暮らしに溶け込む写真の価値を問う連載、わたしの「写真と、ちょっといい暮らし。」第6回は、器や食の魅力が伝わる「テーブルフォト」を2013年頃から発信しつづけ、現在はInstagramで9万人以上のフォロワーを持つNana*さん。

彼女がテーブルフォトの撮影をはじめたのは、ある陶芸作家の作品に一目惚れしたことをきっかけに「日常のなかでそれを使う楽しさを知ってほしい」という思いが生まれたから。現在は撮影の仕事や写真術の講師のほか、作家ものの器や日用品を扱うライフスタイルショップ「AURORA」のオーナーもつとめています。

取材のためにお店(現在はオンラインのみ営業中)を訪れると、そこにはNana*さんがセレクトした家具や器、ガラスなどが並び、アパートの一室とは思えない美しい空間が広がっていました。「直感だけでなく、日々の生活で実践していくこと」によって自身の審美眼を磨いてきたという彼女に、これまでの道のりを聞かせていただきました。

アートのような陶芸作品に惹かれ、写真の世界へ

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---- 写真をはじめたきっかけはありますか?

Nana*さん:私の祖父は写真が好きで、生き物や昆虫をよく撮っていたんです。それを35ミリスライドでスクリーンに投影して家族で見るのが日常だったので、幼い頃から写真は身近な存在でした。自分でコンパクトデジタルカメラや一眼レフを買ったことで、さらに写真の面白さに目覚めていって。最初は祖父の影響もあって、花をよく撮っていましたね。今はデジタル一眼レフのほか、祖父が他界してからそのままになっていたフィルムカメラを受け継いで使っています。

---- テーブルフォトを撮りはじめたのは、いつ頃ですか?

Nana*さん:8年くらい前になるかと思います。陶芸作家・中園晋作さんの器に一目惚れしたことをきっかけに、「日常のなかでそれを使う楽しさを知ってほしい」と考えるようになって、自分でテーブルフォトを撮影して、ブログやSNSで発信するようになりました。当時はそういう撮り方をしている人はあまりいなかったんですよね。

それまではずっとデザインの仕事をしていて、プロダクトデザインを学んでいたこともあって、工業製品も好きでした。でも、中園さんの器は釉薬(ゆうやくー陶磁器の表面に付着したガラス層)の流れがそのまま生かされたような作品で、本当に1点1点まったく表情が異なる。そういうアートのような作品づくりに惹かれて、その魅力を写真で伝えたいなと思ったんです。

---- テーブルフォトも今では当たり前のようになっていますが、2013年にはもう現在のスタイルで写真を発信されていたんですね。かなり早かったんじゃないでしょうか。

Nana*さん:そうですね。そのおかげで作家さんご本人が写真を見て、展示会のための撮影を依頼してくださったりもして、趣味だった写真が仕事として広がっていきました。デザイナー時代から、カタログのために自分がデザインした商品を撮ることもありましたし、絵の経験もあったので、構図なども自然と身についていました。私には立体より平面の世界のほうが合っていたのかもしれません。

被写体にとことん向き合うことが、写真の魅力につながる

---- 写真を撮るとき、どんなことを大切にされていますか?

Nana*さん:まずは、被写体をよく観察することですね。どういうアングルで、どういう光が当たったときに魅力的に見えるのか、とことん向き合って考えます。そういう「綺麗な瞬間」というのは、普段の生活のなかでも無意識のうちに目がいく部分。被写体に真摯に向き合っていくことは、器や日用品への愛着にもつながっています。

---- 写真の撮り方に関しては、8年の間で変化はあったのでしょうか。

Nana*さん:やっぱり、何年も前の写真を見返してみると、「ちゃんと見れていないな」と感じますね。細部まで観察して撮るようになったのは、2015年頃に写真講座をはじめたことも大きかったと思います。人に教えるという機会をいただいたことで、自分自身も写真と本気で向き合うようになり、学ぶことが多くありました。ロジカルに教えていくことで、私自身の写真技術も向上していったのかなと思います。

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Nana*さんが参加された書籍『心を震わせる ドラマチック写真術』など

---- Nana*さんが写真を撮りたくなるのは、どんな瞬間ですか?

Nana*さん:自然光がつくりだす、光と影が印象的なシーンに出会うと、シャッターを押したいっていう衝動に駆られますね。仕事では被写体や背景、照明まで全部つくりこんでいくことが多いのですが、自然の光は一度きりで、同じ瞬間は二度と撮れない。自宅では早朝しか光が入らないのですが、その美しい一瞬に魅力を感じるんです。自分の好きなものたちと、その「光」を組み合わせて、いつも写真を撮っています。

使ってはじめてわかる「良さ」を伝えるお店に

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---- Nana*さんがオーナーをつとめるライフスタイルショップ「AURORA」は、作家さんの器や暮らしの道具、帽子や革製品などを扱うお店。訪れてみると、商品が実際の部屋のようにディスプレイされていて、イメージがふくらみますね。お店をはじめた経緯は?

Nana*さん:実店舗をオープンしたのは2017年でした。幼少の頃からものへの愛着やこだわりが強かったので、自分としては、好きなものを扱うお店を持つことは自然な流れだったんです。作家作品の魅力を写真で伝えながら、制作活動そのものをサポートできたらいいなという思いで、最初はオンラインショップからはじめました。

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ただ、作家さんからは「直接見て、手にとって選んでほしい」という声が非常に多かったんですね。なので、数年計画で実店舗の目標を立てて、今に至るという感じです。古いアパートの一室を自分でリノベーションして、一から空間をつくっていきました。

---- お店で扱うものに関しては、どんな基準で選ばれるのでしょうか。

Nana*さん:自分が自信を持っておすすめできる、長く使っていけるものが基準になっています。作家さんにお声がけする前に、まず自分で購入して、実際に使ってみることが多いんですよ。やっぱり料理を盛って、暮らしのなかで使ってみないと、本当の魅力はわからない。見た目の華やかさよりも、ずっとそばに置いておきたいと思えるような、生活に馴染むものに惹かれますね。

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お店で扱うものに関しては、写真を撮るときも「ありのままの良さ」を伝えられるよう意識しています。ガラスや器の微妙なニュアンスは、写真だとどうしても伝わりきらないので、そこは葛藤する部分でもありますね。ただ、どちらの仕事にも共通するのは、妥協せずに自分が納得いくものを提供するということ。どんなこともそうですが、丁寧に向き合うのがいちばん大切だと思っています。

写真は暮らしに馴染み、生活の一部になっていく

2109_02_08.jpgお店に飾られていた絵画のような風景写真

---- お店のなかにも、写真が飾られていますね。

Nana*さん:これは、斎藤朱門さんという風景写真家の方のものです。写真というよりも、絵画のような作品ですよね。店内には、ほかの作家さんの作品や空間に馴染みながら、お客さまにも楽しんでもらえるような1枚を季節に合わせて飾っています。

私にとって写真やアートを飾ることは、家具や器と同じで、暮らしの一部のような感覚なんです。そこにあることが当たり前で、自然と心地良さを与えてくれる存在。両親も美術鑑賞が好きだったので、私自身もそれが普通になっていました。

---- 今回、富士フイルムのWALL DECOR(ウォールデコ)を試していただきましたが、選んだお写真について教えてください。

Nana*さん:西山芳浩さんというガラス作家さんの作品を、冬の夕方の光のなかで撮影した写真です。太陽が低くなってちょうど光が差し込んでくる時間帯だったので、すごく綺麗で。ガラスの魅力をそのまま伝えてくれるような一瞬でした。実物も隣に並べているのですが、こうして写真を置いておくことで、日常のシーンがイメージしやすいですよね。お客さまに、器の魅力がより伝わる1枚になればいいなと。

---- Nana*さんが選ばれたのは、カジュアルタイプのスクエアですね。ウォールデコを使用した感想はいかがですか?

Nana*さん:すごく強い光が入る部屋なので、マットなタイプをお願いしたことで反射による写り込みがなく、どのアングルでも綺麗に見えるのが嬉しいです。写真の雰囲気にも馴染みますし、器と並べたときも、お互いを引き立てるような程よいサイズ感。壁がとても古くて穴を開けられないので、置けるタイプなのも気に入っています。

---- 最後に、Nana*さんにとっての「心地いい暮らし」について教えてください。

Nana*さん:言語化するのは難しいのですが、自分のライフスタイルにフィットするものを選び、それを実践していく先にあるのかなと思います。直感的に選ぶことも大事ですが、自分に合っているかどうかを熟考するのもとても大切なこと。単純に好きだから合うわけではなく、使ってみてはじめて答えが出る場合も多いです。

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私にとって暮らしを発信することは、ライフワークのようなもの。これからも暮らしのなかで、自分がいいと思うものの「良さ」を、写真を通して伝えていきたいです。

Nana*さん

料理や器の魅力を伝える「テーブルフォト」を中心に活動するフォトグラファー。SNSでの発信、商品広告の撮影のほか、NHK文化センター青山教室で「AURORA写真塾」の講師を担当。また、作家の器と暮らしの道具を扱うライフスタイルショップ「AURORA」のオーナーもつとめている。著書に『心を震わせる ドラマチック写真術』など。

Photo by 千葉顕弥

Writing by 坂崎麻結

WALL DECOR(ウォールデコ)
お気に入りの写真をパネルにできるサービスWALL DECOR。どんな写真にもマッチするシンプルなデザインで、飾る場所も限定しません。Nana*さんは、お店の雰囲気に合わせてカジュアルのスクエアをセレクト。光が差し込んでも反射しないマットなタイプは、いつ見ても変わらない美しさを保ってくれます。
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