写真や映像制作、コラム連載、クリエイティブ・コンサルティングなど、ファッションとテクノロジーの分野で幅広く活躍する市川渚さん。「興味を惹かれるものに出会ったら、納得いくまで突き詰めていく」という市川さんのスタイルが、多彩な活動に繋がっています。
前編で語っていただいたのは、写真との出会いや関わり方について。後編では、表現活動をするうえで共通する"自分らしさ"や、暮らしのなかで大切にしていることなど、市川さんのパーソナルな部分を掘り下げていきます。
いつも、未知のことを吸収していたい
----多彩な活動をされている市川さんですが、ものづくりに関わるうえで、どんなことに影響を受けていますか?
市川さん:すべてのものをフラットに見たいという思いがあるんです。だからこそ、強いクリエイティブや言葉などから、自分の意識を引っぱられてしまうような大きな影響を受けすぎないように気をつけている部分はあります。ひとつひとつの作業の冷静な積み重ねのなかから、いろいろなことを引き出していくっていう作り方をしているというか。
---- では、映画、音楽、本などで、生活のなかでよく時間を使うものはありますか?
市川さん:それは、時期によってさまざまありますね。若い頃は音楽にすごくはまっていたときもありますし、週2回ミニシアターに通って映画を観たり、突然本をたくさん読み出したりした時期もありました(笑)。ひとつ興味があるものを見つけると、そこから芋づる式に面白いことが見つかるから、どんどん熱中していってしまうんですよね。本や映画なども、興味のあることを掘り下げるためのひとつの手段、というか。それが自分のなかでひと段落するとパタッとやめて、また次に行く。そのくり返しです。
---- 最近は、どんなことに興味を惹かれていますか?
市川さん:今は仕事で必要に迫られて、ひたすら英語の勉強をしています。でも、英語の勉強をしながらも、やっぱりいろいろな方向に興味が出てきてしまうんです。たとえば英語の発音ひとつにしても、「どうしてこの発音になったんだろう?」ってその歴史とかを調べはじめてしまって。「違う、そこじゃない!」って我に返るという(笑)。そうやって、いつも何か自分の知らないことを調べたり、勉強したりしているのが楽しい。
「誰か」じゃなく「私」を基準に生きること
---- そうやってリサーチしながら新たな知識を取り入れていくことが、市川さんの得意なことでもあり、仕事にも繋がっているんですね。
市川さん:そうですね。自分で調べて、自分で納得しないと気がすまない性格なんです。
---- 好きでやっていたことが「仕事」になってしまうと、息苦しくなったり、葛藤したりすることはないですか?
市川さん:多分、「自分が本当は何をしたいのか」という目的を持っていることが大事なのかなと思います。私の場合は、発信すること自体は目的じゃないんですよね。単純に自分が「面白いな」と思うものに触れていたいだけで。その欲求が第一なんです。
16歳くらいのとき、読者モデルをやっていて、毎週スナップや撮影に呼ばれていたんです。でも、最初は洋服や着飾ることが好きでやっていたのに、だんだん「撮影のために服を買わなきゃ」っておしゃれが目的化していってしまって。なんのためにおしゃれをしているのか、何が好きだったのか分からなくなってしまったときがあったんです。
その経験が記憶に残っていて、誰かに認められるために何かをしたり、「自分以外のことを基準に行動するといつか無理が生じる」ということが常に頭の中にあります。行動や判断の軸は常に自分のなかにあるということを忘れない。今こういう時代になって、その大切さをより感じています。
---- そういう芯みたいなものがあると、迷わずにいられますよね。
市川さん:そうですね、迷わなくなる気がします。それでもいろいろな誘惑があって、忖度をしてしまいそうになるときもあるんですけど......。やはり私は「ビジネスだから」と割り切って行動できる器用なタイプじゃないので、よく考えたうえで興味のないものには「NO」と言ってしまいます。もう少し器用に生きられたらな、と思うこともよくありますが(笑)。
「自分でやってみる」ことからすべてが始まる
---- 写真、動画、文章などいろいろな表現をするなかで、感覚の違いなどはありますか?
市川さん:あくまでも何かを伝えるための手段としての表現なので、アウトプットの形が違うというだけで、感覚としては変わらないです。最近は文章の仕事も増えましたが、エッセイのように内から出る言葉を書いたり、自分のことについて語るのはすごく苦手で。チャレンジさせていただくこともあるのですが、旅行記やレビューの方が得意です。
仕事においては「市川渚」としての主観的な視点が欲しいという場合以外は、基本的にディレクションにまわって、裏方に専念しています。クライアントの実現したいことをクリエイティブで実現するときは、信頼できるプロフェッショナルなスタッフをアサインしていく方が、絶対にいいものができるから。
---- 市川さんは、ディレクターでもあり、クリエイターでもあるからこそ、両方の目線でものづくりができるんですね。さまざまな表現方法を使ってアウトプットをしていくなかで、共通する「自分らしさ」みたいなものはありますか?
市川さん:なんでも自分でやってみる、っていうのはあるかもしれません。興味を持ったら、まずは自分で調べて、自分でやってみる。
---- 情報として知っていても、やってみないと理解できないことって多いですよね。
市川さん:そうですね。自分自身で手を動かしていろいろなことをやっているからこそ、見ている人もそれを面白がってくれているのかもしれません。
やりたいことを、自分のペースで続けていく
---- 普段のライフスタイルについても少しお伺いしたいのですが、暮らしのなかで大切にしていることや時間ってありますか?
市川さん:私、寝るのが大好きなんです(笑)。本当は夜10時台には寝て、朝は6時半くらいに起きるのが理想。でも、気になったことを調べたり、作業をしだしたりするとどんどん時間が過ぎていくので、睡眠時間とのせめぎ合いになってしまう。常にやりたいことが小さくいっぱいあるので、睡眠欲とのやりくりに苦労しています。
---- 最近気に入っているガジェットやアイテムって、ありますか?
市川さん:最近よく使っているのは、首から下げるiPhoneケースですね。昔からこういう携帯ケースに紐がついているアイテムはありましたけど、今はiPhoneとカードだけ持っていれば出かけられる時代。ケースの種類も増えていて、すごく便利なんです。
日によって使い分けていますが、今日は友人が手がける「サガン・ヴィエンナ」というブランドのもの。クロアチア人と日本人のデザイナーが、オーストリアのウィーンで始めたブランドなんですが、この機能性と美しいデザイン、品のある佇まいが大好きです。
---- 最後に、今後やりたいことや、取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
市川さん:このまま、マイペースに生きていきたいです。コロナ禍で、仕事が進みづらい時期もあったんですが、ステイホームで家にこもって、これまでの働き方や生き方について考える時間が取れたのはとても良かったです。アドレナリン全開で以前のペースで仕事をするのは無理だなと感じて、少しセーブするような感覚で過ごしていたら心身ともにバランスが取れて「これぐらいでちょうどいいんだな」と気づくことができた。これからも自分がやりたいことにまっすぐに、生きていきたいですね。
市川渚さん (@nagiko)
ファッションデザインを学んだのち、海外ラグジュアリーブランドのPRなどを経て、2013年に独立。ファッションとテクノロジーに精通したクリエイティブ・コンサルタントとして国内外のブランド、プロジェクトに関わる。また、自らクリエイティブ制作や情報発信にも力を入れており、ジャーナリスト/コラムニスト、フォトグラファー、動画クリエイター、モデルとしての一面も合わせ持つ。
Photo by 大童鉄平
Writing by 坂崎麻結