スマホの出現で今やすっかり身近になった、写真撮影。誰もが気軽に撮影できる一方で、「オリジナリティを出しにくい」というお悩みも耳にします。どうしたら魅力的なスマホ写真が撮れるのか? "モバイルフォトグラファー"今泉純さんにお話を伺ってきました!日常を個性的に切り取る秘けつと、これから本番を迎える「冬」をテーマに、写真を魅力的に撮影するコツについてお聞きしました。
意識しているのは「日常にみる非日常。そして何気なさ」。
わずかでも、何かしら心に引っかかった風景をサラッと切り「撮る」。
− Instagram(以下、インスタ)のフォロワーは3万人越え(!)と、その写真に多くの注目が集まる今泉さん。そもそも、スマホで写真を本格的に撮り始めたのには、どんなきっかけがあったのでしょうか?
今泉さん:本業は建築設計なのですが、昔から写真を撮るのは好きで、フィルムを含めて一眼レフで撮ったりしていました。スマホで写真を撮るようになったのは、僕にとっての大きな出来事=阪神大震災の1ヵ月後に父親が他界したことでした。天国の父に当時3歳だった娘の成長画像を電波で送ってあげたいな...と思ったのがきっかけとなり、ちょうどその頃にインスタグラムとの出会いもありました(当時は英語版のみ)。そのため、スマホ撮影で完結というよりは、写真+発信がセットとなり、そこから見事にスマホ撮影にハマっていったわけです。
−今泉さんのインスタ(@ima_ju)の写真はどれもアートのように美しく、私たちが普段目にしているものでも「非日常感」があるのですが、どんなことを意識して撮られていますか?
今泉さん:「非日常感」は目指しているテーマのひとつです。あくまでも自分にとっての非日常性です。きれいなものはもちろん素敵なんですけど、ずっと見ていると飽きてくるんですよ、後々まで引っぱらないというか...。写真の魅力ってフォトジェニックさばかりではなく、特異で飽きない部分が大切だと思うんですよね...。僕自身は、写真を「車窓」だと捉えていて、何気ない景色がどんどん更新されていくイメージなんです。一番大事にしたいのは頭の中にずっと長く留めておけるような「何気なさ」を見つけること。その後もなんか気になるというか引きずるというか...、、分かりやすく言えば「アジ」ということなんでしょうけど、そんな"引っかかり感"がもたらされるように...と意識しています。
− 確かに今泉さんの写真を見ていると、「ただ美しい」だけでなく「どんな意味が込められているんだろう?」とじっくり考えてしまうような魅力がありますよね。一眼レフも使っていたとお話されていましたが、スマホ撮影の頻度が高くなったのはどうしてですか?
今泉さん:やはり、手軽さ・瞬発力が一番の魅力ですね。一眼レフでの撮影もしていますが、スマホだとカメラとはまた違った画角が狙いやすいし、なにより視点の幅が一気に広がります。コンサバな煩わしさも一切排除(笑)。そして、エディットまでを見越して、手のひらの中ですべてを完結できるのが最も大きな魅力だと思っています。
今泉さん流!冬ならではのスマホ撮影のコツとは?
ここからは、実際にスマホ写真の撮影のコツを伺っていきたいと思います。写真を撮りたくなる瞬間のひとつに、「季節を感じたとき」があると思うのですが、「冬」をテーマに自分らしいスマホ写真を撮るコツを教えてください。
●とにかく外に出て冬探し
「日本は1年の4分の3はほとんど暖かい季節に属するわけで、そういう意味では冬は特別な季節。雪が積もったり湖が凍ったりする現象だけでも景色がガラっと変わる。他の季節では味わえないですよね。それだけでも特別感があるのですが、おすすめは標高が高い場所や自然が多く原始的な場所に行ってみること。特別な現象が大きなスケールで起きることで、冬の荒々しさ、冬ならではの包括力が強調され、より非日常感が増した写真を撮れますよ」
ちなみに、今泉さんのおすすめスポットの1つは、東京からも遠くない富士山の周辺だそう。山に登るというわけではなく、周りには幾多もの山々や湖・水辺も多くあり、人工物が一切ない壮大なスケールは、フォトジェニックな部分はもちろんのこと、初めて遭遇する場面も満載だと言います。また、そういうところへ向かう道中にも、何かしらの発見があるものだとも...。
●冬の意外なイメージを捉える
「冬って、澄んだ空気でキラキラして綺麗!」というイメージを持つ人も多いと思うんですけど、個人的には"退廃感"の強い季節だと思っていて。どんよりした分厚い雲、朝の濃霧、広大な枯れ芝の風景とか...。普通にみんなが思う良きイメージ・明るいイメージとは異なる"冬ならでは"の現象を追ってみるだけでも、印象的な写真になるのが冬なのかな...と思います」
●朝の時間帯を狙う
「写真は光がとても大事なのですが、朝の光はとても魅力的なのでぜひ活かしてほしいですね。とくに冬の朝の光は太陽が低い位置から照らすので、同じ景色を撮ってもなんともいえない柔らかさが出ます。とくに冬の早朝は冷えた空気と合わさって、からだも引き締まるので格別です。原生林や建物などの垂直物を活かしつつ分散されて入ってくる光も、シルエットと相まって特徴的になりますよね。また、霧が出た場合は光の拡散力は全然違います。とりわけ、朝は人が少ないので写真が撮りやすいのもおすすめの理由です」
●長くなる影にも注目
「影に注目するのも面白いと思います。冬は太陽の高度が低いので、同じシチュエーションでも影がビューンと長くなるんです。あとは洋服も夏と違って厚着で、影にコートや帽子などのボリュームや衣類の特徴的なエッジが出ますよね。輪郭を浮き出たせて抽象的な印象を表現したり、逆にぼやけた感じを狙うのも冬ならではの面白い魅力の1つだと思います」
どこをどう切り「撮る」か、スマホ写真の極意は目の付けどころ
今回、今泉さんのスマホ写真からお気に入りを選んでもらい、WALL DECORのCASUALでマットプリントにしました。
-WALL DECORにしてみていかがですか?
今泉さん:スマホの写真をA3まで大きくしてもとてもきれいですね。スマホの画面で見るのとはまた違った印象です。写真によっては絵画風にみえる、またはそう意図したようにみえることも分かって、非常に魅力的でおもしろいです。」
-普段写真をプリントされたりしますか?
今泉さん:いつでも出せると思うと、改まってプリントする機会もそうそうなくて。近頃は年賀状くらいです。でも、やっぱり紙焼きはデジタルの画面で見るより重要視しますよね。一方で、時勢的にもフォトブックはすごく素敵だなと思っていて。とはいえ、そうそう作れていませんが(笑)。僕らが子どもの頃はそういうものがなかったので、子どもや本来重要な家族の写真をそういったブックレット調にして「カタチ」に残せることは非常に羨ましい限りだと思います。こういった文化や技術がもっと早くに出ていたらな...と悔しい思いも大きいですね(笑)。
− 最後に、スマホ写真を上手に撮るためのコツがありましたら教えてください!
今泉さん:スマホ写真は誰でも撮れるものなので、テクニックというよりかは、写真をどう楽しむか、どういう写真が自分にとって楽しめるのかの「視点」や「想い」が重要だと思います。例えば僕の場合ですが、綺麗なところに崩れたところを見つけるとか、普通なら気に留めない、通り過ぎてしまうような風景をも気にする、またはそこに何かを見出す...というようなことです。これって、きっと何かの新しい発見、異なるものへのクリエイティビティにつながると思うんですよね。そういうことを普段から意識的に行って、やがて無意識化=習慣にしてしまうと良いんじゃないかなと思います。あと1つ。SNSが当たり前となった時代ゆえに写真・写活をライフスタイルの1つにするのであれば、「持続力 (Sustainable)!」。
今泉さん、素敵なお話をありがとうございました!
今泉 純 (いまいずみ じゅん)
自身の発想力・クリエイティビティを高めるため、東京を拠点に写真を楽しむ。2015年、アップル社による世界的なイベント「Apple iPhone World Gallery(後の"Shot on iPhone")」で国内外のビルボード、雑誌、Apple.comなどに採用されたのを皮切りに、数々の"Shot on iPhone"に選ばれる。
Instagram : https://www.instagram.com/ima_ju/
Writing by 大西 マリコ
Photo by 佐々木 謙一