インテリアコーディネートやプロダクトのプロデュースなど、暮らしにまつわるさまざまな仕事を手がけている砂子(まなご)優子さん。自宅兼スタジオ「Casaさかのうえ」のオーナーもつとめ、中国茶会などのイベントを主催しています。
「一瞬一瞬を大切に生きること」。SNSで暮らしの風景を発信する優子さんに日々の生活や写真を撮ることについて尋ねると、そんな思いが根底にあると答えてくれました。
前編では、優子さんが写真に残したいと思う瞬間についてや、飾ることで感じる変化などを伺ったインタビューをお届けします。
"旅の記憶と、大事にしたい日常"が思い浮かぶ一枚
---- まず、「WALL DECOR(ウォールデコ)」で選んだお写真について聞かせてください。
優子さん:これは、山中湖に行ったときに撮影した木漏れ日の写真です。うちの窓からも朝はこんな光が入ってきて、きらきら動いたりゆらゆら揺れたりするんです。
そういう風景って「今、このときだけの一瞬なんだ」と感じて、すごく惹かれるというか、大切だなと思うことが多くて。旅先でもつい足を止めて一人で撮りはじめてしまうんです(笑)。今回はその中から、自宅に合いそうなものをWALL DECORにしてみました。
---- ちょっと絵画のようにも見える、抽象的なイメージですね。
優子さん:そうですね、絵に近いかもしれないです。写真というよりもオブジェのような感覚で飾りたかったのもあって、厚みがあって自立する「カジュアル」タイプの「スクエア mini」を選びました。小さな窓から見える景色みたいで、なんだかいい感じですよね。
スマートフォンで撮った写真だったので画質がちょっと心配だったんですが、とても綺麗な仕上がりで安心しました。影の部分のちょっとした外壁のムラとか、繊細な部分までしっかり出ているし、マットな質感も気に入っています。
---- 実際に写真を飾ってみて、どんなことを感じましたか。
優子さん:そのときの思い出が蘇ります。一瞬一瞬を大切に生きたいと常々思っているので、この木漏れ日の美しい風景を見ると「当たり前の日常を大事にしよう」という気持ちにさせてもらえる。生活の中でパッと目に入ったときに、旅の記憶や私が大事にしていることを思い出させてくれるんです。
好きなものを飾ると、空間そのものが変わる
---- 優子さんは写真だけじゃなく、絵も描かれていますよね。
優子さん:はい、自分で描いた絵を家に飾ることもあります。額装せずに直接飾れるようなスクエアのキャンバスに描くので、今回のWALL DECORと並べても馴染むと思いました。
絵は淡い色を何度も塗り重ねて描いています。空の色や木漏れ日の色などを思い出して重ねていくことで、自分の中の記憶が少しずつ作品に現れてくるんです。絵も写真も、見る人や季節や時間によって感じ方が変わるような抽象的なイメージが好きですね。
---- 石や地層や植物のような、自然の色味を思わせるグラデーションがとても綺麗です。写真や絵を飾ることで、日々にどんな変化があるでしょうか?
優子さん:う~ん、なんだろう。でも、好きなものを飾ると空間が変わりますよね。居心地のいい暮らしを大事にしたいなと思うとき、何かを飾ることで雰囲気が出たり、気分がよくなったりする。風景や思い出の写真など、自分の「好き」を詰め込むことができるのもいいなと思います。
幸せや豊かさは、外からやってくるものじゃない
---- 優子さんが日常的に写真を撮るようになったきっかけはありますか?
優子さん:一眼レフのカメラを使いはじめたのは、子どもが産まれたのがきっかけでした。最初は記録するような感覚で写真を撮っていたんですが、だんだん日常の風景を写すようになって。Instagramにアップしている写真も、一眼レフで撮ったものを使っています。
---- Instagramには2016年頃のお写真もありますが、当時から雰囲気が統一されているように感じます。どんなことを意識して撮影していますか?
優子さん:そうですね、統一感は大事にしています。でも、実は年々自分自身とともにちょっとずつ変わってきているんです。
昔は「今の自分を変えなきゃいけない」と思っていたので、外から吸収しようとしすぎていた時期もありました。自宅にも色々な雑貨を飾ったりしていたので、振り返って見ていると、詰め込みすぎてるなと......。昔の写真には、その頃の私の気持ちが表れていたんだと思います。とはいえ、今もまだ模索しているんですけどね(笑)。
最近は「余白」だったり、「手放すこと」を大事にするようになってきました。余白がないと何も入ってこないし、柔軟に生きることで出会えるものも多いんです。暮らしがシンプルになったことで、写真も少しずつ変化していますね。
---- 何気なく撮っていた日常の写真でも、じっくり見ていると色々な発見がありますよね。コロナ禍での経験も影響したのでしょうか。
優子さん:それは、すごく考えたかもしれないですね。目の前にある自分の幸せに気づくか気づかないかは自分次第なんだなと。
家があって家族もいて友人もいてご飯も食べられているのに、どこか物足りなさや虚しさを感じてしまうときもあると思うんです。幸せはやってくるものじゃなく自分から気づいていくものだし、目の前のことに感謝して生きていくことがどれだけ大切で尊いかっていうのを改めて感じています。この数年を経て、やっとそう思えるようになってきたのかもしれません。
「お母さんの夢はなに?」と聞かれて
---- 「幸せに気づく」というのは簡単なようで難しいですよね。優子さんの写真は暮らしにまつわるものが多く「豊かな瞬間や風景は家の中にあるんだな」とも感じました。
優子さん:そうですね。それは私もすごく感じていて、この家を建ててよかったなと思っているんです。夕方に西日がさして布ごしにふわーっと光が入ってきたりすると、自然と心が動いて写真を撮りたくなる。
だから、撮影のために出かけたりもしません。「人が集まるお家」をテーマに建てたので、今まで本当にいろいろなご縁があったんですよ。
---- もともとはギャラリーをされていたんですよね。
優子さん:最初はギャラリーとして運営していたんですが、3人目の子どもができたときに体調の問題もあって手放したんです。それからは一部をレンタルスペースとして運営したり、写真やインテリアにまつわるお仕事をさせてもらったりしていました。子どもにも以前、「お母さんの夢はなに?」って聞かれたことがありまして(笑)。
「やりたいこと」じゃなく「夢」って言われるとなかなか答えられなかったんですが、やっぱり自分の理想のギャラリーをやりたい気持ちがずっと根底に残っていたみたいなんです。それで、「器を置いたりお茶を出したりできたらいいな」と思いはじめて、来年の再開に向けて準備しています。
---- ギャラリーを再開されるんですね! それは楽しみです。
優子さん:以前に比べ、子どもたちにも手がかからなくなってきたので、春夏秋冬で一回ずつくらいのペースで、イベントができたらいいなと。ギャラリーを再開しようと考えたときに、改めて「暮らしにまつわることをしていきたい」と思ったんです。毎日の暮らしを大事にしてほしいという思いは、私が中国茶を学びはじめてより感じたことでもあります。まずはお茶会の開催から少しずつ始めて、作家さんの作品も見ていただけるようにしていきたい。お茶や器を通して、私が大切にしていることを伝えられたらいいなと思っています。
後編では、生き方や考え方の面でも影響を受けているという台湾茶道の魅力について、また、優子さんが思う「豊かな暮らし」について、じっくりとお伺いしていきます。
砂子優子さん(@yuko.casa)
2013年に自宅兼ギャラリー「Casaさかのうえ」をオープン、オーナーとして運営を行う。人々が集うコミュニティスペースとコンテンポラリーアートの発信地として人気を集めたのち、一時閉館。その後はスタジオ運営やインテリアコーディネイト、プロダクトのプロデュースなど、暮らしにまつわるさまざまな仕事を手がける。2023年春、ギャラリーを再開予定。
Writing by 坂崎麻結
Photo by 上原未嗣