物を別の何かに"みたて"て新たな価値を見出すように、植物を通じて四季の新たな楽しみを提案する花屋「みたて」。京都・北区でお店をご夫婦で営む西山美華さんは、ご自宅にも植物や作品を素敵に飾っていて、ご自身のInstagramで見られるそれらのアイデアや息子さんとの日々のエピソードには共感の声が多く寄せられています。
前編では、草花や写真を空間に「飾る」ことについて、西山さんの考えを伺いました。
野山をありのままに表現したい
----欠けた土器の内側に枯れ葉を散りばめ、その中からつくしを覗かせたり。稲穂を束ねて逆さにすることで富士山に見立てたお飾りだったり。花屋「みたて」を訪れると、いつも植物の後ろに野山の景色が見えるように思います。
西山さん:それは嬉しいです。「みたて」では、その時々の山野草を中心に日本古来の植物を扱っています。私はどこかのお店や庭園というより、野山そのものに影響を受けていて。
例えば、鳥が運んできた種から自然に芽が出てきた、という世界観が大好きなんです。もともと洋花を扱うお店に勤めていたのですが、もっと野山そのものを表現するような花屋を、との想いから夫婦で始めたお店です。
WALL DECOR(ウォールデコ)/ ミュージアムタイプ A2サイズ相当
----こちらのご自宅も、窓が大きいからでしょうか。お庭の植物や山々がどこからでも見渡せて開放感がありますね。
西山さん:こちらは複数の住居から成り立つ集合住宅で、一続きになったお庭が建物をぐるりと囲んでいます。お庭は共有スペースになっていて、住人は誰でも通ることができるようになっています。
----お庭同士が通路のように繋がっているんですね。風通しが良いからか、植物も生き生きしています。こちらの植栽は西山さんが手がけられていると聞きました。お庭のテーマはあるんでしょうか?
西山さん:住人みんなで楽しんでいる庭なので、特にテーマは設けていないのですが、建築とのバランスを考えながらその時植えたいものを植えています。お店でも扱っている山野草や、料理や染物に使うなど実用的に楽しめる植物を植えることが多いです。食べた果物の種を植えることもあります。
先日は、息子が拾ってきたどんぐりから柏の葉が生えてきましたよ。住人の皆さんも楽しんで、好き好きに植えているようです。結果的に、一年を通してどこかしらお花が咲くお庭になっています。
----西山さんがInstagramで発信している日常の写真と文章からも、季節の移り変わりを家族でしみじみ味わって生活している様が伺えます。
西山さん:お庭もそうですが、家族3人とも料理と食べることが大好きなので、食を通じて季節を感じる瞬間は多いです。息子は2歳頃から簡単な料理を一緒にするようになり、小学3年生になった今では家族の夕飯を作ってくれるくらい、お料理が大好き。旬のお野菜や魚を調理するのもそうですし、お庭から香りづけや彩りになる植物をさっと摘んできてお皿に添えることも多いです。
植物を育てるのと子育ては同じ
----お店でもご自宅でも、植物に近い暮らしをされていらっしゃるんですね。ここで暮らすようになり、変わったことはありますか?
西山さん:ここで暮らしていると、外なのか中なのか一瞬わからなくなるほど、植物と一緒に"生きている"感覚になります。5年前に越してきてから、植物の気持ちがよりわかるようになりました。 そこから面白いことがあって。新型コロナによるステイホーム期間が続いた2020年の1年間、じっくり息子と時間を過ごしていた時。植物を育てるのと子育てって、一緒かもしれないということに気づいたんです。植物を育てるように子育てすればうまくいくし、その逆も然り。それまで抱えていた子育ての悩みがすーっと楽になりました。
----植物に向き合っている西山さんならではの発見ですね。具体的にはどういうことでしょうか?
西山さん:どちらも大切なのは、「じっくり観察すること」です。例えば、植物に元気がないと、すぐにお水を!と焦ってしまいがちですが、まずはじっと植物を見てみる。子どもに対しても同じです。手や口を出さずに、まずは辛抱強く観察してみる。すると、何を求めているのかが自然とわかってきます。
----必要な時に必要な手を差し伸べる、ということですね。
西山さん:そうなんです。「植物をどうやって育てたらいいんですか?」という質問をよくいただくんですが、育て方に一つの正解はないと思っていて。植物も人間も生まれた場所も違えば、環境も全然違う。若い頃は「2日に1回水をあげてください」などとセオリー通りに答えていたこともありましたが、今では「植物をよく観察してあげてください」とお伝えするようにしています。
季節ごとのかけ替えも気軽な「WALL DECOR」
----今回、WALL DECOR「ミュージアム」にプリントの質感は「ディープマット」を選んでいただきました。お弁当箱のようなこちらの写真はなんでしょうか?
西山さん:息子が5歳のお正月の時に、和紙や折り紙で作ったお節の作品です。息子はままごとが昔から大好きで。アイスクリーム屋さん、ドーナツ屋さん、お寿司屋さんなど、これまでも色々な作品を夫と一緒に作ってきました。
そのなかでも、お節が好きな息子が自分から作り始めたのがこちらです。ままごと作品はいつも一通り遊んだら友人にあげたりして残っていないんですが、こちらはたまたま写真に撮っていて。本格的なお節料理の本を見ながら作っていたなぁとか、当時のことを懐かしく思い出します。
----もう一枚は京都で6月(夏越の祓(なごしのはらえ)の時期)に食べられる和菓子「水無月」に見立てた作品を撮ったものですね。京都の方はこのお菓子が大好きですよね。
西山さん:こちらは今回の企画に合わせて、息子に作ってもらいました。氷をイメージした涼やかなお菓子なので、セロハンテープで小豆の部分に光沢を出したのがポイントだそうです。
----どちらも季節にちなんだ食べ物ですね。この2枚を選んだのはなぜですか?
西山さん:植物についてもそうですが、空間を飾る時は「季節感」を大事にしています。飾るのは、見てもらうためにする行為ですよね。自分たちが見ても楽しめますが、それと同じくらい、おもてなしでもあると思っていて。
例えば、日本では季節やその時のお客様に合わせて床の間の掛け軸をかけ替えていきますが、その考え方と同じです。季節が明確に現れていないものでも、そこは大事にしています。例えば息子が描いた絵を飾ることも多いのですが、「青で夏っぽい」などの印象から、季節ごとにかけ替えたりしています。
空間を大切に。何を、なぜ、どう飾る?
----季節ごとに写真をかけ替えるとは、西山さんならではのアイデアですね!ふだん写真はよく飾られますか?
西山さん:実は、これまで絵や作品を飾ることはあっても写真を飾ったことはなかったんです。悩みに悩んで、過去の写真をプリントアウトしたものを壁に貼り、家族会議を開いたくらいです(笑)。飾る場所は、家族3人が最も長い時間過ごす、団欒スペースのこの壁に全員一致で決まり。3人とも食が好きですし、ダイニングテーブルからも近いので、飾る写真も食にまつわるものの中からいくつか選んで。結局、3人で選んだのがこのお節でした。
----家族会議!それほどまでに、写真を飾るのは西山家にとって大きなことだったんですね。
西山さん:そうなんです。私たち夫婦には、空間を大事にしたいという思いがあって。この家に住むようになってからその思いは一層強くなりました。その上で、飾る写真について考えた時、アルバムにする写真とは違うなと思いまして。飾る写真は、空間の良さを生かすもの。この空間にピタッとはまるのは、家族写真や息子の料理の写真ではなく、日常に寄りすぎない、作り込んだ作品性の高いものがいいのではないかと。これなら、初めて見た方がちょっぴり驚くような意外性もあるかなと思ったんです。
後編では、料理や工作など手を動かすのが大好きという息子さんが夏休みの自由研究に作った「フィルムカメラ研究ノート」について、またその根底にもなっている「本質から教えてあげたい」という西山さんの子育てへの思いについて深くお聞きします。
Photo by 斉藤菜々子
Writing by 池尾優
西山美華さん(@nishiyamamica) 2013年に京都市北区紫竹に季節の草花を扱う花屋「みたて」を夫婦でオープン。山野草に合う骨董なども取り揃える。雑誌『&Premium』にて、「花屋〈みたて〉に習う、植物と歳時記 折々に見立てる京の暮らし」を連載中。アパレルショップ、料理屋、宿などのいけこみや全国発送なども行う。