アパレルブランド「iroiro」代表の小阪靖子さんは、福岡を拠点に、長年タイに通いながら現地の生産者と関わり、ものづくりを行っています。ご自宅にはお祖母さまから譲り受けた食器棚や店舗で使用していた古家具、タイをはじめとする各地で集めた雑貨・工芸品が並び、一つひとつに物語を感じる温和なムードが広がっています。

そんな素敵なご自宅に飾られているのが、自身の写真を使って制作したWALL DECOR(ウォールデコ)。素朴で温かみのあるインテリアにしっくりと馴染みながらも、さりげなくアクセントをもたらす存在感が印象的です。

前編では、小阪さんがタイに魅せられたきっかけや、そこから生まれたアパレルブランドのこと、そしてWALL DECORに選んだ写真への"想い"、作品づくりでの新たな発見について尋ねてみたいと思います。

はじまりは、タイの人々との出会いから

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----小阪さんは、タイと現地に住む人たちへの"好き"が高じて、アパレルブランドを立ち上げたそうですね。

小阪さん:はい。1996年に旅行で初めてタイに訪れた時に、「タイ人、最高!!」と胸に響いて。ブランド設立は、大好きなタイの人々と仕事がしたい、少しでも長くタイの人々と一緒にいたいという思いがきっかけです。じゃあ私に何ができるだろうと考えた時に、互いに利益を出せて長期的に続けられるビジネスがアパレルでした。また、最初に知り合った方がたまたま縫製工場の人だったり、チェンマイのナイトバザールでアパレル出店者の方と仲良くなったりと、タイミングと縁にも引き寄せられて、アパレルブランドを立ち上げました。

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小阪さんが代表兼デザイナーを勤める「iroiro」。タイの生産者と関わりながら、

日本のライフスタイルに落とし込んだオリジナルの衣服をつくる。

---それから25年以上、タイの生産者の方とのお付き合いがしっかり続いているのは、まさに"有言実行"ですごいです。そもそも、タイのどんな部分に惹かれたのでしょうか?

小阪さん:食べ物はおいしいし、みんな優しくて、元気になれる大好きな国。たまに突然手のひらを返す人がいてギョッとすることがあるけれど、なぜか許せちゃうし嫌いにはなれない。タイの人たちは子どものように純粋で、ユーモアがあって面白いんですよ。本当にハッピーな気質で、堅苦しくなく、その場にいると私も心が解放されます。

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----おおらかなタイの気質や文化にインスピレーションを得る機会も多そうですね。ご自宅に飾られている器や雑貨にも、タイの文化的で神聖なムードを感じます。これらはどちらのものですか?

小阪さん:魔法のランプのようなティーポットは、タイのもの。シンプルなガラス製でかわいいですよね。日本の作家さんの器とも相性が良くて、とても気に入っています。また、自宅に並ぶカゴ類もタイメイドのものばかり。水草の一種であるカジューで編んだ収納ボックスは、以前「iroiro」で販売していたオリジナルアイテムなのですが、今も個人的に愛用しています。あと、タイでは仏像や高僧の姿をかたどった「プラクルアン」と呼ばれる小さな護符(お守り)があり、そういったものをいくつか集めたりもしています。

抽象的なフォトグラフに、想いを込めて

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----タイをはじめとするアジア諸国の雑貨や工芸品と一緒に飾られた、WALL DECORも印象的です。小阪さんのご自宅にはWALL DECORの作品が2点ありますが、まずはこちらの写真について教えてください。

小阪さん:この写真はタイ・バンコクの街並みで、撮影したのは2021年。ちょうどコロナ禍真っ只中の頃で、入国時の強制隔離義務で2週間じっと籠っていたホテルの部屋からの眺めです。何気ない光景に見えるかもしれませんが、とても思い入れのある写真なんです。

パンデミックが起こる前は毎年4回はタイに出張し、その場で生地を確認して、生産者とも直接顔を合わせて打ち合わせながら、「iroiro」の服づくりを続けてきました。それが2020年のコロナ禍で、突如タイへ行き来できなくなり、生産のすべてがストップしました。

世間はリモートワークなどが普及したけれど、私の服づくりはタイに行かなきゃ何も始まらない。現地の方々もずっと待ってくださっていたので、「とにかくタイに行かなきゃ」という気持ちが強かったですね。そんな中でやっとタイへ行けた時のハイライトがこの写真。そこで見た景色だけでなく、「必ず現地に足を運ぶこと」を大切にする私の想いや、色々噛み締めた思い出が詰まっているので、いつも見える場所に飾っておこうと思いました。

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----連写の残像がどこか朧げな雰囲気で、朝焼けや夕暮れを連想させる色合いも幻想的というか...。いろんな捉え方ができる写真ですね。

小阪さん:ホテルの向かいに建設中のビルがあり、日に日に工事が進む様子やそこで働く人たちを眺めながら、毎日記録するように撮っていました。連写モードを使ったり、露出をちょこちょこ変えたり、設定をイジりながら。一目で建築物の写真だとわかるけど、少し抽象的な雰囲気がWALL DECORにぴったりですよね。


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メインの棚に飾っている木仏はラオスでみつけたもの。「ラオスの木仏は表情が柔らかくて好きなんです」

と小阪さん。額装された赤い布は、タイの古い布製の護符(お守り)。

----光沢のあるフォトパネルと、無垢な土や木の置物。相反するテクスチャーが喧嘩するかと思いきや、すっと馴染んでいるのも見事です。

小阪さん:今飾っている一角は、置物が赤や茶の色味でまとまっていて、この写真も同じトーンで構成されているので馴染んで見えるのかもしれませんね。夕方になるとお向かいのビルのレンガ壁が夕日に照らされ、その反射でうちの中がうっすらとオレンジがかり、さらに雰囲気が増すことも。

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小阪さんが撮影した一枚。街を走るバス車内の様子。

あとは、「タイ」をテーマにまとめているから統一感があるのかな。バンコクの街は近代化が進む一方で、古い街並みも残っています。そんな新旧が混在するタイのイメージが、この一角に投影されているようにも感じます。

顕在化する写真の新たな魅力

----そして、もう一点のWALL DECORの作品は、たくさんの絵画や写真と一緒に飾られています。このお写真を選んだ理由を教えてください。

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小阪さん:この壁は「海や青」をテーマに、息子が小さい頃に描いた魚の絵や写真など、飾るものをちょこちょこ変えて楽しんでいます。WALL DECORに選んだ写真は、高知県・桂浜(かつらはま)の近くの海岸で撮ったもの。浜辺に流れ着いた流木がクジラの骨やアザラシっぽく見えて、なんだか不思議な魅力があったのと、この写真なら他に飾っている写真やリトグラフにも合いそうだなと思って選びました。

----サイズや種類が異なるアートを壁に飾る場合、特定のテーマ以外に、こだわりやルールなどはありますか?

小阪さん:私、壁に凹凸が生まれるような遊びのあるディスプレイが好きなんです。息子が幼い頃に描いた絵がクシャッとしていたり、写真が経年で曲がったり、厚みのあるパネルがあったり、壁面にそんな一角があると楽しいし、心も落ち着くんですよね。WALL DECORの「カジュアルタイプ」は厚みが薄すぎず、厚すぎず、絶妙なバランスで気に入っています。

撮影中はファインダーや小さなモニターでしか画像を確認できないので、こうして大きく出力すると、撮影時には見えなかった魅力が露わに。プリントの醍醐味を改めて感じました。

---- 小阪さんの中で「撮りたい写真」と「飾りたい写真」に違いはありますか?

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小阪さんが開催した写真展のビジュアル。鮮やかな色彩がタイならではの南国の雰囲気を物語る。

小阪さん:2年前に初めて写真展を開いて気づいたのが、撮りたくて撮った写真と、作品として展示する写真は、必ずしも一致しないということ。それを知る前はInstagramやウェブサイトに載せる感覚で、感情の赴くままに撮っていたけれど、いざ作品用の写真を選ぼうとしてもしっくりくるものが見つからないんですよ。画像を大きくプリントし、額装し、壁に掛けてみても、全然ダメ。


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小さいサイズだと魅力的に見えるけれど、大きく出力するとイマイチに感じたり、その逆もあって、小さな画面上では映えないけれど、大きく引き伸ばすと生きる写真もあったりして。プリントしてみると色んな発見があって興味深いですよね。画面上のデジタル的な行為にとどまらず、アナログ的な実験も楽しんでいくべきだなぁとつくづく思います。

後編では、独学で写真を撮り続ける小阪さんのこだわりや、本業の服づくりと写真の共通点、そして活動の原動力について深くお聞きします。

小阪靖子さん(@yasukoksk

兵庫県・神戸市出身。1996年に初めて訪れたタイに魅せられて、タイの人たちと関わりたいという想いでタイメイドの商品を扱う雑貨店「色色」を1997年神戸でスタート。2004年福岡県に移住後も定期的にタイに通い、現地の生産者と関わりながら日本向けのオリジナルウェア&アクセサリーブランド「iroiro」を展開する。Instagramやウェブサイトでは25年以上通い続けるタイの情景を発信し、これまで2度の写真展を開催。

Photo by 斉藤菜々子

Writing by 下川マイ子

WALL DECOR(ウォールデコ)
お気に入りの写真をパネルにできるサービスWALL DECOR。どんな写真にもマッチするシンプルなデザインで、飾る場所も限定しません。こちらは光沢のあるグロッシーでプリントした「カジュアルタイプ」。
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