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「透過刺繍®」という独自の技法を用いて作品づくりを行う、刺繍作家の田口ナツミさん。そんな田口さんのSNSで時折紹介されるのが、6歳の息子さんが一眼レフカメラで撮影した写真に、本人の手書き文字を組み合わせた「写真日記」です。お子さんならではの視点と一生懸命書かれた字が愛らしく、「真似してみたい」との声が多く寄せられています。

今回は、そんな田口さん親子に、「PhotoZINE(フォトジン)」で作る写真日記にトライしていただきました。

田口さんが普段から実践している、お子さんの写真に手書きの文字を一緒に残すことの魅力から、今回初めて手に取れるカタチにしたことで気づいたことまで、いろいろとお話を伺いました。

田口ナツミさん(@na.canada)
奈良県出身・在住。刺繍作家。
京都芸術大学にて現代美術を学んだのち、「空間に浮かぶ絵」を表現するために刺しゅうを始め、透過刺繍®の作品制作や、刺繍スクールの講師を務める。

車の中の「あれ見て!」から始まった、毎日の写真日記

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----まずは、息子さんが写真を撮り始めたきっかけから教えていただけますか?

田口ナツミさん(以下、田口さん): きっかけは、車の運転中ですね。息子が車に乗っている間、ずっと「あれ見て」「これ見て」と、いろいろ見つけたものを教えてくれていました。でも、運転中だから目を向けてあげられない。

そんな時、一眼レフカメラを渡したんです。私がもともとカメラを持ち歩く習慣があるので、手元にあったカメラを何気なく。「シャッターはここだよ、半押しするとピントが合うよ」という簡単な説明と、「今あなたが言った『あれ何?』を撮って、後で教えてね」ということだけ伝えました。それで、帰ったあと写真を見返してみたら、思った以上にいい写真だったんです。

特に印象的だったのは、この倉庫の写真。いつもただ通りすぎている場所ですが、建物が立ち並ぶなかで、こんな余白を切り取ることができるんだなと驚きました。息子にはこう見えていたんだな、と。

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息子さんが撮影した写真で作成した写真日記

田口さん:指をさして「あれ何」って教えてもらうよりも、写真に撮ってもらった方が、彼が何をいいと思ったのか、何を見つけたのかがずっと分かりやすかったんです。

それからは、息子自身が露出やシャッタースピードも自分でいじって。おもちゃ感覚で「今日はA(絞り優先)で撮る」「今日はM(マニュアル)で撮ってみる」なんて言いながら、私のカメラを自分のもののように扱って撮っています。

----そこから、写真に文字を添える「写真日記」を始めたのはなぜですか?

田口さん: 撮った写真を、子どもが大人になった時に、ちゃんと足跡として残していきたいと思ったんです。将来見返した時に、これが本当に自分で撮った写真なのか分からなくなりそうで。写真の切り取り方がすごく大人っぽく見えることもあったので、そこに本人の手書きの文字が入ることで、「その時の自分」という輪郭がはっきり残るんじゃないかなと考えました。

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----毎日の写真日記づくりは、どのように行っているんでしょうか?

田口さん:撮った写真はその日の夜に、iPadに入れて見返します。本人がいろいろ見せてくれた中から、「これ残しとく?」って聞くと、「じゃあ文字書いとくわ」って、大人のような会話をしながら(笑)。本当に日記のような習慣になっていますね。

意外な"子ども視点"を「PhotoZINE」にして残す

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次男が撮影した長男の後ろ姿

----今回は、お出かけした1日を撮影していただき、富士フイルム「プリント&ギフト」のサービスで、「PhotoZINE MAGAZINEタイプ」という冊子にしていただきました。息子さんはどのような場所をカメラに収めていましたか?

田口さん: 今回、実家がある奈良市で、地元民は普段はあまり行かない観光地を巡りながら撮影しました。大人がカメラを持つと、どうしても大仏などの王道のスポットを狙いますよね。でも、彼が撮るものは落ち葉とか、道端の落書き、誰かの日傘とか。極めつけは、この自転車の写真です。

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右ページが、「くろいタイヤ」と書かれたピンクの自転車の写真

田口さん: 大人から見たら、これは「観光地にポツンと置いてあるピンクの自転車」ですよね。でも、彼が下に書いた文字は「くろいタイヤ」。「そっちか!」って(笑)。「ピンクの自転車やろ?」と聞いたら、「あ、ピンクなんや」って、その時初めて気がついたようでした。息子はタイヤが大好きなので、そこしか見えてなかったみたいです。

同じ場所を見ても、親が思っていることと、子どもが見ている世界は全く違うんだなと、この文字と言葉の組み合わせで改めて気づかされました。

----まさに、言葉が加わることで子どもの目線がクリアに見えてきますね。

田口さん: 本当にそうです。写真日記を始める前は、息子のことをまだ赤ちゃんのように感じていて、世界をちゃんと見ていないんじゃないか、私が手伝ってあげなければと思い込んでいたんです。

でも、彼が撮る写真や言葉を見るうちに、「私はこの子とは全く別の人間なんだ」と改めて感じたし、「親が考える『美しさ』を子どもに強要してはいけないな」って。

そこからは、カメラの設定などの技術的な手助けはしても、「こういう風に撮りなさい」とか、表現に関することは一切言わなくなりました。

2609_02_06.jpg「おまんじゅう」と書かれた写真は、中身のあんこに注目して撮影していたそう

それに、毎日文字を書いてアウトプットしているからか、息子の言語化能力がすごく上がったんです。昔はよくわからない「宇宙語」を喋っているタイプだったんですが(笑)、今は「僕はこれを考えている」って、自分の意志をはっきりと伝えるようになりました。

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----今回のPhotoZINEの表紙に選んだ写真も、どこか幻想的で面白いですね。

田口さん: これは、小道の奥にある鏡に看板が写っているものを撮りつつ、小窓のガラスで自分も写しているんです。こんな構造を6歳で見つけて撮るなんて、親の私も「やるな」って思いました。

一緒に写真をセレクトしている時に、息子が「僕の写真集やったら僕が写っていていいでしょ」と言って選んだ1枚です。普段、彼が撮る側なので自分の写真が1枚もなくて、自分が入っている写真が欲しかったみたいですね。

「PhotoZINE」で、筆跡と温かみも一緒に"残す"

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「PhotoZINE MAGAZINEタイプ」サイズ:A4相当

----普段は写真日記をデジタルデータで保管されているそうですが、手に取ってみて、いかがでしたか?

田口さん: やっぱり、手に持って読めるっていうのは大きいですね。今回作ったPhotoZINE MAGAZINEタイプは、紙質が少しざらっとしていて、手に持った時にすごく温かみがあるなと感じました。

何より、鉛筆との相性がものすごく良いんです。子どもが書いた文字の、鉛筆ならではの濃淡までしっかり紙に残るのがいい。1枚の紙の上に、写真のわずかな光沢感と、鉛筆のざらっとした質感が同時にのるというのは、デジタルにはない面白さですね。

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文字だけでなく絵も描いていた息子さん

田口さん: あと、このA4という大きさが、子どもが文字や絵を書くのに絶妙なサイズ感でした。息子はまだ年長で字が大きいので、このサイズだからこそのびのび書けたみたいです。文字がまだ書けない小さな子でも、このサイズなら絵を描いて思い出を残せるので、すごくいいなと思います。

優しさで満ちた世界を、将来の息子に伝える宝物に

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----完成したPhotoZINEを、息子さん自身はどのように楽しんでいますか?

田口さん: 自分で作った本が本当に嬉しいみたいで、ものすごく満足感を持っているようです。毎日10分の読書タイムがあるんですけど、「さあ、僕の本でも読もうかな」と言って、自分で作ったPhotoZINEをすごく誇らしげに読んでいるんですよ。自分の手で作ったものが本という「カタチ」になる経験は、本人の自己肯定感にすごく繋がっているなと感じます。

----一緒に作る時間も、良いコミュニケーションになりますね。

田口さん: そうですね。写真を見返しながら1日を振り返って、その後も文字を書く時間は長いので、その間「おいしかったね」「楽しかったね」って、ずっとラジオみたいに喋りながら作っていました。

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最後のページはお兄ちゃんとお母さんの写真に「だいすき」を添えて

----このPhotoZINEの最後のページ、お母さんとお兄ちゃんの笑顔が本当に優しくて、胸がじんとします。

田口さん: これ、個人的にめちゃくちゃ嬉しかったんです。「私、息子を見ているとき、こんなに優しい顔で笑っているんだ」って気付かされました。お兄ちゃんも、本当に優しい顔をしていて。

息子がカメラを構えると、お兄ちゃんも、近所の人も、商店街の大人たちも、みんなが優しい笑顔を彼に向けてくれるんです。彼の写真には、彼に向けられた周りの人の「愛」がいっぱい残っています。

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----それをカタチにして残すことは、どんな意味があると感じますか?

田口さん: 子どもは、自分が6歳の時のことは大人になると忘れてしまうと思います。でも、このPhotoZINEがあれば、彼が10年後、20年後に見返した時に、「あ、僕はこんな世界を見ていたんだな」「こんなに愛されて育ったんだな」と思い出せるのかなって。

それを、自分にとっての宝物だと思ってくれるかどうかは分かりませんが、ちゃんと残しておくことは、私の役目であって、義務でもあるようにも感じています。

将来、彼を支えてくれるものになればいいなと願いながら、これからも写真日記やPhotoZINEというカタチで続けていきたいなと思っています。


Writing by 秋山 史織
Photo by 田口 ナツミ

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