ともに陶芸家として活動する大谷哲也さんと桃子さんご夫妻。滋賀県・信楽(しがらき)にあるふたりの自宅兼工房は木々の緑に囲まれており、広々とした台所には自然光が差し込みます。
研ぎ澄まされた形、白に統一されたミニマルな白磁の器を制作する哲也さん。粉引に蓮やバナナの葉など植物をモチーフにした豊かで愛らしい絵付けの器を作る桃子さん。独自の世界観を表現する陶芸家のふたりにとっては、写真も大切な表現ツールだと教えてくれました。
哲也さん、桃子さんそれぞれが語る言葉から、ふたりにとって写真とは何か、仕事や暮らしにどんな豊かさをもたらしてくれるのでしょうか。前編では、そんな写真を切り口にお話しを伺いました。
作品のイメージを膨らませる写真
ーー工房のホームページやInstagramを拝見すると、写真がどれも素敵ですね。撮影はご自身でされているのでしょうか?
哲也さん:そうですね、ふたりとも自分の作品は自分たちで撮っています。僕も桃子も大学生の頃から一眼レフカメラを触る機会があって、その頃から作品など色々なものを撮影していました。カメラや写真を撮ることがそもそも好きなんです。
桃子さん:時代の流れとともに作品を扱ってくださるギャラリーのなかにオンラインショップで販売するところも増えてきました。自分たちが「見てほしい」と思うポイントを伝えるためには自分で撮る方がいいこともありますよね。そうして自然と撮影する機会が増えていきました。
ーー作品単体の写真もありますが、料理を盛った写真も素敵ですね。
桃子さん:どのように使っているか日常のシチュエーションを見せられるのがSNSのいいところ。特別な使い方をしているわけではないですが、普段から自分たちの器を使っているので、みなさんに見ていただいて、暮らしの中でのシーンをイメージしてもらえるのはプラスなことだと思っています。
哲也さん:僕たちの弟子にも作品を撮ることを勧めていて、"大谷製陶所写真部"のように一緒に撮ることを楽しんでいるんです。SNSでも、やるならきちんとした写真がいいですし、写真と同じように、僕たちは言葉も大切にするように心がけています。作品に写真や言葉を添えることで、僕たちのバックグラウンドがふわっと伝われば嬉しいなと思います。
家族の存在を感じていたいから飾る
ーー今回「WALL DECOR(ウォールデコ)」を制作いただきましたが、選ばれたのは、飼っていた犬のハチくんの写真。この写真を選んだのはどうしてですか?
哲也さん:実は5月に亡くなっちゃったんです。ここに住むようになってからすぐ飼い始めた犬で、うちが陶芸屋であることから名前は植木鉢の「鉢」からとりました。子どもたちが小さい頃からずっと一緒に遊んでいてくれました。
ハチの写真は何百枚、何千枚とあって。選んだ一枚は、逆光になっているのがよくて、絵みたいに抽象的な雰囲気を作り出しています。それでいて、いつものハチらしさも感じる。意図して撮った写真ではないので、後ろに車が写っちゃってますが(笑)。
WALL DECORは、額に厚みがある「ギャラリー」タイプを選んでいます。周りに飾るインテリアと違和感がないよう、縁の「マット台紙」と「テープ」の色は黒にしました。仕上がりが思っている以上にクリアで、毛の一本まで綺麗に再現されていて驚きました。
桃子さん:ハチは子どもたちが学校に行くと寂しくて、いつもリビングに座って庭の方を眺めながらキュンキュンと鳴いて、帰宅するのを待っていました。雪が降る外を眺めている姿が、いつものハチを思い出させてくれる写真で、やっぱりこれがいいねって。
ーーリビングの入り口にも、お子さんを肩車した家族写真が飾られていますね。
哲也さん:自宅が建つ前に整地した土地で友人のカメラマンに撮ってもらった写真です。草木が無造作に生えていただけの殺風景な土地を、苦労しながら整えていった思い出が蘇ります。
家族の写真は、子供達も大きくなって家にいないから存在を感じられていいなと思っています。もっと子どもの写真を飾ろうとも思っているところです。
撮ることの美意識について
ーーInstagramでは素敵なお料理をたくさん拝見しますが、ご自身で写真を撮るとき大切にしていることはありますか?
桃子さん:気持ちが入ってることを重視しますね。自分が撮りたいと感じる時って理由がありますよね。 料理を撮るなら、「美味しそう」と思った瞬間とか、作品だったら美しく見える角度を探してみたり。「ここが好き」と思う部分が写っていることが大事。その時の気持ちを意識するようにして撮ると、自分なりの"いい写真"が撮れると思いますよ。
哲也さん:よく考えるのは、例えば、棚の何段目に置くと一番綺麗とか、どこが一番光が綺麗に当たっているかということかな。 僕たちも自宅の中の自然光が綺麗に入るスポットを把握していて、決まった場所で撮影するようにしています。
テクニカルな問題はいろいろあるけれど、やっぱり目で見たときに綺麗に見えてないところで撮ってもいい写真は撮れません。被写体に動いてもらったり、自分で位置を変えたり、工夫してみたらいいと思いますよ。
後編では、職住一体の暮らしや作品のアイデアの源について、また今後10年、20年後を見据えた哲也さん、桃子さんの展望についてお伺いしていきたいと思います。
陶芸の産地である滋賀県・信楽に、2008年開窯した大谷哲也、桃子ご夫妻の自宅兼工房。国内外で展覧会を行うふたりの拠点となっている。
----------------
大谷哲也さん (@otntty)
京都工芸繊維大学・工芸学部造形工学科意匠コース卒業後、滋賀県信楽窯業試験場に勤務。2008年より、桃子さんと大谷製陶所開窯。白い磁器を使った器や土鍋を中心に制作。
----------------
大谷桃子さん(@otnmmk)
両親が陶芸家でその姿を見て育つ。オレゴン州立大学(アメリカ)卒業後、滋賀県立信楽窯業技術試験場釉薬科・同場小物ろくろ科に在籍し、1999年より各地で作品を発表する。植物の姿を描いた粉引の器を制作。
Photo by 斉藤菜々子
Writing by 木薮愛