシュ」の代表兼エグゼクティブシェフの丸山智博さんです。

「料理は、食事をすればなくなるという刹那的な面が魅力でもありますが、形として残るものにも憧れがありました。"写真"なら、自分を受け入れてくれる気がして」。そう話してくれた丸山さんは、3年ほど前にFUJIFILMの『X-Pro2』を買ったことをきっかけに、だんだんとカメラの世界にのめりこんでいったといいます。

丸山さんがInstagramに投稿する、日常の小さな揺らぎや季節の移り変わりを記録した写真は、これまで手がけてきたレストランが持つムードとも共鳴しているかのよう。今回は器を扱うギャラリー兼レストランの「AELU」にて、料理やお店づくりのこと、写真の楽しみ方についてを語っていただきました。

料理、そしてその周りにあるカルチャーに惹かれて

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---- 食に関わる仕事に興味を持ったきっかけはありますか?

丸山さん:大学時代に居酒屋でアルバイトをしたのがきっかけでした。料理をつくるすぐ横に、お客さんの喜ぶ姿がある。そのシンプルな構造と距離の近さが楽しいと思ったんです。子どもの頃から美術や図工など手を動かすことが好きでしたし、大学では化学を学んでいたこともあって、実験にも通ずる"料理"に自然と興味がわきました。

---- 丸山さんは料理の専門学校を経て、都内のフレンチレストランで修行をされたんですよね。フランス料理を選んだのはどうしてですか?

丸山さん:最初はなんとなく素敵だな、という漠然とした感じでしたね(笑)。でも初めて師匠のもとで本格的なフレンチを味わったときに、「ここで働きたい」と思ったんです。フランスのファッションや音楽のムードも好きだったし、フランス料理って僕が20代の頃はどこか特別な存在でもあったので、それも魅力的でした。

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---- 29歳で「MAISON CINQUANTECINQ」をオープンされたときは、"こういうお店にしたい"というイメージはありましたか?

丸山さん:もともとカフェ文化が好きだったこともあって、「フランス料理をもっと日常的に、カジュアルに食べてもらいたい」という気持ちがありました。フレンチをよく知っている人にも、知らない人にも、こんな素敵な食文化があるんだよというのを伝えたくて。お店の空間づくりに関しても、どんな音楽をかけようとかインテリアをどうしようとか、そういうことを考えるのが料理と同じくらい好きだったので、自分のお店を持ちたいという思いは強かったですね。

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---- お店づくりについて考えるときは、それまで見てきたもの、遊んできた場所など、影響を受けてきた文化の蓄積がヒントになったのでしょうか。

丸山さん:そうですね。当時は相当働いて、めちゃくちゃ遊んでましたから(笑)。「今週はこのクラブのパーティに行かなきゃ」とか、好きなDJが何をかけてるとか、現場の情報っていうのが自分にとってすごく大事だったんです。独立する前はレコードショップが併設するカフェでも働いていたので、そこでロンドンやNYの音楽をリアルタイムで聴いていたこともシーンやムードを掴むためのいい経験になりました。

僕が独立した2010年くらいというのは、フランスでもネオ・ビストロブームが起こっていた時期。当時はカウンターカルチャーのように、若いシェフたちが内装や音楽まで自由な感性で楽しむレストランをつくっていて、ナチュラルワインを扱うところも増えていきました。僕もその感覚で、自分の好きなものをお店のなかにぎゅっと詰め込みたいと考えるようになったんです。

 "編集者"のような視点で、店を育てていく

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---- 10年以上、さまざまなお店づくりに関わってこられたなかで、改めて大切だと感じることはありますか?

丸山さん:いつも意識しているのは、"自分たちの視点で別の価値観をつくる"ということ。自分の経験を豊かにして、引き出しを増やす。そこで得たアイデアや考え方を角度を変えて組み合わせてみたり、僕らなりに編集することで、オリジナリティが発揮できるんじゃないかと考えています。

たとえば、ジャガイモひとつとっても和食か中華かでアプローチが違いますよね。誰もが焼く食材をあえて生で出したりとか、視点の角度を変えてみる。そういう発想って「経験」や「出会い」がなければ生まれないものだと思うんです。高級な三つ星レストランでも、古くからある大衆居酒屋であっても、そこから自分なりにおもしろいと思う"原石"のようなものを見つけたい。それを組み合わせたり、編集したりするのが楽しいし、得意なことでもあるんです。

2202_02_06.jpg---- 多種多様な文化や出会いからヒントを得ることが大切なんですね。

丸山さん:そうですね。20代のアーティストや、色々な業種の若い人と話していると、すごく学びがあります。彼らは感性が鋭くて、シーンやムードが変わっていく瞬間にとても敏感。「AELU」で扱っている器も、20代など若い世代の子が気に入って買ってくれることが多いんですよ。年を重ねるとつい違和感を避けたり、好きなものが固まってきてしまうけれど、彼らのような知的好奇心はいつも持っていたいなと思います。

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「AELU」に併設する4階のギャラリーでは、さまざまな器作家の個展を開催

photo by Shinya Fukuda

---- 「AELU」のギャラリーではさまざまな作家さんの作品を扱っていますが、お店で使用する器に共通点はありますか?

丸山さん:土や磁器やガラスなど、ジャンルやスタイルは本当にバラバラです。次にどんな作品が出てくるかわからないような"今"の表現を探求する作家さんや、つくり手のエネルギーが凝縮したかのような力強い器などを置いています。僕たちは、作家さんが表現したいものを紹介する、"オリジナリティある媒体"のような存在でありたい。

料理人としても、いい器を目の前にするとモチベーションが上がりますし、負けないものをつくらなきゃっていう気持ちになるんです。「AELU」では、色々な作家さんの器で料理をお出ししているので、それも楽しんでほしいですね。

刹那的なものを残せるのが、写真の魅力

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お店で扱う器は、mushimeganebooks.さん(左)、Gurli Elbaekgaardさん(右上)、

鮫島陽さん(右下)など、作家による作品が中心

---- 料理の周りにはさまざまなカルチャーがありますが、写真もそのひとつですよね。丸山さんが写真を撮るようになったのはいつ頃からですか?

丸山さん:3年前くらいだったと思います。雑誌の取材などでプロの写真家の方にお店や料理を撮ってもらう機会が多いのですが、それぞれ違った写真になって、本当にすごいなとリスペクトしていました。それで自分自身も興味が出てきて、FUJIFILMの『X-Pro2』を買ったことをきっかけに、写真にのめりこんでいって。つい一週間くらい前にも、『XQ2』を買ったばかりです(笑)。

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愛用品のFUJIFILM『X-Pro2』(左)と、購入したばかりだという『XQ2』(右)

---- 丸山さんが感じる、FUJIFILMのカメラの魅力ってなんでしょうか。

丸山さん:きっとつくっている人がカメラを楽しんでいて、本当に好きなんだろうなと使いながら感じられるところ。色や写りはもちろん、デザインの良さや、プロダクトとしてのかっこよさも魅力だと思います。

---- 写真の面白みは、どういったところでしょうか?

丸山さん:料理は、食事をすればなくなるという刹那的な面が魅力でもありますが、形として残るものにも憧れがありました。ミュージシャンや画家になることは難しいかもしれないけど、料理や店づくりに関わりの深い「写真」であれば、自分を受け入れてくれるような気がしたんです。

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---- どんなときに写真を撮りたくなりますか?

丸山さん:記録的な意味合いもありますが、やっぱりお店の空間を撮るのは好きです。たとえば「AELU」は、西日がすごく綺麗なので、そういう瞬間を見ると自然と撮りたくなってくる。僕が写真にはまったことでスタッフのみんなもカメラに興味を持ち始めて、「ホワイトバランスおかしいよ」とか「このYouTubeがいいよ」とか、よく情報交換しています(笑)。

最近は散歩中にスナップを撮ることも多いです。おもしろい違和感を感じる瞬間や、季節の変化とか、美しい光景を見ると撮りたくなりますね。

写真を飾ることで、空間にムードが生まれる

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---- お気に入りの写真はありますか?

丸山さん:4階のギャラリーに飾っているのは、友人でもある写真家・野田祐一郎くんの作品。アイスランドで撮ったという馬の写真は、まるで抽象画のような1枚で、とても気に入っています。アートが空間にあるということの良さを、彼の作品を見るたびに感じますね。

2202_02_12.jpg今回丸山さんがセレクトされた1枚。海外の街角で撮影されたようなスナップだが、実は渋谷の風景。

---- 今回、富士フイルムのWALL DECOR(ウォールデコ)を試していただきましたが、選んだ写真は日常的な風景だそうですね。

丸山さん:こちらは、散歩中に渋谷のとあるカフェで撮ったテラスの写真です。お母さんと子ども、店員さんの雰囲気も含めて素敵な光景だと思い、リバーサルフィルムで撮りました。もう1枚は、夕暮れ時に渋谷の街を歩いていて何気なく撮った風景。カメラを持ち歩いて撮るようになってから、海外には行けてないので、早く行きたいです(笑)。

最近はフィルムカメラで撮ることも増えて、現像したネガフィルムをスキャンして、色調整もしています。なかなか思うようにいかないのが、また楽しいですね。

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ご自宅でウォールデコを飾る様子。こちらの写真は丸山さん本人が撮影。

WALL DECOR(ウォールデコ)/ギャラリータイプ A3サイズ相当

---- 丸山さんが選ばれたのは、ギャラリータイプのA3サイズですが、ウォールデコを使用した感想はいかがですか?

丸山さん:普段は写真を印刷することが少ないので、クオリティの高い仕上がりに驚きました。写真は印刷することによって、立体的な気配まで帯びる作品になるんだなと。自分の写真を生活のなかに取り込むことは少し恥ずかしさもあったのですが、飾ってみると次第に愛着がわいてきました。つくり方も簡単だったので、これからは季節の移り変わりやそのときのムードによって、色々な写真を飾っていくつもりです。

丸山智博さん(@chihiromaruyama

1981年生まれ、長野県安曇野市出身。代々木上原を中心に「MAISON CINQUANTECINQ」、「LANTERNE」、「AELU」、「ごらく」などの店舗を経営する株式会社シェルシュの代表兼エグゼクティブシェフ。直営店の運営やケータリングのほか、飲食店のプロデュースやディレクション、メニュー開発、コンサルティングなども行う。

Photo by 千葉顕弥

Writing by 坂崎麻結

WALL DECOR(ウォールデコ)
お気に入りの写真をパネルにできるサービスWALL DECOR。どんな写真にもマッチするシンプルなデザインで、飾る場所も限定しません。丸山さんはどちらもギャラリータイプのA3サイズ相当をセレクト。イメージに合わせて5色から選べる余白のマット台紙は、今回オフホワイトで制作。
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