愛知県・名古屋から電車で1時間ほどのエリアに住むグラフィックデザイナー・飯島百合さん。2022年12月に完成したばかりだという新居は、ギャラリーのようなどこか緊張感が漂うクリーンで洗練された空間。
職業柄、日々多くのデザインに触れ、研ぎ澄まされた審美眼で選ばれた家具や日用品が並ぶリビングは、ミニマルさを感じつつも「好きなものに囲まれる暮らし」を実現していました。
随所に散らばめられたその一貫した世界観は、ご自身で撮影する写真にまで広がります。前編では、写真に興味を持ったきっかけや愛用するカメラ、そしてご自宅のインテリアについて伺いました。
「建築」好きから「カメラ」好きへ
ーーそもそもカメラに興味を持たれたきっかけは?
飯島さん:いつ頃でしょうね。カメラスタートというよりかは、現代建築が好きだったことが始まりだと思います。建物が好きで雑誌や写真で見るだけでなく、実際に訪れることが増え、その道中に写真を撮る...そうするうちに、撮る写真にもこだわりを持つようになってきて。
コンパクトデジタルカメラを片手に美術館を巡ったり、街の印象的な建築物を撮るようになっていったのがきっかけだと思います。
ーー写真を飾ることはこれまでにありましたか?
飯島さん:撮影した写真をプリントすることはあっても、どこか気恥ずかしい気持ちもあって飾ることはしていませんでした。今回制作したWALL DECOR(ウォールデコ)は、モノクロの写真にしたことで、自宅のモダンなインテリアにも馴染んでいてとても気に入っています。
ーーWALL DECORの良さはどんなところにありますか?
飯島さん:「キャンバスタイプ」は、まるで絵画のような風合いと謳われている通り、写真というよりもアートに近い印象です。キャンバス地ならではの風合いがあるためインテリアとの相性もいいんですよね。自宅には絵画を飾っているので、その統一感を考えてセレクトしました。
ちなみに写真は、自宅のアトリエにて花を撮影した写真でWALL DECORのために撮り下ろしました(笑)。アトリエは光の入る空間のため、その光と床や壁のモルタルを活かしてみたのですが、影が幾重にも重なって雰囲気のあるカットになりました。カラーでも相性はいいと思いますが、私はモノクロで表現しました。商品の特長も掴んだので、さらに雰囲気の出る写真を撮影して組み合わせを楽しんでみようかと考えています。
カメラと写真が繋いだ夫婦の出会い
ーーSNSには飯島さんの空気感が伝わる写真があがっている印象です。普段はよく撮影されますか?
飯島さん:最近は自宅の中で撮ることが多いですね。自然光を活かした写真が好きなこともあって、日の出ている時間帯が多いです。
ーーご主人もカメラがお好きだと聞きました。
飯島さん:そうなんです。私たち夫婦の出会いはカメラや写真がきっかけのひとつです。私も主人のカメラ好きに影響を受けて、一眼レフにも興味を持つようになりました。いろいろと遍歴を経て、現在の愛機はFUJIFILMの「X-E4」です。
実は当初の狙いはFUJIFILMの「X-Pro3」だったのですが、「X-E4」を試したところ「キレイ! シンプルな機能も使いやすい...これがいい! 」となりまして(笑)。使い込むうちに広角レンズにも興味を持ち、ついに購入しました。近日中には届くので今はそれが楽しみです。
ーーお二人でカメラライフを楽しまれているんですね。
飯島さん:コンパクトなのにしっかり撮れますし、さまざまな"色"を楽しむことができるのも魅力です。機能のひとつである多彩な色調・階調表現を設定できるフィルムシミュレーションは、フィルムっぽく映る「ASTIA」を使用しています。主人はアナログ時代に同名のフィルムを使用していたそうなので、当時の話を聞いたり特長を教えてもらいながら色表現を楽しんでいます。
削ぎ落とされたデザインを追い求める
ーー飯島さんは好きなものに対して一貫している印象です。以前からそうなんでしょうか?
飯島さん:そうですね、最近は特に定まってきた感じがします。以前はお気に入りの家具やプロダクトが無造作に置かれた雰囲気が好きな時期もあったのですが、今は余白を意識して、物ひとつひとつが引き立つスタイリングが好みです。インテリアや建築で言えば、モダニズムやポストモダンに惹かれます。この家の着想も美術館やギャラリーからなんです。
ーー参考にされているアイデアソースや場所はありますか?
飯島さん:美術館やギャラリーを巡ったり、雑誌を見たりはよくしています。東京・目黒の「LICHT gallery」は展示やセレクトしているアイテムも好きですね。その他では、海外の建築デザインやインテリアが紹介されている「The Local Project」も参考にしています。どれもそのまま模倣するのではなく、それぞれのエッセンスや雰囲気を自身の中に取り込んで置き換えるようにしています。
ーーインテリアは昔から好きだったのですか?
飯島さん:学生時代、それこそ10代の頃から好きですね。何がきっかけかわからないほど、いつの間にか夢中になっていました。90年代半ば頃はイームズのデザインに惹かれ、当時からユーズド家具を扱う「Mid-Century MODERN」でヴィンテージのアームシェルチェアを購入したり。
これまでは、フレンチからアメリカや北欧のミッドセンチュリー、クラシックモダンやバウハウスを変遷し、今はこれまでに楽しんできたインテリアを自分なりに解釈し、ミニマリズムとポストモダンのエッセンスを取り入れたオリジナリティのある空間づくりを追い求めるようになっています。
自宅の外観は、ミニマルデザインとして有名でミニマリズムの象徴とも言われるイギリスの建築家、ジョン・ポーソンの作品を参考にしました。彼の携わった作品のように、「無駄のない削ぎ落としたデザイン」が好みのようです。
LDKの一角には小さなアトリエを設けました。ここでノートパソコンを持ってきて作業をしたり、写真撮影をしたり、椅子に座ってゆっくり中庭を眺めながら過ごしたり、そんな風に時間を忘れて過ごす大切な空間なんです。
後編では、一から新居を建てた飯島さんのその構想や経緯、こだわった点について伺っています。お楽しみに。
飯島百合さん(@carmes_design)
高知県出身。東京でのデザイナー勤務を経て結婚を期にご主人の実家のある愛知県へ移住。賃貸生活を続け、2022年末に念願であった新居へ引っ越し。グラフィックデザインを主軸にロゴ・パッケージ・プロダクト・空間など、幅広いデザインを手掛ける。感性の鋭さと明確に描いたイメージを具現化するスキルを体現した新居は、もはや作品のひとつである。
Photo by 斉藤菜々子
Writing by 小林 雅之