一人の写真家が自分のお気に入りのお店を思い浮かべながら、そこに飾る写真を選ぶ。そして、それを実際にお店に飾ってみる企画「写真をお店に飾ってみたら」。
以前お届けした前編では、写真家の玉村敬太さんが考える"写真を飾ること"や、本企画の特別なシチュエーションで浮かび上がってきた想い、そして、玉村さんが写真を飾るお店として選んだ「UNDER THE SUN」のオーナー・中川優也さんとの出会いについてお伺いしました。
後編では、写真を実際に飾る場面での玉村さんと中川さんの想いにフォーカス。飾る場所であるお店のインテリアや、玉村さんが選んだ写真のことなどをお伺いしながら、お二人がどのような感想を抱き、お店に飾られた写真は空間にどんな影響をもたらすのかを探っていきます。
写真家・玉村敬太さんの写真を、「UNDER THE SUN」中川優也さんへ
東京・池尻大橋の「UNDER THE SUN」は、ヘアサロンでありながらオーナーの中川さん自らが買い付けた古着が並ぶ、他にはないお店。中川さんが独立してこのお店を開く前からヘアカットに通い、中川さんを切磋琢磨してきた同志のように感じているという玉村さんが、写真を飾る場所として選んでくださいました。
今回の企画内容を聞き、「独立する前から髪を切りに来てくれている玉村さんが、自分のお店を挙げてくれたことが率直に嬉しかった」とおっしゃる中川さん。ここ、「UNDER THE SUN」でも、玉村さんが一般の方を撮影する写真館イベントを開催することもあるなかで、玉村さんの写真へどんな印象を持たれているか、伺ってみました。
「僕自身、家族写真は玉村さんに撮っていただいたものばかりです。家族で集まる場所に飾っているので、ごはんを食べるときなんかにいつも見ていますが、玉村さんご自身が家族を大切にされているのが出ているな、というか。温かいなという印象です。
写真館で撮られている家族写真以外にも、「いのちがいちばんだいじ展」で拝見した写真では、ポジティブだけじゃないんだなという印象も。そういう写真も撮るんだと感じたこともありました」(中川さん)
インテリアに飾るものは"背景のある作品"を
玉村さんの写真の印象を「温かい」と語ってくださった中川さん。お店のインテリアでも、大切にされているのは温かい雰囲気。美容室が長く滞在する場所であることを考え、どんな人にも居心地のいい空間づくりを大切にされているそう。
「そもそも僕自身がコンクリートのような無機質な素材よりも、木のように丸くて、温かみのある素材が好きで。その丸みや温かみが居心地につながると思うので、家具に使う木材もちょっと厚みを持たせるとか、民族っぽいものを置くとか、温かい雰囲気がでるようにしています」(中川さん)
なかでも、飾られる写真やアートにはひとつのこだわりが。すべて、付き合いのある方の作品を飾っているそうです。
「やっぱり知っている方のものだからこそ、飾りたいと思えるというか。単に自分が好きだからというのも良いと思いますが、自分の店には背景のある作品を飾るのがしっくりくるなと思っています。今回の玉村さんの写真も、ですね。
自分の店に飾ることによってお客さんと『これいいね』という会話が生まれたり、その方と作家の方が繋がったりすることでサポートになれば、という想いもあります」(中川さん)
そんな中川さんの想いを、普段接するなかで感じることがあるという玉村さん。中川さんと奥さまのお二人とも、関係性を大事にされる人だと話します。
「二人とも、僕より名の知れた写真家の方ともお付き合いがあると思いますが、知名度やブランドには頼らず、そこにある関係性を大切にする。そういう中川さんだからこそ、髪を切りに行くにも気負わないというか。僕が中川さんに、長く髪を切ってもらっている理由でもあります」(玉村さん)
古着にも通ずる"偶然の出会い"を感じる写真
今回、玉村さんが選んだ写真は、お互いが独立した頃に仲良くなり始めたことからイメージしたという一枚です。
「お互いに好きなことを仕事にしているので、信念を持ってやっていることをビジネスとして成立させる難しさを感じる場面もあると思います。自分がやりたいことよりも社会との折り合いやバランスを取ることに力を注がなくてはならないことも多々あります。
だから、誰かに褒められたいとか、そうした意識なく夢中になって写真を撮っていた頃の1枚が良いんじゃないか、と思ったんです」(玉村さん)
今から10年ほど前、玉村さんがまだアシスタントか学生だった頃に撮影した写真のなかでも、選ばれたのは夏の終わりの時期に撮影されたスナップ写真でした。
「スナップは、カメラひとつ持って歩いて、これを撮ろうという意図なく巡り合った光景を撮影するものです。古着を扱う中川さんにも、そんな偶然の出会いがあるのではないかと、選びました」(玉村さん)
「確かに古着を見つけるって、偶然の出会いでしかないですね。もちろん、探しには行っているんですが、何が見つかるかはまさに偶然。そこまで考えて選んでくださったんですね」(中川さん)
その後も、写真についての会話は自然とふくらんでいきます。
「10年も前に撮影された写真だと聞くと、玉村さんが言う、そのピュアさが伝わってくる気がしますね。夏の終わりというシチュエーションも好きです。夏の終わりに感じる、ちょっと切なくなる感じが」(中川さん)
「夏の終わりってちょうど今の時期。この記事が公開される頃には季節は変わっていると思いますが、写真はいつも過去だから。思い出としてそこにあるような感じもまたいいのかなと思います。それに『UNDER THE SUN』に飾らせてもらうからには太陽を感じられるような1枚を選びたくて、この写真にしました」(玉村さん)
写真を巡る会話から伝わってくる、お二人の関係性。お店の雰囲気とも相まって、温かい空気が流れているのを感じました。
写真のサイズ感、フレーム。カタチにするからこそ考えること
写真を飾る場所として選んだのは、多くの方の目に留まりやすい、お店を入ってすぐの古着が並ぶスペース。「ここならフックもあるし、日射しも入るし、ぴったりですね」と、中川さん。
「モノクロの写真を飾ったことがなかったので新鮮です。黄色の壁とか、古着のいろんな色とか、わりと色が多い店内だったので、その中に白黒が入ると案外いい感じだなと思いました。」(中川さん)
そのサイズ感やウォールデコの種類を選んだ理由について、玉村さんはこう話します。
「ウォールデコの種類は、ギャラリータイプのスクエア(商品サイズ 275mm×275mm)を選びました。中判サイズのフィルムカメラで撮った写真が正方形の画角なので、トリミングされずにそのまま飾れるものを選びたかったのと、白いマットが付くタイプのフレームが昔ながらの感じでいいなと。お店の雰囲気にも合うと思いました。ちゃんとクラシックにまとまって、いい感じですね。
大きさは、あまり主張するようなサイズにはしたくなかったんです。このくらいのサイズなら飾りやすいし、しまいやすくもあるから。」(玉村さん)
写真を飾るということは、写真をカタチにするということ。だからこそ生まれる、玉村さんの"しまいやすい"という視点がありました。
「出し入れ自由っていいじゃないですか。しまっておいて、気分次第で見返すのもいいし、いつかまた中川さんがお店を移転するとしたら、そのときに『これ、玉村さんからもらった写真だ』って、久しぶりに思い返すのもいいし。僕としてはそれで十分というか。カタチにして残すって、そういうことだと思うんです」(玉村さん)
写真と古着に共通するのは、ストーリーを想像する楽しさ
もともと写真を見るのも飾るのも好きで、ご自宅でも楽しんでいるという中川さん。改めてその理由を考えてみると、古着と同じように"想像を巡らせることができるから"だそう。
「過去という事実を切り取った写真を見ながら、いろいろと想像を巡らせるのが好きなんだと思います。絵は描かれたものが事実とは限らないけど、写真は間違いなく過去に起こった事実。だからこそ、想像する楽しさ、おもしろさが際立つような気がします。
それは、古着も同じです。いろいろと古着を探していると、前の所有者の名前が書かれているものもあって、ついつい想像するんです。この人はどうしてこの服を買って、どういう経緯で手放すことにして、どんな風にここにたどり着いたんだろう、とか」(中川さん)
玉村さんの写真を見ながら、「スタッフみんな、この写真を見るたびに玉村さんのことを思い浮かべるでしょうね」と話す中川さん。中川さん自身も店内でこの写真を目にする時、さまざまな想いが浮かんでくるのでは、と想いを巡らせます。
「見る時々によって、頭に浮かんでくることが変わってくると思います。『10年くらい前に撮った写真』ということを聞いた今、当時の玉村さんの姿を思い浮かべてみたり、撮影した瞬間の玉村さんの心持ちを想像したり。
それが明日には『昨日、取材だったな』と思うかもしれないし、また別の日には『ここに写っている子たち、今はどのくらい大きくなっているんだろう?』と想像することもあるかもしれません。そんな風に頭に浮かぶことは変わっても、写真を見るたびに何かしらのことが頭に浮かぶと思うんです。そのときの自分の状況によって感じ方が変わってくる。
そうした変化があるから、写真はずっと見ていることができるのかもしれませんね」(中川さん)
写真が飾られている「UNDER THE SUN」へ
写真を選ぶ段階では、こだわりの空間に写真を飾ることに申し訳なさを感じるともおっしゃっていた玉村さん。それを、「玉村さんらしい」と笑顔で話す中川さんの会話からは、お互いをリスペクトし合う関係性と、それぞれがご自身の作り出すものへ真摯に向き合う姿勢が垣間見えました。
「UNDER THE SUN」では、この記事に登場した玉村さんの写真が飾られています(2024年1月31日〈※〉まで予定)。贈る側の想い、受け取って飾る側の想いを知ったみなさんも、この1枚に出会ってみてはいかがでしょうか。
※展示期間は告知なく変更することがあります。
●イベント情報●
「きまぐれ写真館 @under the sun」
〜玉村敬太さんが一般の方を撮影する写真館イベントです〜
開催日:12月16日(土), 1月6日(土), 1月7日(日)
時間:各日 11:00-16:00
内容:ポートレートを撮影後、その場でデータにてお渡し。額装のご相談も承ります。
イベントの詳細は、Instagramアカウント(@p.s.punctum)にて随時情報発信されます。
玉村敬太さん( @keta_tamamura )
1988年生まれ、東京都在住の写真家。2013年より写真家鈴木陽介に師事、2017年に独立の後、玉村敬太写真事務所を設立。 雑誌、web媒体から広告写真まで幅広く活躍。休日には誰でも参加できる写真館「きまぐれ写真館」を不定期で開館するなど活動の幅をさらに広げている。2020年12月には、日頃より撮りためている玉村家の日常を「いのちがいちばんだいじ展」と題してweb上で展示を開催。
UNDER THE SUN( @underthesun_sgj )
住所:東京都世田谷区池尻2-10-12 アヴェニュー池尻 1F 103
営業時間:11:00-20:00
TEL:03-4285-3765
Writing by 大谷享子
Photo by 大童鉄平