みなさんは最近、いつ家族の写真や、家族と一緒の写真を撮りましたか?毎日一緒に居ることが当たり前になって、照れくさかったりして「家族の写真はあまり残っていない」という人は意外に多いはず。しかし、何気ない日常を切り取った写真ほど、後々大切な1枚になることも多いですよね。
そこで今回は、飾らないありのままの家族の姿を撮影し、日常を残すことの良さについてインタビューを敢行。1冊まるごと1つの家族を取り上げる雑誌「家族と一年誌『家族』」編集長であり、プライベートでも表情豊かな家族写真が話題の中村暁野さんに、お話を聞きました。
雑誌創刊のきっかけは、夫婦関係のすれ違い。
別の家族に出会うことで共に学ぶ、家族の形。
-- 2015年に創刊された雑誌「家族と一年誌『家族』」について聞かせてください。1冊まるごと、1つの家族の日常に迫るという斬新なテーマですが、どうして「家族」だけをテーマにした雑誌を作ろうと思われたのでしょうか?
中村さん:私と夫は性格や価値観が真逆のタイプ。だからいろいろなことが積み重なって夫婦関係が上手くいかない時期が長く続いていたのですが、それに対して諦めたり割り切ったりするのは嫌だと思っていました。そういう気持ちを夫と初めて本音で話し合ったときに、最終的に「じゃあ、どうしたら関係を続けられるかな?」と考えたのが、雑誌「家族」の出発地点です。
当時、お互いにすごく忙しくて家族との時間があまり持てていなかったので、「一緒に時間を過ごして、どこかに行って同じものを見たり何かを共有したりしたい」という話をしたら、「じゃあ、僕たちすごくダメな家族だから、そんなダメな家族がいろんな家族に出会って『家族ってなにか』って一緒に考えていくのはどう?」と夫から提案されて。「いっそ旅行が仕事になったらいいのにね!」と、思い付きみたいに話をしていたのですが、まさか本当にすぐに形にできるとは思っていませんでした。
雑誌「家族」にしか撮れない写真。
読者の胸に響くのは、「飾らない家族の姿」があるから。
写真:奥山由之
写真:奥山由之
-- 「家族と一年誌『家族』」は、いわゆる"雑誌"のような見栄えの良い写真ではなく、家族同士が暮らしのなかで目にする、日常的な目線で撮られたような自然な写真が特徴的です。そこにはどんな思いが込められているのでしょうか?
中村さん:いわゆる「家族写真」でないものを意識して取り上げています。雑誌『家族」には、「家族が家族に出会い、家族に学ぶ」というテーマがあるので、家族団らんや、家族が笑い合っているような「家族っていいよね」みたいな写真はあまり必要ないかなと思っているんです。家族って良い面だけじゃなくて、子どもがすごく泣いたり、子どもに怒っちゃったり。夫婦がちょっと険悪になる瞬間だってありますよね。
「家族の飾らない姿」を捉えたいので、取材といっても「お話を聞かせてください」みたいな形式ではありません。1年間のあいだに何度か、私たち家族が別の家族にお邪魔して一緒にごはんを作ったり、遊んだりしながら暮らしていくんです。1回の滞在期間はだいたい1週間くらいですね。「家族と一年誌『家族』」の中で、いわゆる"雑誌"のような一般的に想像される綺麗な部分だけを見せるのは意味がないというか...。それなら私たちがやる必要性はないなと思っていて。飾らない家族の姿が写っているから、自分の家族を重ねて雑誌を見ていただけているのかなと思います。
家族の数だけ「家族」がある。
「分かり合えなくても共に歩んでいく」のが中村家流。
-- 現在までに2号発売されていますが、「家族と一年誌『家族』」を制作していくなかで、中村さんやご家族に変化はありましたか?
中村さん:一番変化したのは、自分自身の気持ちです。それまで私は、家族って「分かり合えなきゃいけない。共同体みたいなものであるべき」という気持ちが強くて、その姿に当てはまらない自分たちを責める気持ちがあったんですけど、「そんなに分かり合えなくてもいいんだな」と思えるようになりました。
最初に「夫と私は考え方も性格も全然違う」とお話しましたが、雑誌を作り始めたら想像以上に違っていて(笑)。作っている間中ぶつかっていたし、しんどかったんですけど、できあがったものはすごく尊いものだと思えたんです。だから、分かり合えた先に良いものがあるわけではなくて、分かり合えなくても、なんとか進んでいった先にはちゃんと素晴らしいものが見えたりするんだということを感じることができました。
「家族同士、分かり合いたい」と思って雑誌を作り始めたけど、結果「分かり合えなくてもいいんだ」と思えたということが、自分のなかですごく大きかったですね。
家族写真は「家族の歴史」。
日常だった日々が、写真を通して「尊い時間」に変化する。
-- 雑誌では別の家族の写真と向き合われている中村さんですが、実は中村家の家族写真もSNSで公開されていますよね。今日は、Instagram(以下、インスタ)でファンも多い中村さん一家の写真のなかから数枚選んでいただき、プリントにしました。こちらを一緒に見ながら、家族の写真を撮る際のポイントについて教えてください。
● 意識しないと過ぎ去ってしまう、「日常」こそ撮るべき
中村さん:以前は私も子どもたちの写真を撮っていたのですが、夫のほうが良い写真を撮るので最近は撮られる専門です。夫はフィルムカメラを持ち歩いていて「えっ?いま?」というようなタイミングでも写真を撮るのですが、家族の写真って、そのくらい気軽に撮るのが実はポイントなのかなと思います。
写真って、記念日やイベントごとがあるときに撮る人が多いと思うのですが、特別な日って写真におさめなくても結構覚えていると思うんです。
でも、部屋も片付いていなかったり子どもと喧嘩したりするような、本当に「普通の日」は、写真に残していかないとどんどん通り過ぎていっちゃう。日常って、意識的に言葉や写真にしていかないと、あっという間に忘れてしまうんですよね。「ハレ」と「ケ」で言ったら、写真は「ケ」の日の尊さみたいなものを残せる存在だと思います。
撮ったそのときは「たいした写真を撮れなかったな」と思っても、時が経って見返したときに「すごく尊い時間だったんだ」と思えたり、自分にとって大切な1枚だなと感じる写真って、実は見慣れた日常を写した写真だったりしますよね。
● あえての「フィルム」で、家族の自然な表情を引き出す
中村さん:夫のインスタ( https://www.instagram.com/hyota_/ )に載っている写真は、フィルムで撮ったものもあります。最近はスマホやデジカメで簡単に写真が撮れますが、その場で撮り直しができるのでつい良い写真を撮ろうと何度も撮影してしまいますよね。また、子どもを撮る場合には「見せて見せて!」と言われるので、撮影が中断されてしまうということも。でも、フィルム写真なら撮り直しがきかないので、より家族の素の部分というか、一瞬を切り取ることができるんじゃないかと思っています。
雑誌のアザーカットで紡ぐ、中村家の歴史。
「家族写真」を通して実現したいこと。
-- 最後に、中村さんのこれからの目標や、雑誌『家族」の今後について聞かせてください。
中村さん:私個人的には、もう3年くらいサイト上で家族の日記を書いているので、私の日記と夫の写真をひとつの形にしたいなという気持ちがあります。
「家族」3号はどんな家族に取材をするかまだわからないのですが、こうして取材を続けていった先にいつか、雑誌のアザーカットを使った中村家の「家族と一年誌」のようなものも作れるかもしれませんね。雑誌を作るにあたって、私たちも取材させていただく家族の方たちと一緒に生活するので、写真に私たち家族が写り込んでしまうことが結構あるんですね。基本的には私たちが写っている写真は使えないから撮らなくていいのに、写真家さんが「いつか中村家やるでしょ?」って中村家をたくさん撮ってくれているので(笑)。自分たち家族のことも、これから出会うさまざまな家族のことも、いい時もそうじゃない時も、見つめ続けられたらと思います。
中村さん、素敵なお話をありがとうございました!
中村暁野
一つの家族を一年間にわたって取材し一冊まるごと一家族をとりあげるというコンセプトの雑誌、家族と一年誌『家族』の編集長。
夫とのすれ違いと不仲の解決策を考えるうちに『家族』の創刊に至り、取材・制作も自身の家族と行っている。8歳の娘と2歳の息子の母。
様々な媒体で家族をテーマにした執筆活動も行なっている。サイトでは家族との日々を365日更新中。http://kazoku-magazine.com
Photo by 忠地七緒
Writing by 大西マリコ