ファッションとテクノロジーにまつわるクリエイティブ・コンサルタント、写真や映像のクリエイター、そしてコラムニストやモデル。さまざまな顔を持つ市川渚さん。

共通しているのは、自分自身が体験したものごとの魅力と価値を「人に伝える」というシンプルなこと。子どもの頃からカメラが身近にあった市川さんにとって、仕事でもプライベートでも、写真は情報伝達に欠かせないツールのひとつだったそうです。

自分が使うもの、選ぶもの、好きなものに対していつも誠実でいたい、と語る市川さん。コンサルタントとして、クリエイターとして、多くの経験を積み重ねてきた彼女の「写真と暮らしのスタンダード」を探ります。前編では、これまで撮影してきた被写体や機材選びなど、写真との関わりにフォーカスしてお話を伺いました。

パーソナルな写真から、"伝える"ための写真へ

2108_02_02.jpg---- 写真を始めたきっかけはありますか?

市川さん:子どもの頃から常にカメラを持っていた記憶があります。ポケットフィルムというおもちゃみたいなカメラとか、「写ルンです」もよく使っていました。ティーンの頃から新しいものが好きだったので、発売されたばかりのデジカメをいじったりしていましたね。だから自然と写真が身近な存在になっていた気がします。

---- その頃と今を比べると、撮るものに変化はありますか?

市川さん:当時の写真を見てみると、派手な水玉の布の上にバッグの中身を広げて撮っていたり、パソコンの画面を撮っていたりして(笑)。そのとき、お気に入りだったアイテムを記録するような感覚で撮っていたんです。 学生の頃は友だちの写真もよく撮っていましたが、大きな変化はやっぱり社会人になってからでした。20代になってから、PRの仕事をはじめたので、「人に何かを伝える」ための情報伝達ツールとして、写真を意識するようになったと思います。

---- 写真の仕上がりや、機材に こだわり始めたのもその頃から?

市川さん:そうですね。iPad上で『Lightroom』にデータを取り込んで、自分でいくつか作ってあるプリセットを適用させてから、1枚1枚ちょっとずつ調整していったり。自分が見た景色や思い描いた画を画面上で表現するために、すごく試行錯誤しています。最近は慣れてきて、現像もすごく楽しくなってきました。

2108_02_03.jpg市川さんご提供写真:家の中のお気に入り空間であるワーキングデスク

---- YouTubeで公開している旅のVlogなど、動画もよく撮られていますよね。写真とのすみ分けはありますか。

市川さん:私の中では、写真の延長に動画があるという感覚なので、違いはないんです。もともと私が写真を大量に撮るようになったのは、Blogで旅行記を書くようになったことが大きくて。旅行記って写真と言葉で流れを作っていくので、それを映像というメディアにそのまま落とし込んでいるような感覚です。

---- SNS、Blog、連載記事などを見ていると、市川さんの写真には一貫したスタイルがあるように感じます。写真を撮るときに意識していることはありますか?

市川さん:深く考えてはないんですが、無意識の部分で統一しているのかもしれません。ただ、自分のルールとして何に対しても「嘘をつかない」ということは心がけています。世界観を作ろうとして過度な演出が入ることってありますよね。広告表現やアートであればそういったことが生きてくる場合もありますが、自分自身の表現においては見た目を重視して現実にないものを演出するのは、違うなって思うんです。

それは写真だけじゃなくて、仕事の基本的なスタンスでもありますね。自分にも嘘をつきたくないから、やりたくないことはやらない、好きじゃないものを好きって言わないとか。そうすることで、見てくれている人たちにも誠実でいられる気がします。

作り手の姿勢を知ることが、もの選びの基準になる

2108_02_04.jpg---- SNSで写真を通して色々なことを発信していくのが当たり前になってから、暮らしにはどんな変化がありましたか?

市川さん:機材が増えました(笑)。機材があると表現の幅がどんどん広がりますし、もう機材欲が尽きないんです。照明とかに凝り出すとプロの域に達してしまうので、そこは越えちゃいけない壁だなって思っていたんですけど、やってみるとやっぱり面白くて。照明を入れないと表現できない部分もあるし、細かい調整もできる。そうやって何に対しても、それなりのレベルまで突き詰めたい、と思ってしまうんです。

---- カメラや機材を選ぶとき、自分なりの基準ってありますか?

市川さん:ひとつは、どんな写真が撮りたいか、どんな場面で撮るのか。それに合うレンズのラインアップは何かとか、そういう機能的な面ですね。自分にフィットするかどうかっていうのもしっかり見て選んでいると思います。

もうひとつ大きいなと感じるのは、ブランドやメーカーがどういうところを見て、どんな姿勢でものを作っているかという部分。それが、自分の意思決定にすごく影響を与えているんだなと最近とくに感じるんです。

---- それは、会社全体としての考え方ということですよね。

市川さん:そうですね。ブランドやメーカーが何を大事にしているのか、どこを向いてものづくりをしているのか。ビジョンが自分とフィットしてるか、シンパシーを感じることができるか、ということも選ぶときの基準として大きくなっています。

そこの製品を持っていることが自分の意思表示にもなるし、所有することの意味も最近はよく考えます。自分と同じところを見ているメーカーさんだと、機能面でも自然とフィットするんですよね。もちろん人によって共感できる製品は違うので、相性が大切なんだと思います。

写真が「作品」に変化する瞬間が楽しい

2108_02_05.jpg市川さんが実際にプリントされた日常の写真たち

---- 写真に関して、今取り組んでいることって何かありますか?

市川さん:特別なことではないんですが、日常写真はずっと撮りためています。『Lightroom』の中に一年ごとにアルバムを作って、そこに人でも風景でも何でも、どんどん入れていく。とくに2020年の東京の街を撮った写真は、20年後くらいに見たら絶対面白いと思います。

---- 撮った写真をプリントすることもありますか?

市川さん:はい、今日もいくつか持ってきました。今まではプリントにはあまり興味が沸かなかったのですが、ステイホーム中、定期的に受けているカウンセリングですすめられて。「不安定になりそうなときに、いい方法ないですか?」と相談したら、「自分が気持ちいいなと思った瞬間を思い浮かべられるような写真があったら、それを見えるところに置いておいて、そのときの感情を思い出してみることはできそうですか?」と。面白いなと思って、いくつか試しにプリントしてみたんです。

---- どれも、すごく綺麗な風景です。旅先の写真ですか?

2108_02_06.jpg市川さんご提供写真:旅先で撮影したお気に入りの風景を額装

市川さん:そうですね。とくに気に入っている写真は家で額装して飾っているんですが、それは山形で撮ったものです。夕陽が沈んで、真っ暗になる直前の空に、鳥がぶわーって飛び立って行った瞬間の風景。旅行のタイムラインにある「情報」としてしか見ていなかった写真が、1枚抜き出してプリントすると、突然「作品」になるということに気がついて、すごく面白いなと思ったんです。

---- 同じ写真なのに、扱い方によって役割が変化するって不思議ですよね。

市川さん:プリントすると、1枚の写真が、いい意味ですごく重くなる感じがしますよね。私はこれまで「自分の写真は情報でしかない」って思っていたんですが、プリントして額装してみたことで、少し心変わりができた気がします。「写真を撮る意味」みたいなものをより考えるようになったし、写真は写真であるだけで作品になりえるんだって思うようになりました。

小笠原諸島で出会った瞬間を、暮らしの中に

---- 今回、富士フイルムのWALL DECOR(ウォールデコ)を試していただきましたが、まず選んだお写真について教えてください。

市川さん:どちらも小笠原諸島で撮った写真です。船で24時間かかる島なんですが、海も森もあって、本当に魅力的な場所なんです。

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野生の山羊が写っている写真は、小笠原の父島で撮ったもの。小さな山がたくさんあるんですが、そこを登っているときに反対側の崖にいた山羊たちがすごくパワフルで、撮りたくなったんです。かなり遠かったので、一緒にいたフォトグラファーの別所隆弘さんがとっさに貸してくれた200ミリのレンズをで撮りました(笑)。木がいい感じにフレームになってくれていますよね。

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もう一枚は、小笠原に向かう船の中から撮った、海の写真。朝陽だったと思うんですが、少しだけオレンジ色の光が写っているのが綺麗で、絵のようにも見えますよね。ずっと見ていたいなと思える1枚なので、これを選びました。

---- 小笠原の写真を選んだ理由ってありますか?

市川さん:小笠原は、本当にいいところなんです。一度も陸とつながったことがない島なので、生態系も独特で、動物も植物もすごく面白い。かつ、丸1日かけないとたどり着けなくて、インターネットもできない。そんな場所、もう写真を撮るしかないですよね(笑)。

24時間の船旅もすごく好きになりましたし、何を見ても東京にはない色がある。必死に電波を探すよりも、周囲を見つめて、写真を撮るのが楽しい。そういう気持ちにさせてくれる場所ですね。

---- ウォールデコを使用した感想はいかがですか?

2108_02_10.jpg市川さん:たくさん種類があるので、すっごく迷いますね(笑)。カジュアルタイプを選んだのは、自分ではできなそうな裏側の仕上がりや、軽さに惹かれたのが理由です。出来上がったものを見てみると、立体感があり、ひとつのプロダクトのよう。改めて、写真が「作品」に変化していったように感じました。部屋に飾るのが楽しみです。

後編では、市川さんが暮らしのなかで大切にしていることや、影響を受けたこと、偏愛するガジェットアイテムなどをお伺いしていきます。

市川渚さん (@nagiko)

ファッションデザインを学んだのち、海外ラグジュアリーブランドのPRなどを経て、2013年に独立。ファッションとテクノロジーに精通したクリエイティブ・コンサルタントとして国内外のブランド、プロジェクトに関わる。また、自らクリエイティブ制作や情報発信にも力を入れており、ジャーナリスト/コラムニスト、フォトグラファー、動画クリエイター、モデルとしての一面も合わせ持つ。

Photo by 大童鉄平

Writing by 坂崎麻結

WALL DECOR(ウォールデコ)
お気に入りの写真をパネルにできるサービスWALL DECOR。どんな写真にもマッチするシンプルなデザインで、飾る場所も限定しません。市川さんは、カジュアルのA3タイプで制作されました。軽くて、女性でも簡単にお部屋に飾ることができます。また、写真から「作品」に昇華できる楽しみを手軽に感じられます。
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