暮らしに溶け込む写真の価値を問う連載、わたしの「写真と、ちょっといい暮らし。」第9回は、イタリアンレストラン「LIFE」を始め、全国に5店舗を運営するオーナーシェフの相場正一郎さん。オリジナルプロダクトの制作、レストランのプロデュースなど、シェフという肩書きにとらわれず、多方面で活躍。また、7年前から東京と栃木県・那須、2拠点生活を送り、仕事とプライベートを上手に楽しむライフスタイルが注目を集めています。
相場さんは、カメラ好きとしても有名。18歳で写真のおもしろさに目覚め、2003年の「LIFE」のオープン当初からおよそ年1回のペースで発行しているフリーペーパーは自身で撮影を担当しています。また、日頃から料理や店の様子を撮影し、SNSなどにアップするなど、写真との付き合いはとても親密です。
自宅では、お気に入りの写真を額装して眺めたり、パネルにできる富士フイルムのサービスWALL DECOR(ウォールデコ)を以前から利用していたという相場さん。写真を飾ることの楽しさや、写真がもたらす豊かな時間について、参宮橋の「LIFE son」で話を聞きました。
一人でのイタリア修行。寂しさを紛らわせてくれたのがカメラだった
─相場さんが写真に夢中になったきっかけは何でしたか?
相場さん:18歳でイタリアへ料理修行に出た時、父親から譲り受けたフィルムカメラを持って行ったんです。知り合いもいない町で一人、休日は何もすることがないから、カメラを持ってよく街を撮影していました。寂しさを紛らわすために始めたことでしたが、イタリアは町自体がどこを撮っても絵になるし、すごく美しい。写真のプリント技術も高いので、素人の僕でもいい写真を撮れた気分になるんです(笑)。カメラ片手に歩き回っていたおかげで、写真好きの友達もできました。友人の暗室を借りて、自分で現像もするようになりました。
─それからずっと、写真は趣味として楽しまれてきたのでしょうか?
相場さん:結構波があって、撮っていない時期もあるんですが、店を始めてからは、料理や店の様子を自分で撮りたいと思って、デジタルカメラを使って撮影していました。あと、出張や旅先の風景や出会った人々を写した写真をまとめて、「LIFE」のフリーペーパーを作ったり、フォトブックにまとめたり。一時期、カメラ熱も落ち着いていたんですが、コロナ禍でカメラを楽しむ時間が増えるにつれて、改めて「フィルムカメラっておもしろい」と思ったんです。
─フィルムがおもしろいと感じる点はどういうところですか?
相場さん:現像にたどりつくまでの過程が楽しいですね。どういうシチュエーションで撮るのか想定してフィルムを選んで、その場所に行って写真を撮り、フィルムを使い切って、現像に出してやっと見られる。その場で写真が確認できるデジタルカメラにはない楽しみです。それに、デジタルカメラはなんとなく上手に撮れるけど、フィルムカメラは撮りたいものに合わせて、絞りや露出、シャッタースピードを調整して自分だけの色合いを見つけていく。そういう所作にこそ「写真の楽しさ」があると個人的に思っています。あと、イタリア修行時代から知るカメラマンの友人から珍しいフィルムカメラの存在を教えてもらうのも楽しいですね。
料理も写真も、季節とタイミングが大事
─最新刊『道具と料理』(ミルブックス)はご自身で写真を撮られたそうですね。実際に撮ってみてどうでしたか?
相場さん:楽しかったけど、大変でしたよ(笑)。自分で料理を作って、構図を決めて撮る。オートフォーカスじゃないから、何度も撮っていくうちに指が痛くなってきて。休みの日に少しずつ進めていたので、すべて撮り終わるのに丸1年ぐらいかかりました。僕はカメラのプロではないから、正しい撮り方はわからない。自分で見ても「これは色飛びしてるな」と反省点もあるのですが、プロじゃないからこそ、そこは開き直って撮影を楽しんじゃおうと思ったんです。
─自分で作った料理を自分で撮る。そこには、プロのフォトグラファーさんにはない作り手の眼差しがあるのかな、と。
相場さん:そうそう。声をかけてくれた編集者も「それがいい」と言ってくれました。料理がおいしそうに撮れているかはわからないんですけど(笑)、自分の視点では撮れているなと思います。
─料理と写真。共通するものはありますか?
相場さん:季節とタイミングが大事、ということでしょうか。お腹が減った時、旬の食材を使った料理を食べて「おいしい」と感じるのと一緒で、写真も一番いい時期のいい光の中で撮るといい写真になる。今日みたいに夕日が綺麗な日は「写真を撮りたいな」と思いますね。
─淡々と日々を過ごしていると、何気ない季節の移ろいを見過ごしてしまいそうになりますが、写真を撮っているとそういうところに目を向けられる。
相場さん:はい。写真が趣味になると、散歩しているだけでも、日常にたくさんの発見があります。あとは、出張先や旅先でよく地元の中古カメラ屋さんに行くのも楽しみになりました。東京の相場と違うなぁとか、こんなに珍しい機種があるのかとか。でも、カメラはすぐに買わないように気をつけています。ものが増えていくと、その分、一つに対して向き合う時間が減ってしまいますから。
好きな風景をいつも見ていたい
─写真の楽しみ方は人それぞれだと思いますが、相場さんの場合は撮影した写真をフリーペーパーやフォトブックにするなど形にして、いろんな人と共有されている印象があります。
相場さん:紙が好きなんですよ。ウェブで写真をアップしてシェアした方が見てくれる人の数は多いと思いますが、あまりそこにおもしろさを感じないんです。数は少なくても、店に通ってくれるお客さんや友人に自分が見た美しい風景や素敵なものを見てもらえたら嬉しいですね。
─東京と那須、それぞれの家ではご自身で撮影した写真を飾られているそうですね。
相場さん:好きな風景をいつも見ていたいんです。撮影した時の空気感とか楽しかった時間が、日常の中にあると気分がいいですよね。作品としていいかどうかというよりも、時間の余韻を楽しむ感じです。寝室にはハワイのビーチ、リビングには南仏の海の写真を飾って、日々眺めています。そのほかにも、家族写真をかけているコーナーもあります。
─お気に入りの写真をパネル加工にする、富士フイルムの「WALL DECOR」もすでに利用されていたそうですね。
相場さん:数年前、「LIFE」でWALL DECORのイベントをする機会があり、その時、自分の写真も何枚かWALL DECORにしたんです。
─WALL DECORの魅力はどんなところにありますか?
相場さん:それまで、額装って結構ハードルが高かったんです。写真をプロラボに持って行って、打ち合わせをして、額装屋に持って行って相談して、それをまた取りに行って....、と時間と手間がかかる。でも、WALL DECORはそれを一貫してウェブでできるのでとても手軽ですよね。データ入稿すれば14日前後で届くし、クオリティの高さも安心できます。
"我が家だけの日常"を撮りたい
─相場さんのInstagramでは、時折、お子さんたちとカメラを持って出かけている様子をアップされていますね。
相場さん:写真は特に長男がハマっています。彼が遠足に行く時、カメラを一つ貸したら、プロのカメラマンさんに「君、すごくいいカメラを持ってるね」と声をかけられた、と嬉しそうに話してくれました。それから興味が出たみたいで。天気がいい時は、息子と一緒にカメラを持ってよく散歩しています。今、海外に行けない分、休日は二人でカメラを首からぶら下げてあちこちに出かけて、屋台でご飯を食べて帰ってくる。そんな過ごし方をしています。
─一人の寂しさを紛らわすために始めた写真が、今は家族と共有できる趣味の一つになった。写真は相場さんの中でいろんな形で関わってきたんですね。
相場さん:そうですね。でも、僕自身、写真に対してのスタンスは変わらないんです。ヨーロッパの街並みから撮る楽しさに気づいたので、風景を写すのが相変わらず好きですね。
─今回、WALL DECORにした写真は、以前にも制作されたことがある作品だそうで、今回はマット仕上げに。できあがりをご覧になってどうですか?
相場さん:以前はツヤ加工にしたんですが、マットもいいですね。最初に作った写真は那須の家に飾っていて、東京でもこの写真を眺められるようにと思って今回オーダーしました。少し前に撮った娘の写真ですが、当時、うちの母が作ってくれたワンピースを気に入ってよく着ていたこととか、ピアノが好きでよく弾いていたこととか、いろんなことを思い出させてくれる、お気に入りの一枚です。
─何気ない日常を慈しむ気持ちがこの写真から伝わってきます。
相場さん:逆に、子供の運動会や発表会とか学校の行事にはカメラを持っていかないんですよ。妻からは「あんなにたくさんカメラを持ってるのになんで持ってこないの?」って聞かれるんですけど、そういったイベントは動画で撮ればいいと思っていて(笑)。それよりも写真では、我が家だけの日常の景色を撮り続けたいと思っています。
相場正一郎さん(@aiba.shoichiro)
1975年栃木県生まれ。高校卒業後、イタリアのトスカーナ地方で料理修行。帰国後は、東京都内のイタリアンレストランで店長兼シェフとして勤務。2003年、東京・代々木公園駅にカジュアルイタリアン「LIFE」をオープン。現在、5店舗のレストランを運営し、カルチャーを作る飲食店としても注目を集める。主な著書に『道具と料理』(ミルブックス)、『世界でいちばん居心地のいい店のつくり方』(筑摩書房)、『LIFEのかんたんイタリアン』(マイナビ)ほか多数。
Photo by 斉藤菜々子
Writing by 浦本真梨子