写真を撮って、それを飾る──。私たちが写真を飾るとき、どの写真にしよう、どこに飾ろう、と想いを巡らせます。その想いにこそ、写真を飾る魅力が詰まっているはず。
そんな写真を飾るときの想いにフォーカスした新企画「写真をお店に飾ってみたら」。一人の写真家が自分のお気に入りのお店を思い浮かべながら、そこに飾る写真を選ぶ。そして、それを実際にお店に飾ってみたら。
"写真家がお店に写真を飾る"という特別なシチュエーションだからこそ浮かび上がる、写真を選ぶ、贈る、受け取る、飾るときの想いから、写真を飾る意味を深掘りしていきます。
飾るまでの写真選びや贈る相手への想いを描いた前編と、実際にお店に飾ってみたあとの心情に迫る後編の2本立てでお届けする本企画。今回参加していただく写真家は、玉村敬太さんです。
前編では、玉村さんが考える"写真を飾ること"について伺いながら、写真を飾る場所として選んでくださったお店とのエピソードを教えていただくことで、実際にお店に写真を贈るまでの想いに触れていきます。
家族写真をライフワークとする写真家・玉村敬太さん
雑誌からWEBメディアに広告写真まで、幅広く活躍されている写真家の玉村敬太さん。以前、「なぜ写真を撮るのか、飾るのか」連載にも登場いただきました。
なぜ写真を撮るのか、飾るのか。コラム連載 「わたしが写真を飾るまで」vol.2 玉村 敬太さん
ご自宅のリビングにフルオートのフィルムカメラを置き、誰でも自由に写真を撮れるようにしているという玉村さんは、そうして撮影してきた家族写真を展示する「いのちがいちばんだいじ展」も開催。まさにライフワークとして家族写真を撮られてきました。
そんな玉村さんにとって写真を撮ることは、"日常"だそう。「クライアントワークは別として、日々撮っている家族写真はそもそも誰かに見せたり、贈ったりといった前提もない、自分たちのため」に撮るのだと話します。
それを表すかのように、日常の瞬間が切り取られていることが伝わってくる玉村さんの家族写真。このような一枚を飾ることもあるそうですが、"飾る写真"を選ぶときにはどんなことを意識されているのでしょうか。
「あまりネガティブなものじゃない、作品として強くても悲しい気持ちにならないものを選んでいます。子どもがいる生活のなかで、この時はこうだったよね、と写真に付随するストーリーが広がるようなものを飾っていますね。
飾ることで、意図せずに昨日撮った写真が1年後には1年前の写真になって、3年後には3年前の写真になるように、どんどん今と比較する思い出になっていく。それもあって、家族にまつわる写真を飾っているというのが現状です」(玉村さん)
写真の良さは、カタチにして残すことにある
写真を飾ることで、過去が今と比較される思い出になっていく。それを一層感じさせるのは、やはり写真をデータではなくモノにすることにあるのでしょうか。
玉村さんは、一般の方を撮影し、写真を額装してお届けする「きまぐれ写真館 プンクトゥム」という活動のなかで、写真を"データで渡すこと"と"カタチにして届けること"の違いに気づいたのだとか。
「フィルムの時代から『写真は複製可能な芸術』だといわれますよね。厳密には、露出にかける時間や薬品の液温が少しでも違えば仕上がりも変わりますが。そんななか、デジタル化によって写真が本当に手軽になって、一般の方にも広がりました。
でも、一昔前に流行った携帯で撮れる写真、いわゆる"写メ"って、バックアップを取っていた人はなかなかいないし、今もう誰も持っていない。当時は簡単でいいと思っても、科学の進歩でメディアやデータの形式が変化すると残らなくなってしまう。だから、僕が経験してきた写真の良さは、カタチにして残すことにあるなと思ったんです」(玉村さん)
写真をカタチにすることで、写真に向き合う時間が生まれる
そんな想いから、開始当初は撮影したデータだけを渡していた写真館も、今では額装してお渡しするスタイルに。
額装する写真や、写真をいれる額縁をご本人に選んでもらうなかで、受け取る方の反応から浮かび上がってきたのは、写真をモノとして残すからこそ生まれる「写真と向き合う時間」でした。
「モノとして残そうとすると、写真と向き合う時間が生まれますよね。だから、飾ってもらうことがゴールじゃない。僕はいつも額装する写真をお届けするときに、自分が書いたコラムのようなものを添えてお送りしているんです。
"飾ってもらうことを強要したくはないし、飾るのが恥ずかしかったらタンスに仕舞っておいてください。あなたが死んだ後に、息子や孫が仕舞われていた写真を見つけるかもしれないから。そして、もし本当にいらなかったとしたら、捨ててもらっても構いません。ただし、捨てるときには胸を痛めてください。"
そんな内容のコラムです。もしかすると、きつく聞こえるかもしれません。でも、写真を捨てるって、一緒に写っている人たちの関係を一回解消するような、そのくらいの痛みがあってもいいと思っているんです。僕としてもそのくらいの責任を持って、モノとしてお届けしたいと思っています」(玉村さん)
それでも写真館に参加した方は実際に飾ってくれることが多く、「夫と喧嘩をしたときも飾っている写真を見ると気持ちをつなぎとめられる気がします」という声をもらったこともあるそう。
「そんな現象も写真がモノとしてそこにあるから」だと話す玉村さんのお話を聞いていると、自分もデータとして溜め込んでいる写真をモノにしてみたい、そんな気持ちが湧き上がってきました。
お店に写真を贈る、そこに浮かび上がる想いとは
"写真家がお店に写真を飾る"という特別なシチュエーションを生み出す本企画。玉村さんに、最初に企画内容を聞いたときの印象を伺ってみました。
「企画としてはあまり見たことがないし、意外で面白いなと感じつつも、写真を贈るのは結構微妙な部分もあるなと思いました。お店をやっている方は、自分の世界観があって空間づくりを大切にしています。
それに、自分の作品を贈って、それをお店に飾らせて欲しいという感情は自然に湧き上がってくるものではない。こちらが特別な感情で選んだ写真も受け取る側としたらなんでもないものかもしれない。そのすれ違いは悲しいことだから、それがないように、謙虚に、という前提はあったほうがいいなというところからスタートしました」(玉村さん)
写真をカタチにする意味を大切にし、写真に向き合う時間を多く過ごしてこられた玉村さんだからこそ感じたであろう、ある種の違和感。
普段は遭遇しないシチュエーションのなかで葛藤を抱きつつも、ひとつの実験として捉えながらお店や写真を選んでくださった玉村さん。写真を1枚飾るという行為に、さまざまな想いが巡る様子がそこにありました。
飾る場所に選んだのは、ヘアサロン、なのに古着屋でもある「UNDER THE SUN」
写真を飾る場所として挙げてくださったのは、東京・池尻大橋の「UNDER THE SUN」。ヘアサロンでありながらオーナーの中川優也さんが買い付けた古着が並ぶ、ちょっと異色のお店です。店内は、海外ヘ行くことや、古着が好きだった中川さんのこだわりが詰め込まれた空間が広がっています。
「5,6年前に新しい美容室を探していて、あまり髪型に特別こだわりがない僕に、妻が紹介してくれたんです。美容室でのやり取りって、合う、合わないがあると思うんですけど、それがあまり丁寧すぎないところで、職人気質のような方がいいなと話していて。
そこで妻が勧めてくれたのが当時原宿のサロンで働いていた中川さんでした。中川さんの奥さんが、僕の妻の好きなネイリストだったんです。中川さんはスケーターでもあって、ラフな雰囲気の人みたいだから合うんじゃないかな、と紹介されて行ったのが始まりですね」(玉村さん)
そんなきっかけから、しばらく特に会話が弾んだりすることもなく何回か通っていましたが、そのうち中川さんが独立して2019年に「UNDER THE SUN」をオープン。
玉村さんご自身もフリーのカメラマンになり奮闘していた時期であり、お互いのお子さんが生まれる時期も重なり、徐々にプライベートでも仲良くする仲になっていったのだとか。
"そこに窓があるように"さり気なく置いてもらえる写真を
それゆえ、店主の中川さんのことを、切磋琢磨してきた同志のように感じているという玉村さん。写真を贈るにあたっての想いは、複雑で、特別なものがあるようです。
「お店の雰囲気にしても中川さんが買い付けた古着にしても、『UNDER THE SUN』って、いい店なんです。山形生まれの少年だった中川さんがスケボーに開眼して、アメリカの文化に魅了されて、『僕はこれが好きなんだ!』という切実な気持ちが伝わってきます。
だからこそ、そうした空気感の邪魔にならないような、自分の写真で伝えたいことや、見る人の心を動かしたいというような意図のない写真を、"そこに窓があるように"さり気なく置いてもらえるように考えました」(玉村さん)
「そこに窓があるように──」。その言葉の根底にあるのは、玉村さんの"飾る写真"に対するこんな考え方でした。
「写真って、窓に近い見え方をすることもあると思うんです。自分が撮った写真を飾る場合、それは窓というより鏡。それを撮ったときの自分を投影するような感覚に近い一方、ほかの誰かが撮った写真を飾るって、誰かの目を借りて、その人の世界を見せてもらうような感覚があります」(玉村さん)
玉村さんの見る世界を映した「窓」となる写真を、中川さんのこだわりの詰まった店内に飾る。そんな想いで玉村さんが選んだのは、どんな写真なのでしょうか。
玉村さんの写真を「UNDER THE SUN」へ
次回は、玉村さんが選んだ写真でウォールデコを作成。実際に「UNDER THE SUN」の店内に飾る様子をお届けします。
玉村さんが悩みに悩んで選ばれた写真は「夢中だったころの1枚」。どのような写真が選ばれ、どのように飾られるのでしょうか。そして、それを受け取る店主の中川さんは、どんな感想をもたれるのか。次回をお楽しみに。
玉村敬太さん( @keta_tamamura )
1988年生まれ、東京都在住の写真家。2013年より写真家鈴木陽介に師事、2017年に独立の後、玉村敬太写真事務所を設立。 雑誌、web媒体から広告写真まで幅広く活躍。休日には誰でも参加できる写真館「きまぐれ写真館」を不定期で開館するなど活動の幅をさらに広げている。2020年12月には、日頃より撮りためている玉村家の日常を「いのちがいちばんだいじ展」と題してweb上で展示を開催。
UNDER THE SUN( @underthesun_sgj )
住所:東京都世田谷区池尻2-10-12 アヴェニュー池尻 1F 103
営業時間:11:00-20:00
TEL:03-4285-3765
https://www.underthesunsgj.com