"暮らしにまつわること"を中心に、インテリアコーディネートやプロダクトのプロデュース、自宅兼スタジオ「Casaさかのうえ」の運営などを手がける砂子(まなご)優子さん。前編では、日常のささやかな風景を写真に残すことの魅力を教えていただきました。

お話を伺って伝わってきたのは、優子さんが"お茶を淹れる時間"をとても大切にされているということ。近年では台湾茶道を学びながら、「Casaさかのうえ」で中国茶会も主催されているのだとか。後編では、三児の母でもある優子さんが、忙しい日々のなかで「自分を整えてくれる存在」だと語る"お茶"と暮らしの関係について伺いました。

>前編の記事:すぐそばにある"豊かさ"に気づくために。わたしの「写真と、ちょっといい暮らし。」砂子優子さん前編

お茶を淹れる時間は、自分をみつめる時間

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---- 優子さんが中国茶を学び始めたきっかけはありますか?

優子さん:きっかけは、素敵な茶器でお茶を淹れている方を見て、「私もこんなふうにお茶の時間を楽しんでみたい」と思ったことでした。まずは喫茶を楽しむような気持ちで始めてみたのですが、教室に通うようになってからお茶の奥深さに感動して。今も月に一度、学びに行っています。

---- 優子さんが思う、中国茶の魅力ってなんでしょうか?

優子さん:味と香りが豊かで、本当に美味しいこと。それから、私が学んでいるのは"台湾茶道"といって、お茶を通して「道」を学ぶものなので、内面的な影響も大きいんです。

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抽象的な表現になってしまいますが、お茶を淹れることで「人生を学んでいる」ような感覚なんです。茶葉ひとつとっても、自分の手元に届くまでにたくさんの人の働きがある。そういった背景は、生活を支えてくれている全てのものにあてはまりますから、その気づきを日常に活かすようにしています。だから感謝することを忘れずに、一煎一煎いただく時間を大事にしたいと思っているんです。

一煎のお茶が教えてくれること

---- 優子さんには3人のお子さんがいますが、自宅でお仕事をされることも多いですよね。忙しい日々のなかで、お茶の時間は暮らしにどんな影響を与えてくれますか?

優子さん:お茶を淹れることは、私にとって本来の自分に立ち戻る時間。お茶を学ぶことで自分自身を客観視できるというか、集中して淹れていると、物事に対してどう捉えているか、自分の思考の癖が見えてくるんですよね。

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長く時間がとれないときは、さっと簡単に淹れることもあります。そういうときも、5分だけでいいから自分のために集中して一煎を淹れてみると「気持ちが整う」のを感じるんです。

子どものことで悩んだり、感情的になってしまうこともあるのですが、ひと息ついてお茶を飲むと自然と落ち着いて、客観的になれる。日々に欠かせない大切な存在になっていると思います。

---- お茶を淹れることで、基本に立ち戻れるんですね。

優子さん:そうですね。人に優しくするとか、ものを大事にするとか、日常を大切にするって意外と難しいこと。だから丁寧にお茶を淹れて、ひとつひとつの出来事を振り返ったり、改めて小さな幸せに気づけるような時間をつくっています。

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当日淹れていただいたお茶は「老欉紅水(ろうそうこうすい)」という台湾の烏龍茶。

「炭火で丁寧に焙煎された香りが秋にぴったりなんです」と優子さん。

---- Instagramにアップされているお茶の写真も、静謐な雰囲気がとても素敵です。こういった瞬間を写真に残すことの魅力はどんな部分でしょうか?

優子さん:茶湯に空が反射している様子や、湯気の立ち方、光の加減など、「今このときにしか撮れない瞬間」を捉えることでしょうか。お湯を炭で沸かしたり、白湯で茶器を温めたり、一連の流れもとても大切。「きれいだな」と思うと、自然と心が動いて写真を撮りたくなりますね。

写真って、「光」と「影」が大事だと思うんです。同じ物を撮るときでも、角度や光の入り方で写真の印象が変わるので、器の置き方や光はよく考えるようにしています。そうやって日常的に写真を撮ることで、技術的なことも少しずつ学んでいけるのが楽しいですね。

これまでの人生に100点をあげたい

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---- 「Casaさかのうえ」の運営以外にも、インテリアコーディネートやプロダクトのプロデュースなどをされていますが、どれも「その場の空気感や雰囲気を整えて、心地いい空間をつくっていく」という共通項がありますね。

優子さん:そうですね。今は自分の好きなことが仕事になっている感覚があって、ありがたいことだと思っています。肩書きを一言で答えられないのが悩みではあるんですけど、根っこの部分は同じ。「Casaさかのうえ」を使ってくださる方のために空間を整えていくのも好きですし、写真を撮ることも暮らしや空間に繋がるものなんですよね。

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そういう自分の「軸」みたいなものを大事にして、迷ったときはそこに立ち戻ればいいのかなと思っています。そんなふうに思えるのも、毎日の暮らしで積み重ねてきたものや、周りにいる人たちのおかげ。

以前、「自分の人生に点数をつけるとしたら何点ですか?」と聞かれたことがあるのですが、自分自身にはなかなか100点を出せなくても、かけがえのない人たちと出会うことができたこれまでの人生には100点をあげたいです。

"ささやかな豊かさ"を見過ごさない暮らしを

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優子さんが山中湖で撮影した木漏れ日の写真。前半の記事では、

オブジェのような感覚で飾りたかったと教えてくれました。

WALL DECOR(ウォールデコ)/ カジュアル スクエア mini

---- 「心地いい空間」をつくるには、もの選びも大切ですよね。器やインテリアなど、砂子さんがものを選ぶときの基準はありますか?

優子さん:基本的なことですが、色と形と質感を見て、それから「どう使うか」を考えます。いつもできるだけ作家さんの顔が見えた方がいいなと思っていて。器の場合は、窯元に足を運んで、作家さんから直接お話を聞くことも大切にしています。そうすると、作品に対しての気持ちのこもり方も変わってくる気がします。

今回お願いしたWALL DECORは、印画紙を空間に合わせたマットな質感を選ぶことで、部屋にすっと馴染みました。目に届く場所に飾れば、ふと旅の思い出を振り返ることもできます。物選びには、物としての魅力はもちろん、その背景にあるストーリーに触れることも大事だと感じています。

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---- 最後に、優子さんが思う「豊かな暮らし」について聞かせてください。

優子さん:ふとしたときに幸せを感じられることでしょうか。お茶を淹れたり、掃除したりして気持ちが整う瞬間もそうですし、逆に子どもたちがたわいもないことで盛り上がっている瞬間も楽しい。日々の小さな幸せに気付ける毎日が豊かだと思っています。

自分の身のまわりにあるものごとは、すべてが学び。それをどう感じられるかが豊かに暮らしていくためのきっかけになると思うんです。それらを見過ごしてしまうのはもったいないと感じます。これからも「どんな瞬間も楽しめる人でいたい」というのが私の目標なんです。

砂子優子さん(@yuko.casa

2013年に自宅兼ギャラリー「Casaさかのうえ」をオープン、オーナーとして運営を行う。人々が集うコミュニティスペースとコンテンポラリーアートの発信地として人気を集めたのち、一時閉館。その後はスタジオ運営やインテリアコーディネイト、プロダクトのプロデュースなど、暮らしにまつわるさまざまな仕事を手がける。2023年春、ギャラリーを再開予定。

Writing by 坂崎麻結

Photo by 上原未嗣

WALL DECOR(ウォールデコ)
お気に入りの写真をパネルにできるサービスWALL DECOR。どんな写真にもマッチするシンプルなデザインで、飾る場所も限定しません。優子さんは、「カジュアル」の「スクエア mini」を作成。反射しない「ディープマット」仕上げにすることで、グレー調のトーンを柔らかな雰囲気に。
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