写真を贈ること、そして受け取ることによって、それぞれにどんな思いが生まれるのか。そんな写真のもうひとつの可能性を探っていく新企画、「写真とことばの往復書簡」。前編では、写真家の大林直行さんにさまざまなお話を伺いながら、モデルのおひかさんへ贈るための写真をWALL DECOR(ウォールデコ)にしていただきました。
これまで展示や写真集で発表してきた作品『おひか』を通して、お互いを知り、信頼関係を築いていったというふたり。おひかさんにとって大林さんの写真は、「自然と心を穏やかにしてくれる存在」なのだといいます。
後編では、モデルをつとめてきた彼女の視点から、作品づくりについて、そして贈りものとしての「写真」について語っていただきました。また、「ことばの贈りもの」として、おひかさんが大林さんに綴ったお礼のお手紙を一緒にお届けします。
>>前編 : 写真とことばの往復書簡。 写真家・大林直行さん×モデル・おひかさん 前編
最初の撮影から、自然体でいることができた
---- まず、大林さんとの出会いについて教えてください。
おひかさん:初めて会ったのは、3~4年ほど前だったと思います。大林さんが山口県から東京に来たばかりの頃、SNSを通して被写体となってくれる人を探していたので、連絡をしてみたのがきっかけでした。大林さんの写真は自然で、フィルムの質感や色味も好きだったので、撮ってもらいたいなと思ったんです。私自身、声をかけていただいてモデルをすることはあっても、自分から連絡をしたのは初めてのことでした。
---- 実際に一緒に撮影をしてみて、どんな印象を受けましたか?
おひかさん:穏やかで静かな、とても無口な人だなぁと思いました(笑)。初対面の日はあまり会話はしなかったのですが、撮影の後、見せてくださった写真がやっぱりすごく良くてびっくりしました。その時からずっと関係が続いています。言葉を交わさなくてもやりづらさみたいなものはなく、リラックスした自然な空気感が印象的でした。
---- 撮影中のエピソードで、記憶に残っていることはありますか。
おひかさん:思い出深かったのは、『おひか 濃藍(こいあい)』の湖での撮影です。ウシガエルの鳴き声が響くなか、私の身長よりも深い湖に入って、水に浮かびながら撮ったのは本当に怖かった(笑)。こわばった表情にならないようにすごく頑張った記憶があります。でも出来上がった写真を見て、やってよかったなと心から思いました。
おひかさん:大林さんは、写真家としての行動の仕方にもすごく「らしさ」を感じるんです。たとえば遠方まで撮影に行った日でも、終わったら現像のためにフィルムのネガをまとめて、そのまま郵便局に直行したり。現像後の写真もすぐに見せてくれるんです。
また、撮影のときにいつもチェキで撮った写真をくれるんですが、それも大切にとってあります。たくさん会話をしたわけではないけれど、写真を通してお互いを知っていくことができたような気がします。作品だけじゃなく、大林さんのそういう姿勢が好きですし、信頼できる人だなと感じるんです。
「静かで神聖な空気感」を閉じこめた作品づくり
---- 大林さんが撮る『おひか』と、普段のおひかさんは、どこか違う人のようにも見えます。ご自身では、どんなふうに感じていますか?
おひかさん:そうですね。どう言ったらいいか、言葉で説明するのは難しいのですが...普段の私とは少し違うと思います。だからこそ、展示や写真集を見ていても「恥ずかしい」という感覚はあまりなくて、ひとつの作品として見ることができました。大林さんが撮る『おひか』を見ると、自分自身を好きになれるような感覚があるんです。
---- それは演じているような感じとも、また違いますか?
おひかさん:そうですね。なるべくつくりこみすぎない、自然な状態を心がけていました。大林さんの表現を数年見続けていた影響や、何度か重ねてきた撮影の時間や会話などのコミュニケーションを通して、なんとなく大林さんの感覚を掴んだり、その世界観に自然に居られるようになっていました。静かな古民家での撮影は、言葉をほとんど発さず、シャッターを切る音だけが淡々と響く空間でしたが、そこでなんとも言えない神聖な気持ちになったのを覚えています。
---- ただ「撮られている」だけじゃなく、大林さんのなかにあるイメージを共有して、一緒に作品をつくっていくような感じだったんですね。
おひかさん:まさにそういう気持ちでした。『おひか』には大林さんが感じている孤独感みたいなものが反映されていると思うのですが、『おひか 濃藍』ではそれが少し前向きになっていくようなイメージもあって。私自身にとっても、生涯大切にしたいと思える特別な作品です。もう一人、写真家の塩川雄也さんという方が撮影を手伝ってくれていたのですが、3人で力を合わせていく過程がとても楽しかったです。
大林さんらしい「世界の捉え方」が好き
---- 今回、大林さんがWALL DECORで制作した作品が3つ、おひかさんのもとに届きました。受け取ってどんなことを感じましたか?
おひかさん:小豆島の船の写真は、大林さんがSNSにアップしているのを見たときから、すごく惹かれていた一枚。ただ「いいね」をするだけじゃなくて、わざわざ「この写真好きです!」って連絡してしまったくらい(笑)。なんでもない風景だと思うのですが、色味や雰囲気が良くて、見ていると穏やかな気持ちになれるんです。半年以上前のことだったと思いますが、大林さんが覚えていてくれたのも嬉しかったですね。
おひかさん:あとのふたつの写真も、大林さんらしい作品ですごく気に入っています。大林さんはこんなふうに、花や植物を部分的に捉えていく感じがあって、その「捉え方」が私は好きなんです。きっと雨が降るなかで、息を潜めながら撮ったんだろうなっていうのが自然と浮かんでくるような写真ですよね。『おひか』のときも、筋肉や骨、影の入り方とか、そういうディティールを切り取っていく姿が印象的でした。
---- この写真を部屋に飾ることで、心境にどんな影響があったのでしょうか。
おひかさん:大林さんの写真を見て、朝起きてすぐ目に入る場所に飾りたいなと思いました。やっぱり好きなものが部屋にあると、一日をいい気持ちで始められますよね。東京で生活しているとあまり感じられない山や海の風景を見ていると、ふっと気持ちいい風が吹いてくるような気がするんです。そうやってぱっと目に入ったときに心が穏やかになったり、癒されたりする力が、写真にはあるのかなと思います。
写真は、とてもロマンティックな贈りもの
---- 誰かに写真を贈ることや、受け取ることには、どんな魅力があると思いますか?
おひかさん:写真をプレゼントするって、すごく特別で、素敵なことですよね。以前恋人に「写ルンです」をプレゼントして、写真を撮り終わったあと私の方で現像したものをふたりで一緒に見るという贈り方をしました。彼の日常の目線を垣間見るような楽しさがあって、とてもいい思い出になりました。
---- ひとつの写真を、ふたりで共有するような感覚ですね。
おひかさん:そうですね。写真を贈ることは、贈り手側の視点や好きなものが自然と見えてくるところが、すごくロマンティックだと思います。言葉でコミュニケーションをとらなくても、お互いの思い出を共有できるような。
---- おひかさんご自身が誰かに写真を贈るなら、どんな一枚を選びますか。
おひかさん:大林さんが撮ってくれた『おひか』の写真から、私が写っているものをウォールデコでプリントして、おばあちゃんにプレゼントしてあげたい。きっと記念になるし、喜んでくれるんじゃないかなと思います。
おひかさん(@ohika__)
1995年、兵庫県出まれ。大林直行さんの写真集『おひか』と『おひか 濃藍』のモデルを務める。今後はモデルとして活躍しながら、「すこやか」という言葉を軸に、心も体も健やかに生きる為のサポートや発信、提案を行うことが目標。
Photo by 佐藤侑治
writing by 坂崎麻結