若き頃よりインテリア、そしてカメラや写真に興味を寄せ、その結実として一つの作品のように完成したグラフィックデザイナー・飯島百合さんのご自宅。
自宅に置かれたすべてのものに理由があると教えてくれた飯島さんのご自宅には、空間づくりから身の回りの日用品までデザインに携わる彼女ならではの計算された思考が宿っていました。
後編では、削ぎ落とされたミニマルなデザインに魅せられ、感覚ではなく明確なプランニングの元につくられたご自宅の世界観に迫ります。飯島さんの理想とする暮らし方、過ごし方を通して生き方や人としての在り方も伺い知れる内容になっています。
前編:"好き"を記録するところから始まった。わたしの「写真と、ちょっといい暮らし。」飯島百合さん 前編
随所にデザイナー視点とミニマリズムが宿る
----ウォールデコもモノクロ写真ですが、やはりモノクロがお好きですか?
飯島さん:そうですね、モノクロ・モノトーンは好きです。写真はもちろん、家の中にもモノトーンは取り入れています。ただ、それだけでは空間の雰囲気が限定的になってしまいま す。モノトーンの中にカラーアイテムを点在させることで、一つ一つのものがより引き立って、空間にもメリハリが生まれると思うんです。
実はベースの色やアクセントカラーを決めるカラースキーム(色彩計画)に基づいて、自宅にはブラウン、派生してピンク、グレーからモスグリーンが存在しているんです。グラデーションのような連続性、説明のできる構成・構図、それぞれのバランス感を意識して、色の足し引きを行っています。職業柄しっかりやりたくなってしまうんですよね。
----デザイナーならではの視点といった感じですね。他にも職業柄思わずでてしまうような部分はありますか?
飯島さん:物を並べる際はついこだわりが出ているかも知れません(笑)。たとえば、リビングの棚には災害時に備えるために普段の愛用品を少し多めに買い置きしておく備蓄手法のローリングストックアイテムを並べています。
見た目が気に入った日用品や食品、実用性のあるものでも同じデザイン・サイズが並ぶだけでなぜかかわいく見えてきませんか?グリッドに沿って並べたり、均等に配することでインテリアとして機能するようになるんです。
同じものの羅列やグリッド、数のバランスはグラフィックデザイナーならではかも知れませんね(笑)。時間が空いたときに何気なく自分で考えて配置していますが、好きなミニマルデザインが反映されている部分なんでしょうね。
頭の中のイメージを実現するためのリスト
----新居のこだわりのポイントはどんなところでしょう?
飯島さん:自宅を建てるときは「光を入れたい」というのがひとつのテーマでした。以前住んでいた賃貸は、日当たりがあまり良くなく、昼間でも暗かったんです。だから、この家はどの部屋からも光が採れるように窓も大きくし、LDKから庭にシームレスにつながるイメージでつくっています。庭もダイニングのように使えるイメージなんです。この採光性の良さのおかげでいい写真が撮れるんですよ。
新居は本当にイメージ通りに仕上がりました。設計もリビングや庭など場所ごとに箇条書きでリストにして細かく要望をお伝えして...設計士さんには本当に良くしていただきました。私の中で明確にやりたいことが決まっていたので、はじめての打ち合わせ時に、自前の資料をお見せしたら、唖然としていました(笑)。
----箇条書きのリスト...。細部へのこだわりが本当にすごいですね!
飯島さん:皆さん、そうおっしゃいますね(笑)。「なんとなく」とか「こうなったらいいな」というものではなく、はっきりイメージができているところもあったので、それを共有しました。
たとえば、天井の高さも要望していたポイントのひとつです。これは通っている美容院の天井の高さが気に入って、「何mですか? 」とすぐにヒアリングして自宅の仕様に合わせて算出しました。そのおかげもあってすごく気に入っています。
----ふだんからインスピレーションを大事にされているんですね...。尊敬します。
年齢を重ねるごとに、写真との関わり方は変わる
----SNSでも自宅の一部を披露されていますが、飯島さんにとって写真はどんなものですか?
飯島さん:10〜20代のときは友人との想い出の記録という印象ですね。イベント事や楽しいこと、人が集まったときに一緒にその瞬間を切り取るもの。それが徐々に日常やインテリアを切り取るものに変化していきました。技術の進歩で動画も手軽になり、スマホで簡単に撮影できて便利ですが、カメラで撮影すると切り取った瞬間がドラマチックに、印象的になる気がします。 フィルムっぽい感じも好きですが、私はそこまで詳しくはないので主人に教えてもらいながら写真を楽しんでいます。
----そういえば、飯島さんのSNSにもよく登場する猫ちゃんがさっきからソファに隠れているのが見えます。
飯島さん:そうなんですよ、人見知りなので、ブランケットを被ってなかなか姿を見せてくれませんが(笑)。愛猫の4歳になる「ぴーちゃん」です。黒猫好きの主人の影響で飼い始めました。自由気ままなところやフォルムが愛くるしいです。
自宅でカメラを構えるときは、この子を被写体にすることも多いですよ。ピントが合わない一枚もそれはそれでいいかな、と。
----飯島さんのお写真からは一貫した空気感が感じられますが、好きな写真家はいらっしゃいますか?
飯島さん:好きな写真家は、藤井保さん。無印良品やJRなどの広告写真を多く手掛けられています。ランドスケープの中に人がぽつんと佇む写真に惹かれた記憶があります。彼に師事していた瀧本幹也さんも好きですね。すっきりとした作品が多く、惹かれます。...やはり、写真もミニマルなものが好きなんでしょうね。
やすらぎは、余裕のあるレイアウトから
----頭の中のイメージを着々と具体化されてきた飯島さん。この先ご自宅でどのような暮らしをされたいか、最後に教えていただけますか?
飯島さん:居心地の良さを前提にして建てた自宅なので、これからはここで長く過ごしていくと思います。忙しなく過ごすのではなく、お茶の時間や一つひとつの時間を大事に暮らしていきたいですね。
空間やインテリアが好きなのですが、だからと言って物をたくさん置かないようにしています。物量の多い・少ないは、精神面にも影響があると思うんです。物が多いとイライラすることも増える気がしてしまう。私の場合、物を少なくしてみたら心にも余裕が生まれました。体感したからこそ、自然と不要な物は置かないようにしています。
インテリアや家の物は、統一感を考慮して合うか合わないか、を大切にしています。その上で今後も飾る写真も統一感を持たせてセレクトしたり、自身で撮ったりしていきたいなと思っています。
飯島百合さん(@carmes_design)
高知県出身。東京でのデザイナー勤務を経て結婚を期にご主人の実家のある愛知県へ移住。賃貸生活を続け、2022年末に念願であった新居へ引っ越し。グラフィックデザインを主軸にロゴ・パッケージ・プロダクト・空間など、幅広いデザインを手掛ける。
Photo by 斉藤菜々子
Writing by 小林 雅之