足早に過ぎ去る日常の中で、安らかな小休止をもたらしてくれる「iroiro」代表兼デザイナーの小阪靖子さんのご自宅。タイをはじめ、アジア各国で一つひとつ集めたモノが静かに寄り添い、部屋には温和な空気感が漂います。

前編では大好きなタイに寄せる想いと「iroiro」の服づくりのこだわり、またWALL DECORを通じた写真の面白みについて語ってもらいました。

後編ではさらに、"一生ものの趣味"と語るカメラにフォーカスを当て、小阪さんが制作活動で大切にされている本質部分や暮らしに対する価値観を探っていきます。

前編:大切な"想い"は、いつも見える場所に。わたしの「写真と、ちょっといい暮らし。」iroiro代表・小阪靖子さん前編

カメラは、自分の思考を表現するツール

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小阪さんは、FUJIFILM「X-E1」を愛用。

「XF35mm F1.4 R」のレンズに、フィルターを装着。

--- 小阪さんがカメラを本格的に始めたのはいつ頃ですか?

小阪さん:写真を撮ること自体、ずっと前から好きでした。出張先のタイで撮った写真をブログに載せていたら、「iroiro」のお客さんからも「タイの写真がもっと見たいです」とおっしゃってもらえることが増えて、本格的にカメラを扱い出したのは8年前くらいかな。フォトグラファーの知人にFUJIFILMのカメラを譲ってもらったことをきっかけに、カメラの魅力にぐんとハマッていきましたね。

---- それから、カメラは独学で学ばれたのですか?

小阪さん:そうですね。「iroiro」の撮影の合間にフォトグラファーからカメラの基本操作や技術に関する知識を教えてもらいましたけど、あとは自分でやりながら、ですね。マニュアルで撮影しながら「あれ、ピントが合わないぞ」「う〜ん、なんか違うな」と試行錯誤も多々。

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偶発的・瞬間的なものを捉えるより、イメージしたものが撮れるまで、同じシーンを何枚、何十枚も撮り続けるタイプ。カメラを構えて粘っている間に日が傾いたりして(笑)、同行者がいたら待たせちゃうので、撮影時は別行動でひとり黙々と撮影しています。

----夢中になってファインダーを覗いている姿が目に浮かびます。小阪さんにとって写真やカメラは表現活動の手段という認識でしょうか。

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近所の古道具屋で手に入れた趣のある表情の木製の棚。バンコクの風景を撮影したWALL DECORが馴染む。

WALL DECOR(ウォールデコ)/ カジュアルタイプ A3サイズ相当

小阪さん:そうだと思います。私が写真を撮ることを好きになった理由に、北九州出身の写真家・藤原新也さんの存在があります。自分の考えや言葉を写真に投影する、あるいは撮った写真に伝えたい言葉を乗せる。藤原さんの写真と文章に影響を受けて、私も写真や言葉を通して自分の気持ち・思考を表現したいと考えるようになりました。

この十数年でInstagramが普及して、写真の加工技術やカメラの性能が進化しましたよね。誰でも手軽にきれいな写真が撮れるし、誰が撮っても一定のクオリティーを保てるようになったからこそ、今後はより一層、撮る人の内面性や思考を表した写真が大事になるんじゃないかな。私自身もソーシャルメディアでの表現と、アートの表現を別物として考えなければいけないなと思っています。

実体験から生まれる情緒やストーリーを大切に

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---- 小阪さんのタイの写真を見ていると、その地域の文化や匂い、現地の人の生き様や空気感まで直に伝わってくる気がします。

小阪さん:それはきっと、私がタイの人々を大好きで、彼らのことをよく知っているからだと思います。「タイってホント面白い!」「この雰囲気、タイ人らしいなぁ」というシーンを撮りたくてシャッターを切っているんです。たとえば、ストリートでおばちゃんたちが仕事しながら楽しそうに喋っていたら、思わずカメラを向けたくなっちゃう。写真を見ても何の会話かわからないけれど、なんだかその場の空気感が伝わる気がするのは、私のタイに寄せる思いの表れかもしれないですね。

2306_01_12.jpg小阪さんの写真より。

写真って、その場に行かないと撮れないものであり、それが醍醐味。この時の自分はどんな気持ちだったか、風・湿度・音はどうだったか。実体験は感情を伴うから、写真や言葉に込められるだろうし、見る人と通じ合える可能性を秘めている。まさに、アートの魅力です。

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---- 「iroiro」の理念である「必ず現地に行くこと」「心あるものをつくること」とも共通していますね!

小阪さん:たしかに! 通信技術が発達した今、現地に出向かなくてもできることがたくさんありますが、私は現場に行くことで実体験が分厚くなって、本当の意味でのものづくりができるのではと思います。

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小阪さんが代表兼デザイナーを務める「iroiro」は、タイのシルクやコットン素材を使用。

身体をしめつけないゆったりとしたシルエットで夏も涼しげな印象に。

とはいえ、私はそんなにタイ語を流暢に話せないんですよ。それでも、足を運んで人々と関わり、地域の文化に触れ、実体験を通してつくるものには、表現に厚みが増すはず。このプロセスを踏むことでできあがるものがあると信じています。

「iroiro」の服は日本で展開するので、タイの民族衣装をそのまま服にするのではなく、現地の生活美や山岳民族の生活様式をデザインに落とし込みながら、日本でも取り入れやすいよう素材やシルエットに変化を持たせて服づくりしています。ぜひ、街中で着てほしいですね。

好きなものに真摯に向き合いたい

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天然石やオブジェの横にレコードプレーヤーが並ぶ。

タイ・アジア音楽のDJパーティー「ソムタムワナカーン」のクルーでもある。

----服、写真、そして音楽にも輪を広げて活動している小阪さん。"好き"を極めて活動している姿が印象的ですが、原動力は何ですか?

小阪さん:どれも好きでやっていること。だからこそ、薄っぺらいものにはしたくないなと。「本物」というか、「本当のモノ・コト」でやりたいという気持ちが活力になっています。

---- 物事の本質を見据えることがモチベーションに繋がっているんですね。小阪さんは、暮らしで大事にされていることはありますか?

小阪さん:自宅では極力デジタルや人工的なものに浸からないようにしています。以前、インテリアなど身の回りのものをできるだけ自然からできたもので揃えると本来の健全な人間の姿に近づけるという統計情報を見て、プラスチックのコップなどを排除したことも。周りからは大袈裟だと言われましたが(笑)実践したら心がスッとしましたよ。自宅では木やガラス、陶器など、自然で無垢なものを取り入れたいですね。

---- 小阪さんのご自宅にお邪魔して、心がホッと穏やかな気持ちになった理由がわかった気がします。自然な素材でできたものだからこそ、温かみを感じますし、経年変化による風合いも年々増して、使いながら"育てる"感覚を楽しめそうですね。

暮らしも、趣味も、愛用品も、"熟す"までとことん楽しむ

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タイ製のガラスの急須と一緒に合わせるのは、陶芸家・石木文さんのカップ。

--- さて、これからの暮らしについてですが、小阪さんはどんな日々の楽しみ、あるいは趣味を、どう深めていきたいですか?

小阪さん:プライベートだと「食の時間」が好きで。自宅や事務所に友人を招くこともあり、みんなでお茶したり食事をしたり、お酒を愉しむことも。仕事の合間や一日の終わりに、好きな人たちと美味しいものをいただきながらゆるりと過ごす時間に幸せを感じます。趣味のように極める・深めるというわけではないけど、日常の楽しみとして大事にしたいですね。

そして趣味といえば、やはりカメラでしょうか。カメラとの出会いは自分にとってすごく良い巡り合わせだったと思います。純粋に楽しいし、一生続けていけるものだから。

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よく周りから「性能の良いカメラや味のあるレンズが欲しくなっていくよ」って言われるんですけど、高価な機材が必要になることはまだまだ私にはなさそうです。これはカメラを商売にしていないから言えることかもしれませんが、スキルが伴っていないのにどんどん新しいものを取り入れるのはちょっと違う気がしていて、手を広げすぎると私自身どこかで飽きてしまいそう。

今持っているカメラを大切に、なんかこう...ちゃんと"熟す"まで使い込んでいきたいです。それこそ今自宅に並ぶモノたちと同じように、相棒のカメラと向き合いながら長く楽しく、触れ続けていきたいです。

小阪靖子さん(@yasukoksk

兵庫県・神戸市出身。1996年に初めて訪れたタイに魅せられて、タイの人たちと関わりたいという想いでタイメイドの商品を扱う雑貨店「色色」を1997年神戸でスタート。2004年福岡県に移住後も定期的にタイに通い、現地の生産者と関わりながら日本向けのオリジナルウェア&アクセサリーブランド「iroiro」を展開する。Instagramやウェブサイトでは25年以上通い続けるタイの情景を発信し、これまで2度の写真展を開催。

Photo by 斉藤菜々子

Writing by 下川マイ子

WALL DECOR(ウォールデコ)
お気に入りの写真をパネルにできるサービスWALL DECOR。どんな写真にもマッチするシンプルなデザインで、飾る場所も限定しません。写真は「カジュアルタイプ」、印画紙は光沢のあるグロッシーで制作。
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